小説 | ナノ


「歩みだす男女」

こんにちは、あるいはこんばんは、私、ユトっていうの。
ちょっと私のお話、きいてくれる?
私はずっと前から美術館にいる、お父さんに作られた作品。
この前、この美術館に変わったお客さんが来たんだ。
赤い薔薇の女の子と、青い薔薇の大人のお兄さん。
メアリーとお兄さんが存在を交換して、私とお兄さん…ギャリーさんは、ここに2人残ったんだ。
私もギャリーさんも出たかったけど、入った人間は2人…4人のうち、2人しか出られなかったから…仕方なかったの。

ギャリーさんはとっても変わった人。
一緒に美術館を回って、作品を紹介するんだけど、どの作品をみても一瞬青ざめるの。
もう作品たちは私たちに手を出すことはないのに…仕方ないのかな、あんなに追い掛け回されて、傷つけられたから。
ようやく、ぐるりと一周回れた。
『はい、それでようやくこちらが「絵空事の世界」。…2人とも、向こうで元気にしてるといいんだけど…』
「そうねぇ…あ、これでこの美術館、全部回れたのかしら…?」
『うん。ここで終わり。…来た道戻る?』
「ええ、そうするわ……あら?」
2人でくるりと、もとの道を戻ろうと振り返った時。
『…なに、これ…』
左側に、さっきまではなかったはずの道が開けていた。
こんなの、知らない。初めて見たよ、こんな道今まで見たことなかった…!
…お父さん、こんな仕掛け…作ってたの…?
「…ユト、アンタも知らなかったの…?」
『うん…こんなの初めて…どこに、つながってるんだろう…』
心臓が痛い…脈打つはずのない作品の心臓も、この美術館ではこんなに激しく動く。
「…行って、みる?」
ギャリーさんは、少し屈んで私の顔を覗き込んだ。
私はどんな顔をしてるんだろう…どきどきして、興奮してる…冒険に心躍らせる少年みたいな顔してるのかな?
だってこんなこと、この長い美術館での時間の中で、一度もなかった…新しいことにわくわくしちゃうのは当然のことだよね?
『…うん!…あ、ギャリーさ』
「ギャリー、ね?」
『…ギャリー…が、よければ…行ってみたい、かな。…あっ、ギャリーが嫌なら別にいいから!』
ギャリーさんはちょっと視線を彷徨わせて、悩んでる風だったけど、すぐにきりっと私と目を合わせて、にっこりして言ってくれた。
「…いいわよ、ユトが行きたいんならアタシも付き合うに決まってるじゃない!」
そしてクスッと笑って、
「…もう、美術館の事は教えてもらった。今度はユト、アンタと2人で、新しい美術館を一緒に知るのよ!」
…ああ、やっぱりギャリーさんは格好良いな…本当嬉しい。
『…そうだね、ギャリーと一緒に新しい美術館…楽しみ…!///』
「怖くないわけじゃないけど…アンタと一緒ならどんな場所だって楽しいわ!」
2人で、手を繋ぐ。心臓が少し早くなった気がする。
「あら、赤くなってる?」
くすくすギャリーさんが笑う。ちょっと恥ずかしい。
『誰のせいだと…!』
「ふふっ、アタシ?」
『…大正解…分かってて言ったでしょ…!』
「…まぁねっ♪」
仕返しがしたくて、目を合わせて大好きだよって言ったら、ギャリーさんは私の比じゃないくらい真っ赤になってて可愛かった。
「…なかなか、やるわね…!」
『うふふ、私より真っ赤…可愛い…///』
「っ…///…ほ、ほら、馬鹿なこと言ってないでさっさと行くわよ!///」
『あ、ごまかした。』
「いいから!ほらっ!」
2人で赤い顔を見合わせ、新しい道を駆けだした。
楽しく笑いながら。憂いなんてもうどこにもない。


「ゲルテナ展…もう何回目?イヴはほんとに美術館、大好きなんだね!」
「…うん、どうしてもあの2人の絵が…すごく気になって…あ。」
「あれ?絵、変わってる…ええと、「歩みだす男女」?でも同じ2人の絵だね、すっごく楽しそう!」
2人の前には、手を取り合って顔を見合わせ、楽しそうに駆け出す1組の男女の絵画。
「うん…2人とも楽しそう、嬉しそう…なんだか、よかった…///」
「(全く、いい年した2人がなにはしゃいでんだか…楽しくやってるみたいなのは、わたしも嬉しいけど…)」
「メアリー?」
「あっ、そうだね!わたしたちも楽しくなってくるね!…そうだ、後で一緒に絵を描こうよ!」
「…うん、…それと…また見にこようね…!」
「うん!」
2人はパタパタと、絵画の前から駆け出して行った。絵画の男女を真似るみたいに。
絵画の中の2人は、もう絵画の外を気にもせず、2人だけの新しい冒険に目を輝かせていた。

−fin−
大変時間がかかってしまいました、すみません!
…ちょいと言い訳しますと…受験があったのとその結果スランプに陥ってしまったのと…ごにょごにょ…。
記念企画のフリリク、本当素敵なリクエストをありがとうございました、この二人を再び書けて楽しかったです…!
あんまりいちゃこらを入れられずすみません…
どうぞ今後ともよろしくお願い致します!
アナン様のみお持ち帰りOKです!

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