小説 | ナノ


最初の怪我と回復システム

私たちは最初に入ってきたドアの前まで戻った。
『ここ、行かなきゃいけないんだよね〜・・・』
また、嫌な気配・・・。美術館とはまた違った、むしろ命に関わりそうな嫌な予感。
「えっと・・・ユト、はしにちゅうい、だって!」
『はし・・・?』
はしっていうと・・・一番に思い出すのがあの有名なとんち話。
普通、今現在だとあんな返答されたら切れるよね。
「はしを通らず真ん中を歩いた」・・・とか。通れないって書いてある理由を考えろよ。
そんなこんなで昔のとんちにケチつけながら。
『まあ、優しい忠告に従って、真ん中通るか。』
イヴが前ね、と軽く押し出す。
「なんで?」
『だって前ならイヴがいるか、大丈夫かちゃんと見てられるけど、後ろじゃいきなりいなくなったら分かんないじゃん。』
「そっか。」
道の真ん中を歩く。
と、突然、壁から黒い手が伸びてきた。
これは・・・道の真ん中まで手が届かないのか!
ありがとう忠告!
「よかったね、ユト!」
歩きながらも振り返り、私に笑顔を見せるイヴ。
急にぞわり、寒気がした。
前に、曲がり道が、つまり壁が迫っていた。
壁際には近づいちゃダメ。そこは道の真ん中じゃない。
イヴはこちらを見ていて気づかない。―そして黒い手!
『とぉっ!』
手に当たりそうになったイヴを、ギリギリでひっぱり私に引き付ける。
が、勢い余って私が黒い手の方に倒れてしまった。
『うっ、ぐぅ!!』
薔薇の花びらを手がむしる。
途端に私の体に激痛が走った。
心臓が締め付けられるような苦しさ。息が出来なくなった。
・・・そういうこと、やっぱりそういうことだったんだ。
このバラと私の体が一心同体なのか。この薔薇が散る時、私の命も終わるのか。
―っ、まだ死ぬかぁっ!!
『イヴと約束したもん!だからまだ死なない!』
バッと道の先に飛び出す。
これ以上私の命、むしられてたまるかっ!
「あ、ああっどうしようごめんごめんなさいユト!どうしよう駄目、死なないでユト!」
『・・・おいおいイヴちゃん、私まだ死なないって今言ったろ?』
ちょっと苦笑い。・・・チッ、でもちょっと・・・体がうまく動かないや・・・
さっきほどの激しい痛みはないものの、全身がだるい。
壁に寄りかかって荒い呼吸を繰り返していると、イヴが私のバラをそっと取った。
それでキョロキョロして、花瓶があるのに気づいて、そっと祈りを込めて差す。
するとバラは一気に元気になる。おいあれあのスピードはどう考えてもおかしいだろっ!?
綺麗に咲いた薔薇を、イヴは私に差し出す。
「ユト・・・どう?変わった?」
『・・・おっ!』
痛みもだるさも嘘のようになくなってる!
ああ、薔薇が元気になったからか!
薔薇が弱ってきたら、花瓶に入れればいいのか。ここの回復システムを理解した。
『あ・・・アリだー。』
アリの絵とドア。ドアには鍵が掛かっている。
「本当ごめんね?」
『いいよいいよ、気にしてないから。アリの絵、持っていこ?』
「・・・うん。」
今度は黒い手に当たることないよう、気をつけて戻った。
アリに見せると、かっこいいとか、喜んでくれた。
でもかっこいいもうっとりも、全然理解できない。
かっこいいのは、今の状況ではイヴだよ。
私を助けようと、回復システム見つけてくれたんだから。
アリ、それに君は人間じゃないし。私はイケメンしかかっこいいとは思わない。
今の状況では、イヴを除く。
道はさっきの道が途切れてる方にしかもうないので、そっちにもっかい行く。

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