崩れたら、もとの形には戻らないの
現在、5歳。
マサラタウン在住です。
あれから私は両親の二人に、しっかりと育ててもらった。
お母さんはいっつも窶れた顔をしてたけど、優しく接してくれた。
お父さんはちょっと怖い感じだったけど、愛情の裏返しだと思ったら、嫌えるわけがなかった。
でもお父さんとお母さんは仲が悪かった。…いや、どんどん悪くなっていった。
私が生まれた頃はそんなに悪くなかった。むしろいい方だったんだと思う。
だけど、ある日を境に変わっていった。
まあ、まだあの頃は私には直接的な被害はなかったんだけど。
でも最近は特に二人の仲が悪い。
それと比例するようにお母さんの窶れはどんどん酷くなり、目の下の隈も目立つようになった。
そして夜、狂ったように暴れるようになった。
医者によると精神的な病っていう話だけど実際のところはよくわからない。
酒を飲みあさり、ないとキレ、私に八つ当たりするようになった。
蹴って、殴って、泣き叫んで、それでもたりないらしく、家の窓まで割ろうとする始末だった。
それをお父さんが叱り止める。大体は暴れる前に止めるけど、出張の時は地獄のようだった。
私を生んでくれた、あの優しかったお母さんが暴力をふるうなんて信じられなかった。信じたくなかった。
でも、次の日はお父さんが撫でてくれて、お母さんは泣きながら謝ってくれる。生まれたちょっと後に、お母さんがくれたカゲボウズはずっと一緒にいてくれた。
ちょっと痛かったけど、家族なんだって実感できた。
でも、終わりがきた。
もとから不安定で、いつ崩れるかわからない、まるで一本柱の上でゆらゆら揺れていた関係は崩れ落ちた。
お父さんが死んだのだ。
ただ、その日は朝から頭が痛いっていってて、でも休めない仕事があるからって頑張って仕事に行った。
「心配しなくていいぞ、パスカ」
なんて朝、大きな手で頭を撫でながらいってくれたのに。
くもまっか出血だかそんな病気だった気がする。
「何で!!何でなのよ!!おかしいでしょ!!あの人は死んで!!なのに私とアンタは生きてて!!なんで!!ねえ何でなのよ!!ねえ!!」
あれから、お母さんは狂った。
ひたすら私に暴言を浴びせ、私を蹴り、ついにはお母さんが退治にしてたポケモンまで蹴るようになった。
そんなお母さんの様子を見て、近所のお馴染みオーキド博士がたまに様子を見に来てくれた。
そこまではよかったのだ。
「ねえ、パスカ。これおかあさん、これなあに?」
「お金よ、それで我慢して。あとは、オーキド博士に頼んであるから」
じゃあね、元気に暮らすのよ
そうお母さんは言い残し、私は家から出ていく背中を見送った。
あとで迎えにきたオーキド博士は、悲しそうな顔をしていた。
どうやらお父さん。
カゲボウズ以外に私の家族はもういないらしいです。