小説 | ナノ


ハッピーエンドの裏側の犠牲

(トリップ・既知夢主)

ゼェッ…ゼェッ…。
もう限界が近いようで、どんどん息が荒くなり、心臓の痛みも増す。
2人の走り去る足音を聞きながら、とうとう私は意識を…命を手放した。

パチリ、目を覚ます。場所は意識を失う直前と同じ、廊下の途中。
記憶にある通り、先に進めば私の薔薇の花弁が散る部屋に着く。
私の薔薇と同じものがたくさん咲く茨は、私が触れた瞬間道を開けた。
奥、メアリーの絵画があった場所には私の肖像。
どうやら私の想像通りに事は進んだよう。うまくいったようだ。これでよかった…んだよね?
きっとみんなが願っていた最高のエンディングを迎えられたはず。
そう、私はハッピーエンドのための人柱になっただけ。
『虚しいなぁ…。』
1人ため息を吐く。と、足音。こちらに向かってくる。
「メアリー、2人はもう外に逃げちゃったみたい…て、あら?」
唖然とする私。その姿は記憶の途切れる寸前まで自分と一緒にいた紫の男。だけど彼がいるはずない。
混乱する頭を無理やり巡らせる、思い出せ、もう1人、あのゲームには…「彼」がいたじゃないか。
『…あ、そっか。ギャリー…じゃなくて偽ャリーか。』
「書かなきゃ違いが分からないような呼び方はやめなさい。」
そう初対面の私に軽くツッコミをいれ、偽物の彼、偽ャリーは怪訝そうな眼をして私を見た。
「アンタ、誰?ここにはメアリーしか入れないようになってたはずなんだけど。メアリーは?」
『ん、私はユト。いろいろあって、メアリーの代わりにここに残ることになった。メアリーは私の代わりに外に出たよ。だから、まぁ…存在の交換ってやつ?』
それを聞いて呆れた風な顔の偽ャリー。
「それはご愁傷様。」
そこでいったん言葉を切って、続ける。
「…でもユトは、それでよかったの?」
それでよかったの。私は最初からそのためだけに自分がこっちに来たもんだって考えてたし。
このゲームで、全員脱出ってのはみんなが望んで止まないものだったからね。もちろん私も含む。
ただまぁでも…その。
『別にそれはよかったのよ。それはね。ただなんというか、置いていかれた感が寂しいかな?また私、一人ぼっちに逆戻りだよ。』
ははっと自虐的に笑ってみた。面白くもなんともない。
「一人ぼっち…ねぇ。」
『正直に言っちゃえばさ、寂しいのにも増して退屈だし虚しいし、気分は最悪。結構辛いかな。』
静かに無表情になった偽ャリー。でも何も言わない。
『私がやってたのは終わりのあるただの「ゲーム」だったんだしね。これはまだまだ終わらないしさ…。』
あれはゲーム、脱出できれば物語は終わり。
これは今の私の現実。物語の裏側。物語のちょっと先。まだまだ終わりには程遠いし。
メアリーを救うために奪った物を、別の目的に利用しなきゃいけなくなっちゃったかな。
『ま、終わりが欲しけりゃ…ってことでこんな最終手段。』
そう言ってソレを偽ャリーに見せてあげた。途端に青ざめるその白い顔。
ソレはライター。ジッポ製。ギャリーの私物だ。
盗んだ理由は簡単。これ持たせたまま行かせたら、メアリー燃やされちゃうし。
せっかくだから、メアリーの代わりの私が燃えて幕引きとしよう。
私は自らの肖像に歩み寄った。美しい薔薇に囲まれる一人ぼっちの寂しそうな私。
正に今の私の心を体現している。
ジッポ製のそのライターの火を灯した。オイルも残り少ないらしいからさっさとやっちゃわないと。
偽ャリーも私が何しようとしてるのか理解したようで止めようと近づこうとする。が、怯えたように一歩下がった。火が怖いんだ。
私だって怖い。何より怖い、怖い…けど。
『これすれば終わりなんだ。嫌な思い出達ともこの世界とも。大丈夫、きっとみんな幸せ…』

