小説 | ナノ


おとうさんとおかあさん

「…ユト…なにしてんのよ…」
『はっ!?…しまった、ちょっと空気に飲まれてた…!』
「はぁ?」「…はぁ……。」
気づけば、絵画の女たちの中にイヴとギャリーの姿を見つけた。
やっちまった、あんまりにもお姉さん方とのお話が楽しすぎて…!
女たちはきょとんとして、「あら、どうしたの?」…なんて。
『ごめんなさいお姉様方!そろそろ時間みたい、行かなきゃ。』
「あら、残念。」「じゃ、また機会があれば話しましょ?」
「今度はいい男連れてきなさいよ?」
「せっかくあんた可愛いんだし、さっさと彼氏の一人や二人、捕まえちゃうのよ!」
『い、いや、二人はちょっと、アウトかと…!』
本当素敵なお姉様方だ。
「ちょっとユト、アンタこの短時間に、どんだけ仲良くなってんのよ…!」
『えっ?お姉様方が素敵なだけだよ!』
「…すごいわね…ある意味尊敬するわ…」
あっ、そういえば。
『ねえ、お姉さんたち。どこに鍵があるか知らない?鍵がかかって入れない部屋があってー。』
「あっ、それならあたし、そこに落ちてんの見つけたから、あげるわよー!」
ぽいっと、緑の服の女が、投げてよこしてくれた。
『ありがとう!じゃあまた今度!』
笑顔で手を振りあって別れた。
「…ユト…ほんとうすごい…!」
「いや、まさかアタシたちがあんな怖い目に遭ってる間に、女たちを友情築いちゃうなんて…誰が想像できる?」
『怖い目…?っ、後で聞かせて!とりあえずさっさと進んじゃおう。』
まさか私がお姉さんたちと友情を深めてる間に、ギャリーの生死を分けるようなイベントがあったなんて、イヴの行為がギャリーの命を救ったなんて、当然知る訳もないから。てか今後とも知ることはないし。
『さっきこんな鍵もらっちゃったわけだしさ。』
「…鍵……。」
一言呟いてイヴは私とギャリーの手を掴んで駆け出す。
『おっ…イヴ、位置憶えてるの?』
「……。」
走りながら無言でコクリと頷いてみせるイヴ。
この子天才じゃなかろうか。…私の記憶力が残念なだけ?

イヴに連れてこられた鍵のかかったドアの前。鍵を使うと見事正解、ドアの鍵は開いた。
『半端ない!イヴちゃんマジ天才!すごい!』
「え、へへ……ユトのためなら、これぐらい…///」
この子、そんなに私の鼻血が見たいのかしら、そんな可愛い事言っちゃって。
「…とりあえずアンタたち、そんな2人して照れ照れにやけてないで、さっさと入っちゃいましょうよ。」
呆れたようにギャリーが言う。
『くっ、ギャリーめ…イヴとの幸せな空気を壊しやがって!…とか言いたいとこだけど、まぁ確かに場所が場所だし。入ろっか、イヴ。』
「うん…。」
ドアを開けて中に入る。
中には大きな絵画と美術館で見かけたソファ、「指定席」とキャンバスと、それから本棚。
指定席にはもう柵がない。ちょっとやってみたかったこと。
「……ユト、こんな無駄なことして何が楽しいのかしら…?」
3人で指定席に座ってみた。座り心地は普通にソファ。
『いいじゃん、座ってみたかったんだもん。』
それから本棚を調べてみる。
「あら、この本棚、動かせるみたいよ。」
『おお、まじか!イヴ、どっちに動かす?』
「動かすのは決定事項なのね…」
「…右…?」
『よし右だ!ギャリー!』
「イヴが決めたのに随分偉そうね…」
なんかギャリーが私を見てずっと苦笑い。やめてくれい。
『ほら、こっち見てそんな変な顔してないで、動かしてよ。』
「あ、そうね…窓隠れちゃったけど、まぁいいかしら。」
それから、キャンバス。
『んーとキャンバスには…?』
見て、見なかったことにした。イヴには見せないようにした。本当は破いてしまいたいくらいだった。
“疲れたなら ゆっくりお休み?もう苦しむことも なくなるから”
それから、あとは真ん中の大きな絵。
『「ふたり」ね…おじさんと、綺麗なお姉さん…夫婦、かな?』
ちら、と、イヴの方を窺うと。
目を見開き、はっきりと、青ざめていた。
「『どうしたの、イヴ?』」
ギャリーと声が被った。同じようにイヴの異変に気付いたんだろう。
「…これ……この絵の2人…わたしの、お父さんと、お母さん…」
震えて少しかすれた声で、イヴは答える。
「え?!この絵の人、イヴのパパとママなの?」
『ギャリー、パパとママなんだ…呼び方…じゃなくて、マジで?』
こくり、頷く。
「へぇ………たしかにイヴに似てるかも……」
『そりゃまぁ、親子なら似てるでしょ。てか、そのさ…』
「でもなんでこんなところに、そんな絵があるのかしら?」
『そうそれ!!』
こんな美術館に、なんでイヴの両親の絵が。
消えそうな声で、イヴが呟く。
「2人は……どこ…?」
『…んー、ごめんよぉ、私には分かんないや…ギャリーは分かる?』
「え?2人はどこかって?うーん……それはちょっと、アタシにもわからないわ…」
だよねぇ。
イヴは泣き出しそうな顔をする。この子もここまで気丈に振る舞ってきてたけど、やっぱりまだ小さな女の子な訳だ。むしろよくここまで頑張ったと言っても構わないほど。
「だ、大丈夫よ、きっとどこかにいるって!」
その表情に慌ててギャリーがそんな慰めを口にする。
まぁ私たちがこうやってどうにかここまで来れてるわけだし、親御さんのほうだってどうにかやってるはず!
…なんて言ったって今のイヴは、きっとそんな希望を信じることができないほどに疲労してるんだろうな。私が年上として、…お姉さんとして、支えなきゃ。

「これ以上何もないみたいだし…出る?」
『そうだね……あれ?』
ドアが開かない。さらに、ドアを外から叩く音。
『嘘だろ…おい…』
嫌な予感しかしない。てかもう駄目な気がしてならない、どうしよう…。
…いや、弱音を吐くもんか。
『外になんかいるっぽい…注意して…逃げる用意はしてて…!』
叩く音が強くなる…そして。
ドガアァァンッ!!
後ろの壁を壊して黄色い服の女。
さっき話してた黄色い服の一人ではなかった。…一体何人いるんだよ…14人ですね!はい知ってます!
親睦を深めた彼女じゃないなら、当然襲ってくる。
「ひっ…!!」
小さく悲鳴をあげたイヴの手を掴み、とにかく女から逃げる。…ああっでもドアが開かないんだった!どこに逃げよう!?
不覚にも、私は一瞬パニックに陥ってしまう。と、ギャリーが、私の空いてる方の手を掴んで駆け出した。
『っ、』
「あそこ!黄色い服の女が入ってきた壁の穴に逃げましょ!きっと外につながってるはず!」
ああ、なるほど。
ギャリーに引っ張られることで動いていた私の足も、ようやく自分で動き始めてくれた。
そして私は、私たちは壁の穴へと飛び込んだ。

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