「私ね、貴方が嫌い。」
「はぁ…」
彼女との初めての会話がこれだった。
彼女はとても目立っていた。
それはとても良い意味でもあるが、とても悪い意味でもあった。
まず腰まである漆黒の長い髪。瞳は透き通る様に蒼く、肌はまさしく病的な白さ。
顔立ちは物凄く整っていたいて、一言で言うなら美人だった。
だけど彼女、物凄く性格がよろしく無い…らしい。
外見は見れば明白だが、こればかりは言葉を交わしたことの無い俺に知る由はなかった。
「ねぇ、聞いてる?」
「一応…」
「一応って何?そう答える人はたいてい人の話をきいてないんだから…私、曖昧な発言って大嫌い。」
俺と彼女しかいない放課後の教室。
彼女は堂々と教卓の上に腰掛け、子供の様に足をぱたぱたと動かしていた。
よく見ると彼女が履いているのは生徒用の上履きでは無くて、来賓用の緑色のスリッパだった。
パサッと彼女の足からスリッパが落ちて、俺はそれを拾いあげた。
「上履き…忘れたんですか?」
「私がそんなヘマすると思ってんの?」
キッと睨まれる。
それから指でスリッパを置くように言われて、彼女の前に置けば彼女は教卓からその上に着地して、黙ってスタスタと彼女が日々座っている席まで行くと、袋から何かを取り出した。
「見て。」
彼女はそう言って袋から取り出した真っ黒になった上履きを俺に見せた。
「いじめですか、納得です。」
「うーん。私、いまいち貴方が掴めないわ。けど、まぁ…そう、低能達の馬鹿なゲーム。」
「それ見てたらイカスミパスタ食べたくなりますね。」
「あら、じゃあ食べに行く?」
「奢りなら。」
「ちょっと死んで来なさいな。」
「冗談ですよ。」
「本気の目だったわ。ねぇ、これどうなってたと思う?」
「真っ黒で下駄箱じゃ?」
「ふふっ馬鹿らしいわよ。多分昨日からでしょうね、バケツに浸けてあったのよ。」
「へぇ…」
「あー馬鹿らしい」と彼女は暫くクスクスと笑っていた。
それから、笑う事に飽きたかの様にピタと笑う事をやめて、その透き通る様な蒼い瞳で俺を見た。
「私これやった犯人を突き止めようと思ったの。」
「そうですか、見つかりました?」
「えぇ、見つけたわ。」
彼女はまたパタパタと音をたてて、今度は俺に近づくと無表情だった顔を俺に近づけてゆっくり口づけをした。
「私、貴方が大っ嫌い。」
嗚呼、馬鹿らしい。