「素敵な傘だな。」
こんな幼い子に声を掛けたのは別に幼女趣味な訳ではない、子供は寧ろ大嫌いだった。
なのに小さなこの少女に声を掛けたのは傘をさしていたからだ。空は雲一つない快晴だと言うのにそれが不思議でしょうがなかった。
いつもならスルーしがちのそんな些細なことだけれど、今日の俺はそれが物凄く気になったのだ。
「ありがとう。ところでおじさんだあれ?」
小さいわりには流暢な言葉使いだったが、まだ20代に満たない俺をおじちゃんと言った辺りやっぱり子供だった。
「遼だけど…」
「はるか?はるかはロリコンなの?」
うん。やっぱり子供は嫌いだ。あまりにも不躾過ぎる。
「おかあさんが言ってたの。ちぃにはなしかけるおじさんは皆ロリコンだから近づくなって。」
まぁ、確かにそうなんだが、もうちょっと教え方を考えるべきじゃないのか。
「ねぇ、はるかはロリコン?」
「ちげぇよ。ちなみに言うと俺はおじちゃんじゃねぇ。」
「ふぅん。安心した。」
これで安心されても些か心配なものがある。
「なぁお前…」
「お前じゃない。ちぃだよ。」
「…ちぃ、はなんで傘さしてるわけ?」
「…」
「…?」
今まで口うるさいものがいきなりだんまりしたせいか、一瞬戸惑う。けれどすぐに先程の様に戻ったから気にしなかった。
「ちぃが傘をさすのは雨が降ってるからだよ。」
「?雨なんか降ってねぇよ。」
「降ってるの。ずっと…」
ずっと止まないの。
次の日俺はいつもの様に起きて、右手にコーヒーを持ちながら今朝の朝刊に目を通した。
「なんだぁまた轢き逃げかよ。」
何気ない記事をみて最近増えてるなぁと感じるだけであとは何もない。所詮他人事であるから、スルーする。いつもの生活だった。
《またも轢き逃げ。被害者は××県〇〇市の笹木智佳(6)、笹木智子(35)》
なんてことない朝のニュース。
「まだいんのかよ。」
「すてきな傘でしょう?」
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