小説 | ナノ


暗闇とライター

ミルクパズルやら桜の絵画やらを眺めつつ、先に進むと。
美術館にあった巨大な深海魚の絵に出くわした。
「…この扉、鍵かかってる…」
「なにかしら、このパネルみたいなの…何か入力できるみたいよ?」
『この絵画の名称を答えよってことかな?』
「…多分…そう、かな?」
もやもやした表情でイヴは私を見上げてくる。
『…どうしたの?あっもしかしてこの絵画の名前、憶えてたり?』
表情を変えず、こくりと頷くイヴ。
「…でも、漢字が読めなくて……」
『いいよ、憶えてる範囲で言ってみて。』

えっと、しんかい、の…。

そうイヴが呟いたとき、私の記憶にもこの絵画の題名が思い浮かんだ。
そうだ、しんかいの、よ。
ひらがなでそう入力すると、ガチャンと音がして扉の鍵が外れた。
「あら?ユトも憶えてたの?」
『イヴがしんかいの、まで憶えててくれたから、それ聞いて思い出した。』
ありがとう。そうイヴの頭を撫でると、イヴは嬉しそうな笑顔を私に向けた。
その部屋には、大きな絵画と本棚があった。
「決別」
そんな題名の絵。
赤と黒で描かれたこの絵を3人で眺める。
『何だか嫌な題名の絵だねー…。』
「あら、アンタもそう思った?」
『お、ギャリーも?』
わーいお揃いー。
なんて言った途端、部屋の照明が落ちた。
辺りは暗闇、2人の姿も見えない。
「わっなに!?停電!?」
『あああ嘘ですギャリーとお揃いなんて嘘ですから照明ついてくれ!』
「ちょっ、ユト酷いわね!?それ言ったのが原因じゃないわよきっと!」
『うっ…ひええ、真っ暗だ…あっ、イヴ!イヴいる!?』
「…いる。」
右手に温かい、小さな手の平の感触があった。
左手で探ると、ギャリーのぼろぼろのコートの感触もある。
『よかった…』
「しかし…困ったわね……あ、そうだわ。」
『え、なに?』
「ライターがあったの忘れてた。」
『おお!ギャリー…なんか抜けてるねー…。』
部屋が明るくなる。そして。
『…何だよ、これ…。』
部屋の中は、クレヨンのようなもので落書きがなされていた。
「……。」
イヴが怯えたような表情をしているのに気が付いた。
ギャリーも何かぶつぶつ言ってる。
この様子だと、あまりここに長居すべきでないかな。
私は急いで二人の手を引いて部屋を出た。
来た道を戻る途中、私は通路にあった鏡をちらと見てしまった。
見なければよかった。

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