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ぷかぷかと六畳の洋室に煙が漂う。
ふぅーっと息を吐いて大して面白くも無いテレビ番組を眺めてる一人の男の横にちょこんと座って、手で周りに纏わり付く煙を払った。
「楓くん、この部屋煙いよ。」
部屋に入って初めて言葉を発するといつの間にとでも言いたげに目を見開いた。
「さっき来たんだよ。隣に居たのに。」
まだ聞かれていないけれど答える。男は「そうか」と言うとフィルターに口をつけて、またふぅーっと煙を吐いた。
「煙いってば。」
「出てけば良いだろー」
銀色の灰皿にぐりぐりと擦りつけて火を消す。
まだ結構残ってるのに消したのは彼なりの優しさなんだろう、本当嫌になる。
「…換気しなよ。」
「寒いからやだ。」
「楓くんのばか。」
ぷぅと頬膨らませて外方を向くと彼は膨らんだ私の頬を指で押した。
空気が唇の外に出てぷぅと音がなった。それが何だかおかしくなってあははと笑う。
仕舞いにはひーひーとお腹を押さえて笑っていた彼は、手元の小さな箱を手にとって一本それを取り出した。
「また吸うの?」
聞くと返答の代わりにわっか状の煙を吐いた。
その返答の仕方にイラついて、「このニコチン星人めっ」と罵った。彼はなんだそれと笑った。
それからぷかぷかと浮かぶ煙を見て、何を思ったのか私は言った。
「私も吸いたい。」
彼は私を一瞥してから私の顔に煙を吐いて「だーめ」と言った。
「なんでよ」
私が返すと彼は「お前みたいなのが吸うもんじゃねーの。」と言った。
子供扱いされたことが腑に落ちなくて、私は引き下がらなかった。
「一口だけっ!」
しつこくそう言うと半ば諦めた様にほらとフィルターを私に向けた。
それに口をつけて吸ったら案の定噎せた。
「なにこれまずい」
「だから言ったろ、未成年が吸うもんじゃ無いって。」
そう言って彼はまた煙を吐いた。
私は彼の言葉に頭に血が上った。
「…楓くん。私の事いくつだと思ってる?」
「え、19じゃねーの?」
「じゃあ誕生日は?」
「5月位?」
沸々と沸いて来る怒りにわなわなと手が震えると同時に今までに無いくらい呆れ返った。
「今日だばか楓っ!」
部屋を出ると空気が綺麗だった。
(纏わり付いた煙草のにおいは消えないけど。)
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はっかはたばこがきらい。