私に、何が出来ると言うのだろうか。 どれだけ努力したって、どれだけ思いやったって、それを無駄にしてしまう。 なんで、なんで…。 なんで、私ばかりがこんなにも悲しい物語になるの。 私が人である限り、私が人と認識される限り、何も変わりはしないのに。 どうして、ふとした時に私のことを知って、離れていかれてしまうの。 私に、何か呪いでもかけられているのだろうか。 私は、私に、なんで、どうして。 目の前に広がる素敵な世界。 私には遠くて触れられない。 …触れてみたい…。 「……絵が、動いて…?」 ふと、そう声が聞こえた。 よくわからなくて見詰めていたら向こうもこちらを見つめる。 何?じろじろ見て…。 見るなら他を、なんて言えるはずがないから、とりあえずそっぽ向いたら『ま、また動いた…。』と声がした。 あやしくなってまた人物を見遣るとボロボロなコートを着ている綺麗な顔立ちの男性がいた。 やはりまた『動いて、る…』とぶつぶつ言いながらもまだ見てくる。 ああ、鬱陶しい。 そう口を動かせば見計らったように彼は私に手を伸ばしてきた。 きっと目の前でぺたぺた触るとか、気色悪い事をするんだろうと思っていた私はその手がそのまま中に入って来て私の服を掴んだ。 彼も彼で驚いたようで『わあっ!な、何よコレ!?』と自分で入って来たくせにそんなことを言っていた。 その時、美術館がアナウンスを流す。 それは美術館の閉館時間を知らせるもので、目の前で私を見る彼は我に返り、去る際もちらりとこっちを気にしてはいたが、美術館を出て行った。 ああ、これでまた人が一人来なくなる。 彼はきっと、巻き込まれる…巻き込まれてしまうんだろう。 人も居なくなり、警備員が見回りを一回来てから静寂に包まれる。 時折聞こえる鳴き声。 私はそっと、目の前に手を宛てがう。 すると先程のように手が先に行き、向こう側に写っている。 私はいつでもここから抜け出せる。 この忌まわしい場所から。 長い間閉じ込められて、絵として生きてきた。 けれど、出る事はしなかった、いや、したくなかった。 全て終わってしまう、全て無くしてしまう。 ここから先は、私には絶望しかないと、分かっているから。 出した手を引っ込めて目をつぶる。 出られない、出てはいけないと、そう本能が言っている。 だから、動けない。 口を動かしてみたって、結局声なんてものはでないのも分かっている。 でも、心のどこかで望んでる自分がいて、驚いた。 頭を振って考えを頭から放り投げる。 考えたって望んだって、きっとそれは私が元凶で問題事になりかねないから。 寝ることもできないから、真っ暗な目の前を眺めていたら何かが光が入ってくるのがわかった。 何事かとそっちに目を向けると誰かが侵入してきた。 びっくりして思わずそこから出たくなったがダメだと気づいてそのまま中から様子を伺う。 すると暫くして私の前位に来たのは警備員だった。 バレないように動かないでみていたらボソボソと何か言っていた。 その言葉はしっかりと聞こえていた。 ”いつかこの絵を持ち帰ってやる。” ああ、これで何回目だろうか。 そう言った人たちは何人も消えていったのを私は知っている。 だから、何も言えない。 そして次の日も開かれる美術館。 開かれてから数時間後に、昨日の人が私の前に来た。 また動かないかしきりに見つめてくる。 その視線が少し、イラっときて眉間にしわが寄る。 思わずしてしまったのであ、と思ったらまた『…また動いたわ。』とつぶやいているけれども昨日みたいに驚いたりしていない。 普通なら気味悪がれるのに…。 すると突然周りが真っ暗になり人も一人いなくなった。 私が唯一動きだれる時間帯が来てしまった。 でもなにかがおかしい。 なんで人がいるのにこんなことになったんだろうか。 「え、ちょ、…どうなってるのよ…なんでいきなり真っ暗に…?」 私はただ目の前に人を見つめる。 するとその人は私を見て昨日みたいに手を差し伸べて躊躇することなく私の服を掴んだ。 そのまま引きずり出されて地面に崩れ落ちるように倒れる。 その人は私の顔を見ていきなり「絵より可愛いわね。」と真顔で言われてムカついてしまい頬を叩いてやった。 「いたっ…何すんのよ!全く、助けて欲しそうに見えたから助けたのに…損した気分だわ。」 「助けてなんて言ってない。」 『あら、アンタ喋れるんじゃない。』とさっきまで怒っていた顔が一変して笑顔になった。 そこからはどんどん何故か彼のペースに巻き込まれていき、何故かひとつのドアに引き込まれるように入っていってしまった。 なんで、なんで私なんかを連れ出したんだろうか。 一言も助けてなんて言ってないのに、この人は。 私を怖いなんて思わないんだろうか。 …あの時、私を助け出さなければ、この人は無事だったのかもしれない。 だから、 助けないでほしかったのに… 企画参加提出作品 [戻る] |