がしゃんと呆気なく割れたそれに目を向けないで、気にもせず僕は目の前の素直じゃないお嬢様に笑顔を向けた。
「何笑ってるの。貴方早くそれ片付けなさい。」
「ここの使用人は客に片付けさせるのかい?」
「おあいにくさま。ここには貴方を客だと思ってる人間なんて居ないのよ?」
はっとお嬢様は鼻で笑った。
僕はそうかと肩を竦めた。全然気にしてなんか居ないけど。
「でも僕は片付ける気なんてないよ?僕これでもお坊ちゃんなんだから。」
「っち。ほざいてなさい。」
お嬢様が舌打ちだなんて物騒だねと言えばお嬢様だってただの人間よと言われた。そりゃそうかと僕は納得した。
「ところで、貴方はいつまでここに居座るつもりかしら?私としてはそうね、一刻も早く死んじゃったりしてくれたら嬉しいのだけれど。」
にこりと笑う。笑ってないけど笑う。
「ああ、もしかしてやっぱりあの紅茶毒とか入ってた?割って正解だった。」
「命拾いしたわね。早く死んで。」
「だんだん言葉遣いが荒くなってるけど。」
「そう?気にしないで。」
僕はそうすることにした。
「それじゃ、そろそろ帰ろうかな。」
「やっとね。帰り道にはせいぜいお気をつけて。」
「ああ、そうするよ。」
僕はそう言ってお嬢様の手をとると指先にキスを落とした。
お嬢様はそれを見届けると口角をあげた。
「私の勝ちみたいね?」
しかし僕には何も起こらない。
「いや?僕の勝ちみたいだよ。」
そう言って今度は唇にキスを落とした。
お嬢様は永遠の眠りにつきました。
(甘い甘い毒の塗られた果実でね。)