初めての思いは永遠に消えない





見てただけだった。

それは、作品のどれもが霞むくらいに。

私にあるのはここで見ているだけの時間と喜びだけだった。


ワイズ・ゲルテナは私のお父さんのお父さんのお父さん。

ようは、ひいおじいちゃん。


私はそんな人の孫にあたるのだが、毎年のように開かれるこの美術館では多くはない人々に作品を見せては感動させ、感激させ、そしてそんな素晴らしさを与えて、また次の年に…という風に、マイナーながらも作品が長く愛され今の私の代でも尽きない愛され具合。


時折お父さんの元に作品についての方が尋ねに来るらしいのだが、代々守られてきたこの作品達は手放せないし、何よりそう言われてきた為か、展示会と言うのは自身が展示するゲルテナ展のみ許されている。

まあ、作品を見たがる人達は実際手にとって見たいか欲しがる人達だろうと私は予想してみた。

どれだけ魅力的でも触ってみたい自分のものにしたい人の方が作品へののめり込みが尋常じゃないと、私は毎年の美術館に来る人達を見て思う。


なのに、私にはそんなことはあまり気にしてはいない。


だって、ひいおじいちゃんのだから、嫌って程毎日見掛けるようなもの。

でも、今日は違う。

今日に限って、作品よりも全てを無視してしまう程、私はその人がすごく気になった。


『吊された男』の作品の前でただ作品を見つめるだけのその人は、何を思い何を考えて見ているのか分からない。


私はそんな彼にくぎづけになっていた、周りから変と言われてもおかしくないくらいに。



「ああ、名前さま…こちらにいらしたんですか。」



彼の姿に見とれていたら、いつも私にこびるおじさんが話し掛けてきた。

彼はお父さんの知り合いで、小さい頃から仲良くしていたのだが、ついこの間久しぶりに会った途端のおじさんの態度が一変していた。



「…なあに?」


「いや、ただ一緒に作品を見てまわりたいと思いまして。」


「私、言ったでしょう?一人で見ていたいの。」



やんわりと断ったのに、おじさんは諦めずに私に食い下がる。

そんな姿に呆れながらも私はなんとしても一人になりたくて言うが、諦めない。


最終手段として無視して作品を見ることにした。

おじさんは許可と捉えたみたいで隣で何か言いながらついて来る。

…ああ、鬱陶しい。

私はハッと思い出したように『吊された男』の絵の前に行くとおじさんは絵を見て嫌な顔をしながら押し黙った。

かと思いきや、作品に対して嫌味を言い出した。


こういうのは不愉快ですとかよく展示しようと思いましたねとか、本人が聞いたらきっとキレるくらいの言葉を並べていく。



それが聞いてられなくて私は言葉を発しそうになった時私が気になっていた彼がひょっこりとこちらに顔を出した。



「ちょっと…それは言い過ぎじゃないかしら?」



不機嫌そうな声音でそう言って作品を眺めながら少し、話し始めた。



「彼だってその気になればいい作品は作れるわよ。でもそうしないのにはきっと何か理由があるんだとアタシは思うの。」



『じゃないかしら?』と私に問いかけるように言うので、私は思わず頷いた。

そんな私に満足した彼はにっこりと微笑んでおじさんに向き直って続けた。



「どんなに自分が気に入らないからといってそれを口に出して言うなんて失礼よ。いうのは自分の心の中だけにしてちょうだい。」


「え…あ、はい…。」



『それでいいのよ。』といって去っていきそうになるのを私は追いかけた。

おじさんはというと、固まっていたので、無視した。



「あ、あの…!」


「ん?何かしら、お嬢ちゃん。」



いざ話しかけるとなんていえばいいか分からずに固まって見つめていたら『あら、何か顔についてる?』と自分の顔を触り始めた。

私はさっきのことを言おうと口を開いて言った。



「あの、さっきはどうもありがとうございました。実はおじさんがしつこくて…その…。」


「そうなの?気づかなかったわ。ま、でもあなたが嫌な気分にならなかったならいいわ。」



『女の子を嫌な気分にさせるなんて男としてダメねあの人。』と呆れながら言って作品を眺める。

眺めている作品は『無個性』という頭のない作品、名前の通り個性など無く、ただ単に服を着せられたマネキンみたいなものだ。



「…なんとなく、ここに足を運んでみたんだけど、こんなにも実在しない作品を作れるなんて、すごいわね。アタシにはきっと無理ね。」


「……誰にも作れない、私にだってきっと無理です。ひいひいおじいちゃんは、どうしてこんなにも…。」



ふと、そんなことを呟いて私は横に立っている彼を向くと、私を見ていて驚いた。

何か言い出しそうな表情をしながらも、でも何も言わずに私を見てくる。



「…よかったら、お名前教えてくれますか?私は名前っていいます。」


ぺこりと頭を下げて自己紹介をする、遅い自己紹介かもしれないけれどそれは私がなかなか自分から話を振らなかったから。



「あら、ご丁寧にどうもね。アタシはギャリーよ。」



『よろしくね。』と言ってからさっきのような笑顔を向けてくれた。

その笑顔に私は目が離せなくなった。

なんなんだろうと考えてもわからずいつの間にか一緒に美術館を回っていた。




これが、初めての出会いと言うんだろうか。

ギャリーと出会えて、ここで私の人生が変わる。

美術館が、まさかそんなことになるなんて…。






(こんなの知らないよー!)



[戻る]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -