2012/03/30 02:09




大人はいつも口を揃えて私に言う。

立場を弁えろ

と。
立場に縛られた生活が嫌で、やっと私が家を飛び出したのは半年前の事だった。



***



「あ、外国人じゃない…?」



なんてことない囁き声にくるりと振り返る。囁き合うのは近所の奥さん二人。目線の先に居たのは金髪碧眼のびっくりするくらい美しい青年で、私はしばらく彼から目が離せなかった。



「未来ちゃんあの人知ってる?」



あまりの感動に私は親友の肩を叩く。未来ちゃんは振り返り彼を目にとめると、「あぁ、」と知っている事を話してくれた。



「確か名前はレンさんだったかな?最近留学してきたそうよ」
「外国人なのね」
「うん、鏡音さんのところにお世話になっているらしいよ」
「へぇ…鏡音さんに?」



未来ちゃんからその話を聞いて、今度暇が出来たら久しぶりに鏡音を訪れてみようと思った。
明るい金髪を目に焼き付けてから先に歩き始めた未来ちゃんの後を追うと、後ろから心地よい低音が聞こえて、私は振り返る。
逆光のせいか、はたまた明るい金色のせいか、もしくはその双方かもしれない。とにかく眩しいと、目を細める。自分より背の高い影が「あの、」と言った。



「レン、さん…?」



私の口から零れた言葉に、彼はどうやら驚いた様で目を丸くした。そりゃあ話した事もない人間が名前を知っていたら驚きもする。冷静に観察してる私に彼は怖ず怖ずと「どうして名前…」と言ったから、私は答えてあげた。



「留学生が来たって街で噂になってるもの。にしても日本語お上手ですね」
「日本語はたくさん勉強したんです。それよりやっぱり目立ちますか」
「ふふっ、でも実を言うと私はさっき知ったんですよ貴方の名前」
「えっ」
「私、噂には疎くて…今日初めて見掛けた髪の綺麗な人が気になって、お友達に聞いたの。レンさん、素敵な名前」



私がそう言うと、彼はまた驚いてみせた。どうやら私は彼を驚かせるのが得意らしい。



「綺麗だなんて言われたの初めてです。こちらの人は皆派手だと言うから」
「そう?私、日本人はもっと派手になってみるべきだとおもうわ。ところで、私を呼んだ様だったけれど」



私がそう言うと彼は「ああっ」と声を上げた。流石の私もいきなりの事でびっくりする。



「これ、さっき落ちましたよ」



そう言って差し出したのはハンカチだった。花の刺繍には見覚えがあって、落としたのだと気づく。



「あっ、嫌だ気づかなかったわ。ありがとう大切な物なの」
「いえ、あのお名前いいですか?」



そう言った彼に二、三度目を瞬かせて、にっこり微笑んでから「後でわかると思うんですけど、」と前置き。



「これです」



そう言って私はポケットから小さな鈴を出した。遠くで未来ちゃんが待っているから早めに行ってあげないと、と思うけれどどうも遠回しに言うのは私の癖らしい。



「鏡音の家出中の娘、鏡音鈴と申します」



彼はまた驚いた様だった。



***


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