君とラムネ | ナノ
後日、ミカサ達に何故駆逐部にしたのかを聞いてみると、エレンはとにかく部活名に惹かれたらしい。この前漫画の話をした時に、駆逐をする物語の漫画が好きだと言っていたため恐らくそれに影響されたのだろう。ミカサはもちろんエレンが入ったから。しかし彼女は剣道部と掛け持ちするらしい。どれ程エレンを気にかけているのだろうか…。アルミンは特に理由は無いらしいのだが、二人がいるなら、と入部を決めたらしい。


今日から体育ではこの時期お馴染みの体力テストが始まる。同時に行われる身体検査も私達一年生は明日の予定だ。体重測定、女の子ならばこれ程嫌なものは無いだろう。私もその一人だ。更衣室で体操着に着替えている間に何人かが既に「明日なんかこなければいいのに」や「体重増えちゃった…」などと愚痴を漏らしていたのを耳にした。アニやミカサは気にもしていないような素振りで淡々と着替えていた。そこで私は見てしまったのだ。

「ミっミカサ…!?」
「どうしたの、ナナコ」

何事かと周りで着替えていた子達も私の方を見た。ミカサは表情一つ変えずに首を傾げる。とても美しい、しかしその見事に割れた腹筋を交互に見るともう何が何だか分からなくなってしまった。軽くパニック状態に陥ってしまったのだ。ジャンでもこんなに割れていない。あ、誤解しないでほしい。あいつは部活が終わって家に帰ってきて平気でシャツを脱いだりするし、毎年一緒に海へ行った時とかにも何回も見ている。所謂不可抗力というやつだ。一人脳内で様々な考えを巡らせていると、アニに大丈夫?と肩を叩かれたためやっと現実に戻ってくることができた。「それにしても凄いですねー!」とサシャが珍しく食べ物以外に興味を示した。何かやっていたんですか?と質問すると「別に、私はエレンを守るために…」と言っていた。だから剣道を始めたのか、と一人納得した。その場に居た人殆どがミカサの発言できょとんとしていた。


「私もそれだけ割れてたらなぁ」
「そんなに割れてなくても充分だろ、ナナコ」

部活を引退してから半年以上が経ち、ある程度あった筋肉も脂肪へと変わってしまっていたのだ。Tシャツの上から自分のお腹を触っていると後ろからユミルが私の脇腹を掴んできたため、「ぎゃああ!」と叫んでしまった。可愛さの欠片もない。ケラケラと笑っているユミルに私達の女神であるクリスタがこら!と怒っていた。この二人はサシャがよく一緒に居るため最近仲良くなったのだが、私の反応が面白いからという理由でユミルはいつもちょっかいばかり出してくるのだ。その後いつもクリスタが説教をしているのだけど。
私達が騒いでいる間に「私は先に行くからね」と既に着替え終わっていたアニが更衣室から出ていった。時計を見ると、授業が始まるまであと数分と僅かしかなかった。ここから集合場所である第一体育館まで何気に距離があるため、着替えが中途半端な私は慌て出した。他のみんなも既に体操着になっていたため、次々とドアを開けて出ていってしまった。



「すみません!遅れました!」

体育館に全力で飛び込んでいったが、鬼の体育教師であるキース先生に許しを乞うこともできず、皆が説明を聞いている間は体育館を走っていろ、と怒鳴られてしまった。体育は貴重な成績稼ぎなのに。その時ジャンと目が合ったが、口が「馬鹿」とはっきり動いているのが分かり更にむかついた。

体力テスト初日は腹筋と長座体前屈、握力といった簡単なものからで、測定をし終えたら各自体育館内でできることをして授業時間が終わるまで過ごせ、と言われた。キース先生はこの後緊急の職員会議に行かなくてはならないらしく、最初に数分見回った後にすぐ体育館から居なくなった。一応測定は成績に関わるためみんなきちんとしたものの、それからは自由ということで、端の方で固まって談笑している女の子のグループやバレーボールでトス回しをして遊んでいる人たちなど様々だった。ついでに私は端の方でぼけーっとしながらアニと座っていた。「ねぇ、アニー」と呼び掛けると「ナナコどうしたの」とどこか抜けているように返事をした。真面目に測定をしたから疲れているのだろう。それからミカサがとにかく凄かったという話をした。どの項目も男子以上の素晴らしい記録を出し、みんな大盛り上がりだったのだ。勉強もできるしスポーツも万能とは。本当に羨ましい。

そんな話をしていたら、バスケットボールがシュッと網をきれいに潜り抜ける音がしたことに気付いた。いつの間にか体育館はバスケのフリースロー対決が繰り広げられており、歓声や拍手で皆が一体となっていたのだ。私も立ち上がり、反対のステージの上へと行き、ミカサとアルミンが座っている横に腰を下ろした。どうやらジャンとライナーが元バスケ部キャプテン対決をしているようだ。初めはベルトルトやマルコ、コニー、エレンを含めて試合をしていたが、コニーがお前らのどっちが強いのか、と疑問を投げかけた結果今の状況になったと先程まで審判をしていたアルミンが説明してくれた。ミカサはエレンが居たから見ていたと言った。でもジャンはきっとミカサが見てくれていると思って頑張っているのだろう。いいところを彼女に見せるために。正直、普段はむかつくようなことばかりしてくるけれど、バスケをしている時のジャンは恰好いいと思う。だから少しはいいとこ見せられるんじゃないかな、と思いながら様子を見ていた。



結局フリースロー対決は授業終了を告げる合図であるチャイムによって遮られ、決着がつかずに終わってしまった。放課後、ジャンが部活を終えるのを待つために適当に時間を潰して過ごした。始めは珍しく明日の英語の予習なんかした。アルミンがたまたま残ってくれて手伝ってくれたのだけど。本当に分かりやすいし、いい子だと再確認した。アルミンが帰ってから段々と辺りが暗闇に染まっていき、廊下や教室の電気の明かりが目立ってきた。そろそろかと思って校門で待っていることにした。



「部活お疲れさま」
「ナナコ、待ってたのか?」

メール送っといたのに、と言うとジャンはポケットから携帯を取り出して確認をした。すると「悪い、気付かなかった」と珍しく素直に謝ってくれたのだ。あのジャンが。体育の時のことを直接後で怒ってやろうと思っていたのだが、何だか拍子抜けしてしまい怒らず何も言わないことにした。でもこれじゃあ待っていた意味が無いため結局一緒にのんびりと歩いて帰ることにしたのだ。何で待ってたんだよ、とつっこまれたが別になんでもないよ、と適当に返しておいた。ジャンは納得していない顔をしていたけれども。

「今日の対決、楽しそうだったね」
「おう、久しぶりにライナー達と自由にバスケできたからな。部活中じゃ自由にできないし。それに…ミカサも居たし」

電柱の灯りに照らされそう言うジャンの顔は少し赤く染まっていた。本当は、ミカサはただエレンが居たから見ていただけなのだけど、そのことは口に出さずに心の中にそっとしまっておくことにしよう。


そんな君の一面を知る



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