小説 | ナノ



私は、美術館を歩いている。
可愛らしい赤いスカート、赤いリボン、赤い目に赤い薔薇の女の子と。
そうしたら目の前に手が伸びてきて、女の子の首を締め上げた。
私はそれをただ無表情で見ている。
どうして、どうして助けないの?
私は助けたいのに、体はほんの少しも動いちゃくれない。
いや、違う。
私は動揺して、動けないんだ。
慌てて彼女に手を伸ばした時にはもう、彼女は息をしていなくて。
自身の甲高い、鋭い悲鳴に意識は眩んで。
気づいたら私はマネキンの正面に立ち尽くしていた。
隣にはやはり女の子。
後ろを振り返ったら女が這ってきていて、女の子は薔薇を奪い取られた。
私は取り返そうと追いかけるけど、目の前で女は薔薇の花弁をすべてむしり取って。
後ろで、ドサッと、女の子の倒れる音がして。
また自分の悲鳴で視界が真白に。
次に気が付いたときには、女の子と、青いコートに不思議な紫色の髪、青い薔薇の青年と一緒に歩いていた。
何気なく歩いていたら妙な金属音がして。
私は妙に思って立ち止まった。
そんな私を、私の一歩先の2人は振り返って。
私の目の前に大きなギロチンが落ちてきて視界が真っ赤に染まって。
足元に広がった赤い液体と散らばる肉塊、その中に潰れた赤と青の薔薇が目に焼き付いて。
次に気づくと、たくさんの首のないマネキンと絵の女に追いかけられてて、そのうち逃げ回っているのは私一人になっていて。
後ろを振り返ったら追いかけてくるマネキンや女の後ろに、地面に倒れた赤と青が見えた気がして。
何回目か…何十回、いや何百回目かの自分の悲鳴。
何度、2人は死んだことだろう。
必死に私は繰り返して、繰り返して。
間違えないよう、3人で必死に先へ先へと進んで、それから、それから……。
意識の端に黄色い薔薇と金髪の少女が見えた気がした。そこで。
「……、……ユト!」
『っ…!?』
ハッと目を開く。
…私は寝ていたの?あれらは全部夢?これはもう夢じゃない?
そっと、指を動かしてみる。うん、体の感覚が戻ってきてる。これは夢じゃない。
…生々しくて妙に現実味を帯びた夢だった。

いや、私は分かってる。あれはきっと、夢じゃない。記憶なんだ。
だって、そうでなければ、こんなにボロボロ、ずっと、涙の粒が転がり落ち続けるはずないんだから。

「ユト、どうしたの!?すごくうなされてたけど…」
心配そうに紫色の髪の男……いや、ギャリーが私の顔を覗き込んでた。
『あれ、私…どうして、いつの間に……。』
記憶が混乱しているようで、なんで寝てるのか、ここがどこか、よく分からない。
そっと、体を起こしつつ思い出す。
私は……確か、今度はちゃんと2人と一緒に逃げ回ったんだ。
それから、赤い女の子……イヴが。
「イヴが倒れたとき、随分と動揺したみたいで、一緒に倒れちゃったのよ、アンタも。」
もー2人を運ぶの大変だったんだから!なんてぷんぷんしてるギャリー。
そうか、私、そのショックで意識飛ばしちゃったのか。
…大丈夫、イヴはまだ死んでない。しっかり生きてる。まだ私は失敗してない。
『…よかったー……///』
「もう、本当心配したのよ?…ユトももっと自分の体のことも気にかけてあげなさい!」
ほら、そんな、泣かないでってギャリーは私の涙を指先で拭ってくれる。
真正のイケメンだなこいつ。無自覚とまでくるともはや犯罪だ。
『…へーい。そんで本当ありがとう…。あ、そうそう、ギャリーは大丈夫だった?元気?万全?』
「アタシはまぁ……これでも大人の男だからね?体力もアンタらよりはあるからね。」
そういって目を伏せるギャリー。
「…アタシ、自分のことばっかで、イヴやアンタの体調とか精神的な負担とか、そういうのに配慮できてなかったわね、本当ごめん。」
まさかそんなこと言われるなんて。
私こそ、イヴが苦しそうにしてるのに気付いてたのに、あんまり気にかけてなくて。
そのせいでイヴは倒れちゃって。
『私こそ…2人に全然気を配れてなくて、あげくの果てに、自分が倒れて迷惑かけちゃって。本当すみません。』
視線はギャリーと同じように、自然と下におりていった。
すると、頭にギャリーの手の重みがかかる。
ぽん、ぽんって私を撫でて、さっきよりも明るい声で、
「…そうね、これでおあいこ。しっかり気持ち切り替えて進みましょ。」
そっと視線を上にずらすと、もうギャリーはにっこり私に笑いかけてた。
『…ん!』
そうしてさっきから私と、その横で眠るイヴにかけられていたものに目を向ける。
『あ、ギャリーの上着、毛布代わりにかけてくれてたのね…ありがとう…!』
「どういたしまして。あ、そうだ、その上着のポケットのところ、探してごらん?」
ごそごそっとポケットを漁ると、レモンキャンディ―が。
『おおお!私レモンキャンディー大好きなんだ!ありがとう!本当ありがとう!!』
…いや、ちょっと待った。ポケットに入っていたのはレモンキャンディ―一粒だ。
『…だが、これはイヴちゃんにあげようではないか。』
「何その喋り方……まぁ、アンタがそういうなら。」
『絶対イヴの方が傷心中だし、こういうの好きだろうしさ!』
うーんと、少し唸った後、そうね、とギャリーは承諾してくれた。
「アンタならこんな飴玉なくたって立ち直れるわよね、アタシよりイヴより、芯はしっかりしてそうだし?…いや、それでも女の子だし…」
『何悩んでんのさ、大丈夫、そう、私はもう大丈夫だから。イヴもギャリーもこうやって無傷で生きてる。それだけでもう、元気でいられるから。』
そう笑ってみせると、ギャリーは三白眼を見開いて私をじーっと見つめてきた。
『…な、何さ……?』
「いや、ユトって本当に強いわねって。年相応、以上に。」
『あ、ありがとう…?』
「素敵よ、そういうの。」
にっこり、私みたいにギャリーは微笑んだ。惚れるわまじで。このイケオネェめ。
涙はしっかり止まっていた。

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