小説 | ナノ


曇天の中の星空

その日は生憎の曇り空だった。
この日を楽しみにしてたイヴも、目に見えて落ち込んでいた。
「…えほんでよんだ……これじゃ、おりひめさまと、ひこぼしさま、会えない……」
その声は泣きそうに震えていた。
『…そうだね、これじゃあ会えないよね…どうしよっかー…』
せっかく2人で星空を見ようって計画したのに。
織姫様と彦星様が見たいってイヴが言ってたから、この日にしたのに。
どうして、こんなにも天は私たちに優しくないんだろうか?
「…せっかく、ユトお姉ちゃんと星空、見れると思ったのに…」
その目にはうっすら涙がにじみ始めていた。
駄目だ、私、イヴを泣かせたくない。
『よし、イヴ、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、ここで待ってて!』
「…え?」
そう言い残して私はそこらへんに放っていた自転車に飛び乗り、全力でこぎだした。

『よし、イヴ、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ』
ユトお姉ちゃんは、そう一言残して自転車で、もうスピードで去っていった。
夜の野原にひとりぼっち、ちょっと怖いけど、ユトお姉ちゃんはちょっとだけ、って言ったから。
十数分、の、がまん。
そう思って、野原にねころんでくもりぞら見上げて、それからぎゅっと目をつぶってみた。
きっと、目を開ける時にはユトお姉ちゃんは帰ってきてる。
そう信じて。
そしたら。

『イヴ、遅くなってごめんね!見て見て!』

まぶしい光とユトお姉ちゃんの声で目を開けたら。
小さな星空がユトお姉ちゃんの手の中にあった。
「…まぶしい、けどきれい…!」
そう言ったら、ユトお姉ちゃんはほほえんだ。

私は自転車で急いで家に帰って、黒い画用紙にたくさん針で穴をあけた。
それからそれぞれに、色のついた透明テープを貼っていった。
それと懐中電灯を持って、イヴのもとへと急いだ。
それを見たイヴは、綺麗って言ってくれたから。
もう私は嬉しくて。
こんな小さな星空でも、イヴを笑顔にできた。
…もし、来年もこの日が曇り空なら。
私はもっともっと大きな星空を用意しておこう。
そしたら、きっと、またイヴは泣かないでいてくれるから。
イヴの笑顔が見たいから。
私はきっと、頑張れる。

-fin-


prev / next

[ back to top ]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -