「な、なんで…しつこい…っ!」 ただ私は美術館で作品見てただけで、大きな絵をみたら目眩がして、そしたら…あれ? その先が思い出せなくて、また頭が痛くなる。 でも、今立ち止まっちゃえば、追い付かれてしまって、終わる、終わってしまう。 「もう…うわーん!」 ただ絵を調べてただけなのになんで額縁から赤い服の女が上半身出して追い掛けてくるのか分からない。 さっきからずっとぐるぐる回ってて、足は痛いし苦しくなってきた。 ふと後ろを向けば何故か追い掛けてくる顔が笑顔と言うかオモチャでも見付けたように輝いているというか、そんな表情をしていた。 「あった…あったわ!名前こっち!」 逃げてる間に道の途中で出会った彼は開いたドアの前で私に手を振りながら私を呼ぶ。 私は力を振り絞ってさっきより早く走った。 部屋に飛び込むと同時にドアを閉めると、ドアを叩く音が聞こえてくる。 その場に膝をついて息を整えて、部屋を見渡す。 「ごめんね名前…無理させちゃったわね。」 「だ、大丈夫です…私、走りには自信があります…し…えへへ…。」 『それより…』と続けて私は部屋を見回す。 本棚と、多分開かないであろうドアが一つ。 「ここは、本だらけ…ですね。」 「そうみたいね…でも今はあなたの体力が回復するのが先決よ。休んだら、本を調べましょ?」 『無理しなくていいんだから。』そう言って私の頭を撫でた。 撫でてくれた手は、優しくて大きくて、私は少し安心した。 彼とは嘘をつく部屋で出会った。 首を傾げて悩んでいた彼を見つけて、私がその姿を見て、正解を指差した時に驚かれてしまったのが印象に残っている。 自分以外誰も居なかったのにまさか他にも人がいた事に驚きもしたが、嬉しさもあった。 そこからは一緒にここまで、進んできた。 長いようで、短い。 「にしても…いつになったら出られるのかしら…。」 「それは、私にも分かりませんが…でも出られると信じてますよ。」 「あら。意外と強いのね、名前って。」 『アタシもそんな強い気持ち持っていたいわ…。』と少し眉を下げながら笑った。 私もつられるようにちょっと笑ってしまう。 強い、なんてそんなことはない。 ただ自分自身に言い聞かせるように言っているだけで、本当は彼よりはきっと強い気持ちなんか持てていないかもしれない。 数分して私は本棚を調べる。 あまり良いものはなくて、どうやって出ればいいか考えていたら絵本を見つけ、見ていたら後半にいくにつれて内容が予想できて怖くて閉じそうになったが、釘付けになってしまって最後まで見た。 その時ドアの鍵が開く音が聞こえた。 「……え?」 「……。」 私の隣で本を調べていた彼がドアの鍵が開いた事に驚いた。 私は黙ったまま本を元の場所に戻す。 隣から視線を感じるが何も気にしない風に装う。 「名前…あなた、何したの?」 「……絵本、見てただけです…。」 内容は、あんまり思い出したくないし…何より…いや、言わなくてもいいかな。 まだしきりに聞いてくるので私はドアを開けてそのまま進み左に進んだ。 そこが私にとって最悪の部屋になるなんて思わなくて…。 「……!?名前、危ないっ!」 部屋に入った途端、肖像画の青い服の女性が私に向かって走ってくる。 もちろん、走る気力もないし立ち止まるしかできなくて、迫ってくるのを見つめる事しかできなかった。 その時、私を庇うように来て、そのまま薔薇を奪われてしまった。 「……早く逃げましょう…名前っ…!」 青い服の女性は薔薇を持って開いたドアに逃げて行こうとするのを追い掛けようとしたが止められた。 花瓶の置かれた場所に鍵があった為、それを持って部屋を出て鍵を閉めた。 「…ぎ、ギャリー……ごめんなさ…私…薔薇…っ」 「大丈夫…早く、行きましょう…向こうなら安全かもしれない…っから…。」 ここに来るまではそんなに散らなかった薔薇がどんどん散っていってるのか、彼の歩く速度が遅くなる。 私は支えながら反対側のドアへと向かい、入り壁によっ掛からせる。 彼の手に握られた鍵を私は取ってポケットに仕舞う。 私が、取りに行かなきゃいけない。 私のせいで、薔薇が取られてしまったのだから…。 「まさか、取られちゃうなんてね…ちゃんと持ってるべきだったわ…。」 「私が悪いんです…ごめん、ごめんなさい…ギャリー…っ」 私の不注意だった。 涙が止まらない、でも、取りに行かなきゃ。 苦しい筈なのに、優しく微笑んで頭を撫でてくれる。 その優しさは、更に私を不安にさせてしまう。 まだ、まだ間に合う。 「…ギャリー……私が、あなたの薔薇を取りに行ってきます…私が…。」 涙を拭いて、彼の手を握って決意を口にする。 落ち込む、悲しむ時間はない。 いつ彼の薔薇が全部ちぎられるかわからないから。 「だめよ、名前…あなたまだ…うっ…」 「……私が行かなきゃ、ギャリー…あなたが死んじゃいます…私、そんなの嫌です…だから、私の薔薇……持っててください……。」 ゆっくりと首を横に振って、私の薔薇を渡す。 苦しい表情を浮かべながらも私の薔薇を受けとって大事に抱えるように持った。 立ち止まりたくない…私の不注意で、危険に曝してしまった…。 「絶対…絶対に取り返します、…私は…」 (私はあなたが…大切だから、…絶対に…死なせたりなんかしない…) [戻る] |