小説 | ナノ


あーん

清々しい朝。窓からは朝日が差し込み、明るくなった部屋。
テーブルに用意された朝食。
そんな爽やかな朝に似つかわしくない険悪な空気が部屋には流れていた。

「食べなさい。」
『…嫌。』
「食べなさいよ!」
『嫌だっつってんだよ!』

こんな言い合いを繰り返す今日この頃。

『本気で嫌いなんだって!食ったら吐くぞ!?全部戻すぞっ!?』
「ダーメ!食べないと栄養摂れないわよ?」
『んな事言われても…。てかギャリー、君は僕のお母さんですかこのヤロー。』
「…まぁ、後々にはユトのおムコさんにでも…///」
『黙れオネェ』

なんでそんなに無理に食わせようとするのか、全くもって理解できない。

「なんでそんなに嫌いなの?…トマト。」

そう、僕は朝食のサラダにのっかってたプチトマトが食えないと騒いでいた…いや、現在進行形で騒いでいるんだ。

『だってマジでまずいしさ。なんか気持ち悪い味がするし、ドロッとした中の液も嫌だし、種もヌルってしてて気色悪いし、皮なんか口内にはりつくんだよ?』
「甘いし美味しいじゃない。」
『分かんねぇわーあれのどこが美味しいんだよ。』
「ちゃんと食べれば分かるわよ!ほら、食いなさい!いや、食え!」
『嫌だ!絶対食うもんか!』

口調を崩されたって食う気になんかなる訳もない。
それぐらい大嫌いなんだ。

「全く…どうやったら食べてくれるのかしら…。」

困った顔をするギャリー。…申し訳ないとは思っている。
そんな顔させたかった訳じゃない。でも、だからと言って…無理。

「ほら、食べなさい。あーん。」
『うっ…い、いや!』

あーんとかそんなことされても…///くそ、お母さん…いや、オネェさんか。
僕が食べるのを拒否する度、ギャリーは悲しそうな顔になっていく。
そりゃ、ギャリーは僕が起きる前に起きて、手間をかけて朝食を作ってくれてたんですし…。
しまいには、

「ユト、アタシの事嫌い?」
『そっ、そんなわけないじゃないか!』
「でもアタシが作ったものは食べられないんでしょ…?」
『その、そのプチトマトが無理なだけで決してそんなことじゃ』
「ごめんね」
『っ!!』

ギャリーは悲しそうに、笑った。
うっすら目尻に涙の滴がきらり、光っているように見えたのは気のせいだろうか。

『はむっ!!』
「っユト!?」

咄嗟にギャリーの差し出していたフォークに刺さっていたプチトマトにかぶりついていた。

『っ!!うぇっ…!…はぁっはぁっ…マズ…食べた…よ、ギャリーッ…。』

ぱぁっっと音がつきそうなくらい一気に笑顔になったギャリー。
とっても可愛いと思った。

「ユト…ありがとう。とっても嬉しいわ。」

彼は晴れやかな笑顔でそう言い、そのまま…。

僕の口に2個目のプチトマトを押し込んだ。

『むがぁっ!?』
「はい、あーん。」
『うぇぇっ!!あーんどころじゃすまねぇよこの野郎がぁっ…!!』

そういう間にもどんどん僕の口にギャリーは笑顔でプチトマトを押し込んでいく。
…こいつ、…僕を騙したなっ!?

『ゴホッゴホッ…、え、演技かよ畜生!!いや可愛いもん見れたからいいけどさぁ!?』
「いいじゃない。トマト嫌い克服できたんだし。」

ぐいっ

『うがぁぁぁっっ!!何個食わせる気だ!!』
「ふふ…全部♪」
『(もう駄目だ…。)』

まぁギャリーにあーんなんてしてもらえたしそれはよかったんだけど。
克服はできてねぇよ。むしろトラウマだよ。
ギャリーが、「これからはこういう手も使えるわね…」とか呟いてたのは空耳だと思いたい。

…こんなもんが僕の日常なもんで。
今日はこれでよしとしよう。

(『だが覚えてろよ…?仕返しは必ずしてやる…。』)

(「…危ないコトはやめてね?」)

(『さぁ、どうかな?…あはは。』)


…気づいたらまだ今日、始まったばっかりでしたね。朝から無駄に疲れたよ畜生。

(「(やっぱトマト不味いわ。)」)


-fin-

随分時間がかかりましたが、兎煮様へ!
トマト、私は普通に好きなので、不味いところを考えるのに少々時間が…///
あーんはもういっそ口移しにしてしまおうかとか血迷いました。

駄目だな僕。

では、兎煮様!今後ともお世話になります!
ありがとうございました!
兎煮様のみお持ち帰りOKです。

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