「一つお話をいたしましょうか。」



電車の中でたまたま隣になった男の人に言われた。
外見はどこにでも居そうな会社員って感じだが、今この時間にこの電車に乗っているということはきっと会社員ではないのだろう。
この電車は私でもよくわからないくらい田舎の方に行く電車らしい。
だからこの電車に乗っている人は少ない。
私が乗っているこの車両にだって隣の男と私の二人しかいない。



「なんのお話をしてくださるんですか?」
「おぉ!私の話を聞いてくれるのか!君はいい人だね!」
「だって暇ですし。」
「そうか。では脱線事故した電車の話でも―「そうゆう縁起の悪いのなら遠慮したいです。」
「はははは冗談だよ。」



この電車ただでさえボロボロだから冗談に聞こえない。



「じゃあお嬢さん、お伽話は好きかい?」
「あんな非現実的なものはあまり好みませんね。」
「そうかい?私は夢があって良いと思うがね。」
「…」



いい年だろうに…なんだか可哀相だ。



「ではシンデレラの話でもしようか。」
「王道な童話ですね。」
「童話ってものはね、本当は夢なんてない昼ドラだよ。シンデレラなんてその代表だ。」
「…それくらい知ってます。」
「でもこれもまた現実的ではないと?」
「当たり前じゃないですか。」
「何故だい?」
「どんな母親だって実の子供の踵や爪先を切り落とすなんてあ―「ありえない?」
「…」
「君は本当にそう思ってるのかな?」
「…」



きぃー

古い電車特有の嫌な音をたてながら電車が止まる。



「おやおや、もう着いてしまったよ。では私はこれで。親切なお嬢さん楽しい時間をありがとう。また機会があれば…」
「…」



今、思い出した。
このボロ電車の行き先。



「二度と会いたく無いわ。」





死神なんて、もうごめんだわ。