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嵐や何かしらの心配もなくその年の3月の海は、とても穏やかだった。
肌に少し暖かさを覚える晴れの日に、
少しの波立ちも見せずにただ、ゆるゆると寄せては還す水面は、透ける様に鮮やかな青が続いていた。
その下には、“ひと”のいない世界と云うものが、透明な水の薄いベールを被って何処までも展がる。
鱗を散らす魚、ふらふらの海藻、ぎゅうぎゅう詰めの微生物。
「この混沌の海に、あの子が居る。」
眼を閉じた。
静かな風の音が耳に届いた。
「3月、2日。」
あの日も海はこの様に、
ひどくひどく、穏やかであったのだ。
白昼夢
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