そして私は。


さよなら、世界。と呟いた。





「…っこの!!」
『うわっ!?』
あと1センチぐらいしか肖像とライターとに隙間がない、そんな近距離で、私はライターを奪い取られた。
「あっ、危ないじゃない!燃えちゃったらどうすんのよ!?」
ぎりぎりまで顔面蒼白で震えてたこの偽物に。
いや、燃やす気で私やってたんですけど。
そんなツッコミを思わず心の中で入れてしまった。
真っ青で震えながらもライターを握りしめ、涙目でそう叫ぶ偽ャリー。
『も…もともと燃やす気でやってるんだから。…私なんていらない子だから誰もかまやしないでしょ…?』
そう私も震える声で呟く。
それを聞いた偽ャリーは酷く怒った表情で…顔を歪ませて叫ぶ。
「バッカじゃないの!?いらない子!?誰もかまやしない!?…あの子達は…アタシにユト、アンタを重ねて見てたのよ!?ユトがアタシにその…ギャリーを重ねてるみたいに!!」
『…え?』
想像もしていなかった言葉だった。
「迷いながら、悩みながら、どうしようもなく泣きそうになりながら!アタシは本物のユトじゃない、違うって分かってるのに…偽物だって分かってるのに…!!」
叫ぶ。まだ叫ぶ。気づけば偽ャリーは感情が昂ぶったのか、泣いていた。泣きながら、それでも叫ぶ。
「それに!一人ぼっち!?…そんなの嘘。だってアタシがいるじゃない!いいやアタシだけじゃない!無個性も青い人形も赤い服の女もマネキンも!みんないるじゃないの!!ここなら絶対一人になんてさせないんだから!!」
そんな何一つ取り繕ったりしてない、感情むき出しの彼の言葉。
ただただ私の心に突き刺さる。張り詰めていた私の心を縛る糸が解けていく様な気がした。
ぽろぽろと大粒の涙が、私の眼からも零れていく。私も泣いていた。

「…え?あっ、その…ごめん。言い過ぎたかしら…?」
私が泣いてることに気づいて偽ャリーは戸惑ったような反応を返した。
『違う。違うの。気にしないで、偽ャリーは何も悪くない。』
「えっ、でも…。」
『私は怖くて、悲しくて泣いてるんじゃないから』
『いや、緊張の糸がほぐれたってのもあるけど』

『嬉しかったの。』

ちゃんと、はっきり、言えた。
私は嬉しかった。こんな私を想ってくれる人。私に叫んで、泣いてくれる人がいること。
元の世界の私は、孤独だった。クラスでもぼっち。友達もいない。家族との仲も悪い。
私は自分で見ても嫌な子で、面白味もない地味な子だった。
常に孤立してる一人ぼっちの自分。自分すら自分が嫌いだった。
だから、だからそんな言葉初めてで、あったかくて心から嬉しかった。
初めて居場所ができた気がした。

『だからありがとう。居場所をくれて、ありがとう。』
「…え、ああ、えと…どういたしまして?」
戸惑いながらちょっと恥ずかしげにそう返した偽ャリー。
『絶対、…約束、絶対だから。』
「へ?」
『一人にしないって。』
「…勿論よ!!」
胸を張って彼らしい傲慢な笑みを浮かべ、そうはっきりと答えてくれた。
「当然でしょ!アタシ、気に入った相手との約束なら絶対守るんだから!」
『へぇー。イヴたちを私の姿で惑わしたくせによく言うね。』
「あっ、あれは!…あっちが勝手にそう見ただけで…それがアタシの姿だし惑わせるのが存在意義だし…。」
偽ャリーはギクッと固まって、その後そんな感じで赤くなってぶつぶつ言い訳をしていた。
…イヴやギャリーやメアリーも…私に会いに来てくれるかな。待ってたらきっと来てくれるよね。
私、ここでちょっと生きることを頑張ってみるから。もう死んじゃってるけど。

私の感情の表れである私の肖像は、晴れ晴れとした表情で明日を見据えていた。


−fin−

はいはーい。半端なく時間かかっちゃいましたー。え、なんで棒読みなのかって?
勿論機嫌が悪いからさ。なんでかって?疲れてるからさ。なんでかって?
…なんていう堂々巡りはそろそろ止めます。止めました。
ええっとですね、これ、何回か打ち込んだのですが、データが飛んだのが数回ありまして。ショックでしばらく立ち直れず遅くなりました。申し訳ございません。
本当は半月以上前に書き上げてたのにですよ?2時間かけて打ち込んだのに…。
…無駄に長くてすみません。ここまで読んでいただきありがとうございました!
リツカ様へのお祝いものです!おめでとうございます!遅くなってすみません!
リツカ様のみお持ち帰りOKです。

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