小説 | ナノ


進…まない

ガチャッ
『お、やっぱり6295だね。』
「「クスクスッ…///」」
『っ…///もう笑わないでよ、なんか恥ずかしくなるから!』
まだ2人とも、さっきの私の失態を引きずるものだから、なんかというか…かなり恥ずかしい。
絶対今度2人が何か失態を犯したら、この美術館を出てからも引きずってやるんだから!
そんな感じでちょっとぷんすかしながら中に入る。
「……椅子…?」
『みたいだね。とりあえず座ってみる?』
「なんで座る必要があんのよ…」
ギャリーが苦笑するもんだから、苛立ちに任せてちょっと厭味ったらしく言ってやる。
『…まったく、ちょっとふざけてみただけなのに、そんなまともに返しちゃって。ギャリーったら空気読めないねー。』
「うっ…その言いぐさは酷いんじゃないかしら…?…かなり傷ついたんだけど…」
もうちょっと何か言ってやってもよかったけど、本当に傷ついたみたいな様子で、しょげてるもんだから…さっきまでの苛立ちがきれいさっぱり消滅した上に、とてつもない愛しささえこみあげてきた。
「…えいっ。」
そんなこんな、ギャリーをいじってるうちに、イヴはいつの間にか椅子の近くにかけていって、椅子をずりずり押していた。
ガッシャァーンッ
どこかでガラスが割れるような音がした。かなり嫌な予感。
「何、今の音……まさか、ね…?」
『奇遇だね、私も今ギャリーと同じこと考えてたかも。』
ギャリーの顔はひきつり、また青ざめていた。きっと私も同じような表情をしていることだろう。
ガチャンッ
今度は鍵の開くような音がした。
イヴはガラスが割れる音も気にせず、椅子を押し続けてたよう。
「…もう椅子、動かない……これが鍵…だったの、かな…?」
『おおっ、よくやったねイヴ!さすが、私の愛しい妹分!!』
「…えへへ…///…でも、いつから、妹分……?」
『気にしたら負けだよそれは。』
イヴにわしゃわしゃってしてあげたら、にへって随分可愛らしく笑うもんだから…もう…鼻血がいつ出てもおかしくないよ…!
「ユト、気づいてるかもしれないけど、今のアンタ、相当デレデレしててちょっと不気味よ?」
かなりギャリーを蹴り飛ばしたくなったけど我慢。愛しさの方も一瞬で消滅してしまった。
「ギャリー……酷い…女の子に、そんなこと言うの…すごく失礼、だよ…。」
イヴも非難の視線をむける。
「えっ、あ………ごめん。」
案外素直に謝ってくれたから許す。今回だけは。
『…早く次行きましょや。どっか鍵開いたみたいだしさ。』
「そうね…正直アタシ、ドアの外に出るの、不安なのよねー…ほら、さっきのガラスが…割れるみたいな音…」
それは私だってすごく不安だよ。出た瞬間あのお姉さんに飛び掛かられるというのは…なかなかに魅力的だしちょっとときめいちゃうけど、死ぬのはさすがに怖い。
こんな場所で死んでたまるかっていう思いはあるし。でも…
『でも、だからってずっとここにいるのも嫌なんだもん。さっさと進まないと、本当に出られなくなっちゃうよ。』
「そう…よね……。ずっとここにいるわけにはいかないもんね、行きましょうか、ユト、イヴ。」
ようやくギャリーも決心できたみたい。ドアをそっと開けて、廊下に出る。
『さっき全体を回った時、鍵のかかった部屋、どれだけあったっけ?』
「ええっと…一つ向こうの廊下、と…左に進んだ奥の方と……右の真ん中あたりにも…」
イヴが指折りで数えてくれる。
「あっ、そういえば、この隣の部屋、まだ入ってなかったわよね?さっき女の数は全部数えたし、入れるんじゃない?」
『ああ、そうだね。新しく開いた部屋探す前に入っとくか。』
入力して中に入ると、花瓶が一つ。
『特に萎れてきちゃいないけど…』
「ま、いいじゃない。」
ギャリーはするりと、私とイヴの手からバラを抜き取り、花瓶に挿した。
水がなくなる。
「なにか…ヒントとか、ないかな……。」
ごそごそと部屋中を漁るイヴ。本棚の本を確認しているとき、イヴの手はとまった。目を見開き、その表情は固まっている。
『ん?何か見つけたー?』
「…ん、なにも……!」
すぐに笑顔に表情はもどるけど、何がしかの違和感を感じてしまった。
でも私は、そのことはあまり深読みせず、イヴがそう言うなら…って流し、何もなさそうだとそのまま部屋を出た。
…想像通り、道にはガラスが飛び散り、想像通り、絵画の女たちが跋扈していた。
私たちの姿を見るや否や、すごい速さで這ってくる。
『っ…困ったなー、どう行く!?』
もちろん、私たちだってそう簡単に捕まることはなく、即、走りに移行して逃げる。
「どう…って、もうとにかく適当に行けばつくでしょ!」
『投げやりだなー…あっ、ちょっと先行ってて。』
そう2人に言って私は踵を返した。
後ろには…青い服の女の絵画。正直くっそ美人。
『お姉さん…随分と美人であらせられますな…よければ一緒にお食事…は無理か、お話致しませんか?』
私が出せる精一杯のイケメンオーラを出して話しかける。
飛び掛かる寸前にも見える勢いだった青い服の女は…直前で急ブレーキでもかけたかのごとく、ぴしっと止まった。
目を見開き、驚いた表情で頬を染めているところを見ると、上手くいったらしい。
私のなかなかタイプな美人だったもんだから、本当話してみたかった、それだけ。
別にこの女を引きつけて、ギャリー達にできるだけ安全に行ってもらおうと思ったとか、そんな打算はないんだからっ。

…そして数分後、本気の恋バナを繰り広げるユトと青い服の女…だけでなく赤やら緑やら黄色やらの服の女たちがそこにはいた。らしい。

prev / next

[ back to top ]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -