「そこまで忘れてるなんて随分馴染んだんだな、君の一族は。」

到底信じられないという心情を多分に匂わす口ぶりで彼は言う。

「それでも本能に刻まれた情報だからきっかけさえ出来ればすぐ思い出すと思ったんだけどなぁ。

何度も言うが、俺達は地球にもともと居なかった生命で、この星の【猿】を見本に擬態して生きてきた。更に自己暗示で自らその事を一時的に忘れるようにし、自然に種族間の交配も進ませた。そうして今地球に住んでいる【人間】が出来たって事さ。

そして俺は、外部からずっと監視を続けていた一族なんだ。最近地球に来たばかりの【擬態した人間】であり、【猿】の遺伝子はない。

いずれは地球と【人間】は俺達が管理、整備する。ちょっと増えすぎたからな、どのみちこのままじゃ未来もないだろ。」

そこで彼はにやと笑った。

「でも擬態がなかなか上手いだろ?真似は昔から得意な方だったんだ。
模倣は全ての基本だからな、よく練習したよ。この姿も、割と気に入ってる。


‥あ、
そう言えば今日は、日テレでモノマネ王座選手権やる日だったな。」

ふいに声が軽くなる。
彼が長い前髪をかき分けると大きな目が覗いて。きらり。と輝くように見えた。
そして彼はその場に横になるとくつろいだように伸びをする。まるで黒猫のようだと私は思った。

私の、他人の家で、我がもの顔でくつろぐ彼に、まるでかえる気はないのだ。

私はどこかほっとしたような気持ちになると、また元通り、膝の上の雑誌に目を落としたのだった。




end

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