部屋は蒸し暑い。室温がどんどん上がっていくのが分かるようだ。
日が入らないよう、昼だというのにカーテンを引いて薄暗い部屋、それなのに。
温度はいっこうに下がるどころかむしろじわじわと高くなっていく。

「やってられないね。」

自分の居る対角の角から、呆れたような声がした。

「温暖化とか、年々気温が上がってるとか言うけどさ、そもそも東京って場所がひどいんだよ。自分の住んでたとこはこんなんじゃなかった。」

少し皮肉めいた彼の口ぶりはいつもの事だ。細身で長身のハクトは、組んでいた長い足を投げ出す。そして続ける。

「そろそろ帰ろうと思うよ俺は。
もうやることも済んだし、いい加減ここにはうんざりだからね。煩わしいくらい騒がしいくせに関係は希薄だし、物騒だし、居心地の悪さは最高だな。

でも、帰るなら出来ればハルカも一緒が良いからさ、少しはもう思い出したろ?」

子供のように拗ねた口調で、ハクトが私に問う。
彼の顔には長い前髪が目の上にまで掛かっているので、表情はあまり伺えない。
しかしこの質問を投げかける時の彼はきっと、不機嫌そうな顔をしているに違いない。私はもう何度目か、この問いに首を振る。

「悪いけどまだ思い出してはいないよ。
だから、もう少し聞かせてくれないか。」

私がそう言うと、はぁっと大きなため息をついて彼は仰向けになった。

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