君とラムネ | ナノ

「うわあああ!」

ジリジリとけたたましく鳴り響く目覚まし時計を見ると既に起きる予定の時間をとうに過ぎていた。机の上を見ると紙切れが一枚あり、『何回も起こしたけど俺も遅刻しそうだから先行くな』とジャンが書いたであろうメモが置いてあった。早く寝た筈なのに、と悔しがりたいところだが、今は急いで制服に着替えて学校へ向かう準備に専念する。朝ごはんは仕方ない、諦めよう、と冷蔵庫を開けようとした手をそっと下ろした。戸締まりを確認して自転車が置いてある場所まで一気に駆け抜ける。籠にリュックを投げ入れ、私は全力でペダルを漕いだ。



「あれ、ナナコ来てたの?」
「マルコ…練習、試合は…どうなったの」

息も絶え絶え学校に到着すると、体育館付近でマルコに出会った。寝坊してジャンに置いてかれたから、急いでここまで来たことを説明すると、なんと相手校が交通渋滞でバスが進まず、1時間近く遅れて到着したということでまだアップの途中で試合は始まっていないらしい。ある意味ラッキーだった。
一年生は二階から見ていることになっているらしいため、一緒にジャン達と見ないか、とマルコが誘ってくれた。だから私はそれに同意し、ついていくことにした。そこには保護者やバスケ部ではない生徒などもいたため安心した。


「お前、運がよかったな」
「ジャン!もっと一生懸命起こしてくれてもよかったんじゃないの!」
「ナナコが叩いても起きねぇから仕方なかったんだよ」
「また叩いた!私のこと叩いたのか!」

そんな口喧嘩をマルコが制し、ベルトルトは苦笑している。ライナーが「周りが見てるからそれくらいにしとけ」と言ったため、一先ずもうすぐ試合も始まるので落ち着くことにした。前にもこんなことあった気がする。私はジャンから離れるように座ろうと思い、一番奥に居たライナーの隣へと行った。
リュックを下ろしてから座ると、喧嘩するなよ、と肩を軽く叩かれた。ライナーは学級委員も務めており、クラスの兄貴的存在だ。ここでも早くジャンと私を仲直りさせたいのだろう。



練習試合も無事終わり、お昼休憩をしてから3時まで練習をするらしい。さっきまでジャンと喧嘩したり、試合ではしゃいだりしていたため気を紛らわせていたが、お腹がとても減った。流石に朝食抜きはきついものだ。しかし、お弁当も何も無い。みんな何かしら食べるものを持ってきていたため、仕方なく近くのコンビニまで買いに行くことにした。売店は連休中、お休みなのだ。
いってくるね、と立ち上がると「…俺も行くわ」とジャンも立ち上がった。私はそれに対して何も言えずに先に体育館から出た。ベルトルトが「気を付けてね」と言っていたのが遠くから聞こえた気がした。



気まずい。私はただそれだけ思った。よく考えてみれば、ジャンは時間ギリギリまで起こしてくれようとしたのだ。それなのに。叩いたのはちょっと許し難いけど、起きられなかったのは自分のせいじゃないか。しかも、そのせいでジャンはお昼ご飯を買う時間が無くなってしまったのだろう。だから今コンビニに行くはめになったんじゃないか。

「ジャン」
「いきなり止まるとぶつかるだろ…で、何だよ。今度はついてくるなとか言うんじゃねぇだろうな?仕方ねぇだろ、俺も昼飯無いんだからよ…」
「そうじゃなくて、あの、ごめんなさい」

後ろを振り向き、頭を下げて謝ると、ジャンは「別にもういい」とだけ言って先に歩いていってしまった。やっぱり怒ってるのかな、許してくれないのか。またお互い無言でコンビニまで歩いていく。やっぱり気まずい。もうコンビニの大きな看板が見えているのだけど、何故か今はそこまで果てしなく遠く感じた。



会計を済ましてコンビニから出ると、既にジャンは外で炭酸飲料を飲んでいた。どうやら待っていてくれたのだろう。すると、袋からアイスを取り出して私の目の前に突き出してきた。「さっきお前ずっとアイスケース見てただろ」とジャンは言った。どうやらばれていたらしい。
朝、財布の中身を確認せずに家を飛び出してきてしまったため、数百円しか入っていなかったのだ。だからお昼ご飯と飲み物を買うためにアイスを諦めることにしたのだった。こいつ、見てたのか…

「ありがと」
「別に。さっきは、その…悪かったよ」
「私こそ責めてごめんね。起こしてくれたのに」

一口あげる、と隣を歩くジャンにアイスを向けると「一口だけかよ…まぁ貰うけど」と言いながらだいぶかじられてしまった。でも、これは元々ジャンが買ったものだし気にしない。大好きなソーダ味。私も少しかじると、口の中にひんやりとした甘さが広がった。

体育館に戻ると、「仲直りしたみたいだね」とベルトルトがにっこりと笑った。マルコとライナーも安心したような顔をしている。


「ナナコちゃん!」

さぁ、食べよう!とサンドウィッチの包みを開けようとした瞬間、クラウス先輩がやってきた。私は立ち上がって先輩のところへと小走りした。先程の練習試合は本当に活躍していたと思う。お疲れさまでした、と言うと「本当に来てくれたんだね、ありがとう」と笑ってくれた。試合に出た人は午後の練習は出ないためもう帰るらしい。
また今度やる時にでも来てね、とだけ言って他の先輩達と帰ってしまった。


「先輩とナナコって知り合いだったの?」
「そういや、何で今日は来たんだ?」
「あぁ、えっと、ちょっと友達になっただけだよ。試合見るの好きだし、ね!」
「ふーん」

戻ってくると、マルコとライナーに質問をされたが、最近友達になっただけなので特に言うことが無い。ベルトルトに至っては怪しんでいるけれど、本当に何も無いのだ。ジャンは何も言わずに黙々とおにぎりを食べていた。私は適当に三人の質問を受け流し、包みを開けてやっとたまごサンドを口に入れることができた。


ソーダ色に融解



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