小説 | ナノ


「残されたふたり」

はじめまして、私、ユトっていうの。
ちょっと私の話、するね。
私はずっとずっと、ずうっと前からここにいる。この美術館に。
そう、私はお父さん、ゲルテナの作品。
ここはみんないるし、みんな面白いし、楽しいよ。
でもやっぱり、ずっとだと寂しいんだ。
メアリーみたいに、外に出たいな、お友達欲しいなって思っちゃう。

ここにはごくごくたまに、外の人が遊びに来るの。
でもここは本当は、外の人が来るべき場所じゃない。来ちゃいけない場所なの。
だから、出たがってたら出口まで私が案内してあげる。みんな邪魔してくるけどね?
作品ってことは、もちろん秘密にするよ?昔言ったら攻撃されたり逃げられたりして案内できなかったの。・・・痛かったし。
まあ、みんなが出るギリギリにたまに言ったりするけど。だって出口だったらそんなことされないもの。
・・・本当はね、知ってるの。
その人たちの薔薇を奪えば、ここから出られるって。
知ってるけど私はしないよ、メアリーみたいには。だって、そんなこと、ひどいじゃない。
出たがってるのに、それを邪魔するなんて。
・・・やっぱり寂しいな、さみしいなぁ・・・誰か遊びに来てくれないかなぁ・・・?

どれくらい待ったかわかんないけど、人が来た。それも2人。
メアリーと同じくらいの年に見える、可愛い女の子と、格好いいけどちょっと変わった大人のお兄さん。
私は嬉しくて、すぐに迎えに行った。
お兄さんはギャリーさん、女の子はイヴちゃんっていうらしい。
2人とも私もここに迷い込んだ人の1人だって勘違いしてた。でもそれでいい。
出たいって2人とも言ってたから、私はなにげなく出口へと案内してあげた。
2人は私の会ってきた外の人の中で一番楽しい人たちだったけど、一緒にいたかったけど。
出たがってるんだから私のわがままで閉じ込めちゃいけない。そんなひどいこと出来ない。
道の途中でメアリーに会った。メアリーも気づいて迎えに来たみたい。
メアリーは嬉しかったのか号泣しちゃってた。可愛いなぁ。
メアリーは同じくらいの年頃の友達を欲しがってたから、イヴちゃんと仲良くなれて嬉しそうだった。
ここにいる作品たちは、私を含めてメアリーよりも少なくとも見た目的には5歳以上は年上だったから。
良かったねって最初は思ったけど、しばらくしてそれは間違いだったって気づいた。
メアリーは外に出たがってた、私と違ってどうしても。そこにイヴちゃんが来た。
メアリーは・・・イヴちゃんと出たがってる。どうしよう、ギャリーさんの薔薇を奪う気でいるんだ。
イヴちゃんがギャリーさんと話すたびに、憎らしげに顔を歪めて。ああ、なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。
メアリーはイヴちゃんと2人きりになりたいから、作品を使ってギャリーさんと離れ離れにした。
ギャリーさんは私にいろいろ話しかけてくれてたけど、私はその間ずっとどうしようって考え続けてて。
気づいたら私は独りで、メアリーの青いお人形さんにギャリーさんは捕まってしまってた。

メアリーの正体が・・・バレた。
違う、メアリーだけじゃない、私も。
その時、ギャリーさんは私から逃げたんだ。
メアリーが倒れちゃった後、私は必死で説明した。
2人を出口まで案内したいんだってことを。
でも2人の私を見る目は、お人形さんや無個性さんや、赤い服の女さんを見る目と同じ、鋭く刺さるみたいで。
耐え切れなくて私は泣きながら逃げた。
ずっとずっと、泣いてた。落ち着くまで。
落ち着いて、2人が気になって。出口まで行ってみた。
そこで私が見たものは、嬉しそうに絵の中に飛び込んでいくメアリーの後ろ姿だった。
ギャリーさんは、出られなかったんだ。私がちゃんと最後まで案内しなかったから。
廊下の途中で、壁にもたれかかって眠るギャリーさんがいた。
ギャリーさんギャリーさん。
『ねぇ、ギャリーさんギャリーさん。』
「・・・・・・」
『ギャリーさん、起きて。』
「・・・・・・」
『ねぇ、ギャリーさんってば。』
「・・・ん・・・、ん?」
肩を掴んで軽く揺すると、ゆっくりとギャリーさんは目を開いた。
そして見開く。私がいるのにとっても驚いたみたい。
『ギャリーさん、ごめんなさい。もうギャリーさんは・・・出れないんだ。メアリーが出ちゃったから・・・』
それを聞いて、悲しそうに目を伏せたギャリーさん。
つられて私も俯いてしまった。
「・・・ユトの所為じゃないわ。アタシがアンタを拒絶したんだから、作品だからって。」
『そんな貴方も今や作品・・・なんですね。ごめんなさい、でも・・・本当は・・・嬉しく思っちゃったの。ひどいよね、こんな私。ギャリーさんと一緒にいたいからって・・・。』
また涙が溢れ出す。ダメだ、一番悲しいのは出られなかったギャリーさんだもの・・・。
申し訳ないけど、でも、嬉しいの。ごめんなさい・・・。
私の頬に触れる手。びっくりして顔をあげる。
ギャリーさんが、私の涙を拭ってくれていた。
「アタシもアンタと一緒なら・・・ここで過ごすのもきっと楽しいわ。よろしくね?ユト。」
『・・・え?嫌じゃないの?』
「そりゃあ出られないのは残念だけど・・・グダグダ言ってはいられないし!ココの事、いろいろ教えてね?」
『あ・・・はい!もちろんです、ギャリーさん!』
「じゃあまず、さん付けと敬語は無しで。」
『え!?む、無理が・・・』
「これからよろしく。」
『・・・ええ、よろしく。』
お互い悲しげに、儚げに、寂しげに、でもちょっと嬉しげに笑った。

「メアリー見て、この絵。」
イヴが指さすのは「残されたふたりの肖像」という絵。
1組の男女がお互いに寄りかかって眠っている絵。2人は茨に囲われて、微笑んでいる。
「・・・ふーん、よかったじゃない・・・。」
「え?何か言った?」
「あ、イヴ、この絵がどうしたの?」
「なんだか、ちょっと懐かしくて・・・なんでだろう。」
「イヴ、変なの!あ、でも2人とも幸せそうだね!」
「寂しげにも嬉しげにも見えるね・・・」
「イヴ・・・?」
「なんだかこの絵を見てたら、こう胸がギュってして、でもふわってして。」
・・・よくわかんない、とイヴは笑う。
メアリーも笑う。
そんな2人を、肖像の2人は目を細めて嬉しそうに眺めていた・・・。

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