君とラムネ | ナノ
いってらっしゃい、と両親達をジャンと一緒に見送ると、ジャンに「うちの子のことよろしくね、ジャンくん。料理とか家事苦手だから二人で協力してね。あとは…」とジャンに余計なことを吹き込むお母さんを制し、お父さんが待つ車の助手席に無理矢理押し込んだ。心配なのは分かるけど、あれから一週間、夕飯の手伝いをしたりしてなるべく自炊できる術を学んだつもりだ。あくまで、基本ができる程度まで。中学校の頃、家庭科は苦手な方であったため、調理実習では苦労した。


「よし、じゃあお母さん達も見送れたし、とりあえず二度寝しよ」
「おいナナコ!俺明日と明後日は部活なんだから早めに課題終わらせるぞ」

えぇー、と駄々をこねると「せっかく早く起きたんだからやるぞ」とずるずるジャンに家へと引きずられていった。乙女を引きずるとは何事か、と問うと「寝癖でパジャマのまんま外出てきてる奴が言う言葉か」と頭を拳で軽く殴られた。相変わらず私は女の子扱いをされなかった。さっさと着替えてこい、と言ってジャンは自分の家に勉強道具を取りに帰った。私は不貞腐れながらクローゼットを漁って、適当にショートパンツとTシャツを取り出して着替えた。最近急に暑くなってきたため、日中の家の中ならTシャツでもちょうどよかった。



「で、数学だっけ?お前が言ってたやつ」
「そうです。あと昨日出された化学のプリントも…」
「…英語は大丈夫なのか?」
「アルミンがこの前教えてくれたから多分、大丈夫…」


リビングの椅子に座ってテーブルを挟んで向かい合う。私は教えてもらう立場なので、敬語になってしまう。ジャンの機嫌を今損ねるわけにはいかないのだ。「じゃあさっさと始めるぞ」とジャンは数学の教科書と問題集を開いた。私は数学だけは本当に苦手なのだ。一問目を解こうとしたのだが、シャーペンを動かすことができない。何故こんな将来使わなそうな計算ばかり解かなくてはならないのだ、と心の中で叫びながら問1と書かれた部分を睨んだ。ふと前を見るとジャンはすらすらと右手を動かし続けていた。やっぱりジャンって真面目な時、真剣に物事に取り組んでいる時はかっこいいんだよね。例えばバスケをしている時。なんで喋るとあんな暴言ばかり吐いてくるのだろうか。少し寡黙だったら、いや、黙っていたら顔が怖いか。もう少し口調がマルコとかアルミンみたいにやわらかかったら。そうすればなかなかの好青年なんじゃないか?ミカサも少しはきっと見てくれる筈…あ、でもジャンが僕とか言ってたら違和感がありすぎて笑いが…


「ナナコ、何で俺の顔見て笑ったりしてんだよ。問題一つも解いてねぇじゃんか!」
「あれ?私そんなにジャンのこと見てた?しかもそんな進んだの?」
「ったくよ、最初から分かんないなら早く言えよ」

やっぱり口が悪い。けど面倒見はいい。彼は今のままがちょうどいいのかもしれない。それから少しずつ教えてくれたため、無事昼過ぎには数学の課題を終わらせることができた。疲れたしお腹も空いてきたため、一度勉強会は中断してお昼ご飯を食べることにした。さっき勉強を教えてくれたため、私が料理をすることにした。少しは女の子であることを認めさせてやろうとキッチンで一人格闘していた。その間にジャンはソファーに座って、テレビを点けて適当にチャンネルを回していた。


「はい、オムライスできた!」
「…お前もやればできるんだな」

「もっと見た目酷いの出てくるかと思った」と言われて多少頭にきたけれどここは冷静になれ、と自分に言い聞かせた。結構自信作だったりする。だから食べられないなんてことは無い筈だ。ジャンがスプーンで掬って一口食べるのをじっと待った。

「なんだ、ちゃんと食える」
「そこは素直に美味しいと言え」

これで少しは女の子っぽく見えるでしょ、と聞くとジャンはニヤリと笑って「どうせ作れんのこれくらいだろ」と痛いところを突いてきた。そうなのだ、一週間という僅かな期間しかなかったため、あまり練習することができなかったのだ。その他には炒飯とか簡単にできるものくらいしか作ることができない。
ジャンこそ何か作れるのかと反撃したら、返す言葉が無いらしく私から目を逸らした。だから私は勝ち誇ったようにジャンのことを見下してやった。でもよく考えると何も勝っていない。どちらも似たり寄ったりなのだから。お互い困っていたがジャンが「食い終わったら化学やるぞ」と急いで残りのオムライスを口に運び始めた。



なんとか化学のプリントも終わらせ、連休中の課題は残り世界史の穴埋めと英語のプリントだけとなった。これは教科書を見ればできるものだし、英語はアルミンが教えてくれた。アイスとサイダーを奢る約束を思い出したため、一緒にコンビニまで買いに行こうとまたテレビを見ていたジャンを引っ張り出した。ついでに夕飯も買ってきてしまおう。どうせこの二人はまともなものが作れやしないことがさっき分かった。明日は頑張ってみるけど。

パーカーを羽織って財布と携帯を持ち、家に鍵をかけてから二人でコンビニへの道を歩く。ずっと携帯は部屋に置きっぱなしだったため、今日初めてメールを確認した。まずはお母さんとお父さん。無事昼過ぎに目的地に着いたよ、と丁寧に写真付きのものを送ってきた。ジャンのおばさん達と楽しそうに笑っている。たまには大人だけの旅行もいいものだろう。煩い二人が居なくて清々しているかもしれないと思うと少し悲しくなった。
次にコニーからだった。やっぱり数学が分からなかったらしい。今日ジャンが教えてくれたから今度教えてあげるね、と返しておいた。
最後はクラウス先輩からだった。この前放課後に交換してからたまに連絡が来るため、メールのやり取りをしている。明日、練習試合が高校の体育館でやるから見に来ないか、という内容だった。


「ジャン、明日って練習試合なの?」
「おう、何で知ってんだ?ナナコに言ったっけか?まぁ一年は出れねぇんだけど、午後から試合出てない奴は練習あるからよ」
「そうなんだ…ねぇ、私も明日見に行っていい?」
「別にいいんじゃねぇの?でも朝早いからちゃんと起きろよな」

はーい、と返事をしてから先輩に返すメールの内容を考え始めた。練習でも試合は試合。見るのがとても楽しみだ。だからちゃんと明日は起きられるように早く寝ようと思った。ジャン達が出られないのは残念だけどなぁ。

うーん、と悩みながら打っては消してを繰り返しているうちにコンビニへと着いてしまっていた。私は携帯を一度閉じて、食べたいものを探した。ジャンはこれとこれな、と自分が欲しいものをさっさと持ってきた。私はまだ選んでいる最中なのに。うわ、このアイスちょっと高いやつじゃんか。ジャンの奴め、いくら奢りだからって調子乗りすぎだ、と思ったのだが数学を終わらせることができたのは紛れもなくジャンのおかげだ。今日だけ買ってあげよう、私もこのアイス食べたいし、デザートとして一緒に食べようじゃないか。


チョコミントで乾杯



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