暫く座り込んでギャリーとイヴが行ってしまった方向を見遣る。
痛む体に鞭打ってでも立ち上がって追い掛けたい。
けれど、それが出来ないのはひたひたとこちらに向かって歩いてくる足音、らしきものが聞こえるせいで動けないでいた。
ゆっくりと、でも確実にこちらに来ている。
私は目を閉じて足音を耳で聞いて、近付いてくるのを待った。
すると私の目の前でそれは止まって私を見ているのか分からないが何も喋りもしなければ声をかけることすらしない。
けれど、私にはその主が分かる為に、何も言わないで目を閉じたままにしておいた。
お互い無言の後、私はおもむろに口を開いて一言『ごめんね。』と言って続ける。
「何も分からないの…今になって、違和感しか感じられなくて…。」
「……。」
「でも、でもね…私には、確かに『愛』はあった…あったの、確かにそこに…今も、ここに…。」
ゆっくりと手を胸にあてて続ける。
「でも、でも…それを忘れていた…長く、ずっとずっと…長く、忘れていたの…。馬鹿よね…私は、本当に…。」
「……。」
「……だから、あの二人は…ギャリーとイヴは…今日出会った二人だけど…でも、私は二人に『愛』を感じてた…『夢』を感じてた…どれだけ、私が…。」
そこから先の言葉が出てこなくなり、私は口を閉じて、ゆっくりと目を開ける。
目の前にはそれが居て、私を見据えていて、ただ、涙を流していた。
体のところどころは痛くて仕方ないし、動こうなんてしたら意識がぶっとんでしまうんじゃないかって程に、目の前が歪んで見える。
「……寂しかっ、た…ね……私に…たすけ、て…ほしか、た…よね……ずっと……ず、…と………待っていた、…ん…だも……ね………。」
刺されたわけでもないのに、口の中が鉄の味がして、それは口の端から垂れた。
死ぬ、なんて感覚ではないのに、なぜだか清々しいというか、今にも眠りたくて仕方なくなっている。
目の前のそれに語りかける私は第三者からみれば変な人、なんだろうな。
感覚のない手を動かして目の前のそれに触れようとするが、届かない。
近いのに、触れられないもどかしさに、私は顔をしかめることしか出来ない、こんなにも、近いのに。
「……名前…。」
「…ふふ、私……そんな、名前……だ、……っ…た、ね……。」
ああ、懐かしい。
懐かしくて、温かくて。
別の場所からこっちに走ってくる足音を聞いて私は優しく目の前のそれに笑いかけてゆっくり目を閉じた。
人として、生きられたことを、
私は……―――――
誇り、だったかな。
『空夢』了
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