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選び貫いた【??】

ポチャンとひとつ、雫の落ちる音が聞こえた。
赤い薔薇も青い薔薇も、私の“答”を知った黄色い薔薇もその頬を濡らしていく。

「どうして、ユト…ッ離れないって、言ったのに…っ」

「そうよ、だから、ほら!早く、早く手をこっちに寄越しなさい…!」

「…ユト、“それ”、そんな風に握ったら危ないよ?早く、放さないと、ユトの薔薇が…」

嘆き、怒り、呆然。三色の感情を受け止めても尚、私の頭は冷静だった。
絵空事の世界に飛び込んだイヴとギャリーが伸ばす手を、どこか冷めた目で見つめ返すくらいには。

『…ここを出ても、イヴにはギャリーが、ギャリーにはイヴがいる。でも、メアリーにはいない』

私と同じ。
その呟きに流す涙の量を増やしたのは誰だろう。ぼやける視界では分からない。
でも、これだけは本当。私は、このまま悲しいすれ違いをしていたくない。
外に出るより、今はこの子と一緒にいたいんだ。その代償が、例え自分の精神<薔薇>だったとしても。

『ごめんねメアリー。本物のお菓子も、同じくらいの友達も無いけど。
…でも、一緒だから』

「ユト、」

『私が、ずっと一緒だから。――これで、勘弁して?』

笑顔で振り下ろしたパレットナイフが、私自身の薔薇を貫く。
はらりと零れる花弁と同時に崩れ落ちた私の目には、叫ぶイヴとギャリーの姿。
…次いで、信じられないと言いたげに見下ろしてくるメアリーの表情。
そして、

「!光がっ」

「ちょっと、もうタイムリミットだっていうの!?まだ、まだユトが…っ」

『…だよ』

「え?」

『無理だよ、もう。…大丈夫、外に出たら、きっと』

「やだ、…やだっ!!」

「ユト…ッ」

――きっと、私のことなんて忘れてるから。
遠くなる意識、広がっていく白光。…帰るんだね。呟いて目を閉じる。
次起きた時、私は作品になっているのかな。それとも、眠ったまま?
…どっちでもいいや。メアリーが一人にならないのなら、それで。
床に投げ出された腕に僅かな温もりを感じ、ひっそりとわらう。

「…ばか」

愚痴っぽい響きを伴った言葉も、今となっては歓迎の挨拶にしか聞こえない。
それにしても、ばかって、ひどいなぁ。

(私は、後悔なんてしてないのに)

思ったより訪れなかった痛みが、逆に叱っているような気もするけど。
でも、望んだ結末<エンディング>だから。これでいいよって素直に思える。
だからこそ、目尻から伝った感覚を迷い無く“嘘”と結論づけることが出来た…。


黄の間 猛唇付近

『…とまぁ、こういう経緯があった訳でして』

“美術館”に迷い込んだ子供の手を引きながら、ユトは苦笑う。
彼の目が途中から冷めたものに変わっていくのを気づいていても、聞かれた質問に答えた結果がコレであった。
問うた子供――緑の薔薇を持ったカイは、ユトの手に握られた白薔薇を見て「道理で」といった感想を頷きつつ漏らす。

「先刻アンタが“自分の薔薇を預けてもいい”って言った時、おかしいとは思ったんだよ。
薔薇が朽ちたらアンタ自身も朽ちるのに…って。造花だったのか」

『うん、“作品”になったからね。でも最初からそうだった訳じゃないし、自分がなんて名前をつけられてるのかは知らないんだ。カイ、知ってる?』

「……“真っ白なエゴ”」

『…そっか。やっぱり』

「…」

カイの答に、ユトの苦笑は益々深まる。正直、想定の範囲内と言える題名が“自分”につけられていたからだ。
あの行動は誰がなんて言おうと“間違って”いたもので、悲しむ人ばかり生む決断だった。それは誰より理解している。けど、変わらず後悔はしていない。
仮に世界が巻き戻されて、何度件の場面<シーン>がやってこようと。自分はメアリーを選び続けるし、決して悔やんだりなんかしない。
…作品になった“経験者”として、迷い込んでくる者達のガイド代わりをするこの生活も、何だかんだ気に入っているし。

◇◇◇

その気持ちが伝わったのか、数時間後絵空事の世界から“帰って”いったカイが、「あれは嘘だ」と謝罪しながら“あること”を教えてくれた。
存外嬉しかったその“情報”を抱え、ユトは彼女がいる部屋の扉を潜る。
青い人形達に絵本を読み聞かせていたメアリーが顔を上げた瞬間を見計らい、満面の笑みを向けた。

『あのねメアリー、“私”の内容が分かったよ。大きさは心配さんと同じくらいで、題名も教えてもらったんだ。
“私”に描かれているものは、教えてくれた人曰く…』

――女の子が黄色い薔薇とレンギョウを持って笑っているものなんだって。


選び貫いた【希望】


(え、本当っ!?一度見てみたいね、ユト!)
(ねっ!)


時任掌理様より相互記念!
メアリーを選んだユトさん素晴らしい!
ありがとうございました、どうぞ今後ともよろしゅうに♪

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