流された道も運命



夜が明けお日様が空に登る頃、絶賛暇満喫中だった私は朝ごはんの焼き魚をつつきつつレッドくんと食事をとっていた。

「ねえレッドくん」

「……なに?」

「今日、ものすごくひまなんだけど」

どうしよう、なんて言えば少し面倒くさそうに眉を潜めたレッドくん。どうでもいい話をふってしまったな…と後悔していると、レッドくんはマサラにちょっとでてみるとか、あとは…うーん……タマムシデパートで買い物とか?と丁寧に答えてくれた。どうやら眉を潜めたのは面倒くさかったからではなく、考え事の副産物のようだ。それに気づきひとまず安心して思考を開始する。マサラに帰るか、それともタマムシか。

個人的にはどちらでも楽しそうではあるが、なんだか買い物にレッドくんを付き合わせるのは申し訳ない気がする。

「…………うん。マサラにいこっか!」

「…了解」

少し嬉しそうに広角をあげたレッドくん。よほどマサラが好きらしい。それにつられ私も笑ってしまった。

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始まりのいろの名に恥じないぐらい、爽やかで、まるでなにかが此処から始まるんじゃないかと思えるマサラタウン。空気も綺麗で、皆優しくて、なによりおじいちゃんがいて。安心できるこの街は私とって故郷ともいえる街だと思う。もちろん、カノコだってそうだが。


レッドくんのご好意でリザードンの背中に一緒に乗せてもらいここまで飛んできたので、地面に下りるとどこか足がふわふわした感覚にのまれる。運んでくれたリザードンの頭を数回撫でると、レッドくんはそれをボールに戻した。

「なんかちょっと前に来たばっかりなのに久しぶりな感じがする…かも」

「……かもね」

最後に来たのはトウヤくんにここまで送ってもらった、戻ってきた当たりのときだ。そんなに時間が立ってないのに久しぶりに感じるのは、やっぱりこの街が好きな証拠なのかもしれない。


リザードンはおじいちゃんの研究所の前に下ろしてくれていたのでほぼ移動せずに戸を叩いた。別に勝手にはいっても怒られないとは思うんだけどな…とレッドくんがぽそっというが何か悪い気がしてそれができない私がいる。でもなんだかんだ、そんなことをいっていたレッドくんも同じ様に変なところで律儀らしく彼も戸を開けずに中から研究員さんが出てくるのを待っていた。

少しすれば、研究員さんによって戸が開かれ、中に入ることができた。では、ご案内は……行き方は覚えていらっしゃいますか?はい。大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます。いえいえ、ゆっくりしていってくださいね。研究員さんと話終わった後奥にに進む。そんなに頻繁にくる所ではなかったが、少し前にも一度来ているし、なおかつ昔あれだけ歩き回った研究所だ。忘れるわけがない。

目的の扉の前に着くと戸を数回ノックした。なかからおじいちゃんがなんじゃー?と眠そうな声で返事をしたので、まだ私達が来たことは知らないようだ。


扉を頭が入る程度に少し開け、其処から部屋の中を覗き込む。ちょっとぶりだね、おじいちゃん。なんていえば声と同じ様に眠そうであったであろう目が見開かれた。あれ、そんなに驚かれるの?と少し一人で焦っていると、おじいちゃんは見開いた目を優しく細めそうじゃな、と微笑んだ。

入りなさいと促されるまま私とレッドくんは戸を潜った。おじいちゃんはいつもの定置に座っていて、少し仕事疲れの残った顔でよくきたね、そこに座りなさいと快く迎えてくれた。

「ところで、今日はどうしたんじゃ?」

「んーと、何かあったというか何もなかったというか……」

言葉を濁せば隣に座ったレッドくんは横から…暇だっただけ、と私の濁したことをなかったかのように発した。なんじゃ、そういうことかと顔を綻ばせ笑うおじいちゃん。迷惑がられていなくて安心した。


それから話は止まることを知らずに話題をふっては話しを繰り返していると、来たときはなんとなく前や後ろにあった太陽は気付かぬうちに頭の上まで登っていた。

「ちょっと話すぎちゃったかも」

「どれ、お昼にするか…ん?」

おじいちゃんが腰をあげようとしたちょうどその時、私のポケギアが鳴り出した。ちょっとごめんね、とそれをポーチからとりだし、電話にでる。着信元はクチバのポケモンセンターからだった。ジム戦の予約に電話番号が必要なので別段不思議なことではないが何かあったのだろうか。

「はい、もしもし」

[あ、パスカさんですね。突然お電話してしまい、申し訳ございません。…今、お時間ありますでしょうか?]

「大丈夫ですよ。何かありましたか?」

[それがですね………]

ジョーイさんはゆっくりと申し訳なさそうに話した内容はマチスさんがイッシュから戻ってこない、という何とも衝撃的な内容だった。どうやらジョーイさんが予定の便で帰ってこなかったことを不思議に思ったらしく電話をしてみるとバトルサブウェイで戦ってるからまだいけない、という趣旨の返答だけで切られたらしい。

本当にすみません。マチスさんには困ったものです…とジョーイさんが申し訳なさそうので大丈夫ですよ、と声をかける。仕事といえども白衣の天使に非はないし、謝られると昔から私はどうすればいいかわからない質の人間なのだ。

[でも…多分なんですけど、マチスさんこの調子じゃ暫く帰ってこないと思うんです]

「…へ」

[実はですね…以前イッシュにちょっと行ってくるといって出て行ったきり2ヶ月戻らないことがありまして………]

……予想以上の帰ってこなささにより唖然とした。このままではクチバジムを攻略できないではないか。というかPWTに居なくていいのかマチスさん……。

仕方がないからクチバジムを飛ばしていくしかないか…と諦めていたとき、いままで黙っていたおじいちゃんが突然そうじゃ!と言い出した。

「パスカよ!イッシュまでいってくればよいではないか!!」

「…………え」

そうと決まったらええと明日の朝一のチケットを予約して…あ、そうじゃ!ナナミにこれを渡してきておくれ。それであれとこれを預かってきて……と1人暴走し始めたおじいちゃんを止められる術も無く、ずいと渡された物を預かり説明を聞いた。



よろしく頼んだぞ、と最終的に袋に纏められた様々な書類やアイテムなどを半ば強引に預けられ私のイッシュ行きは決定してしまった。いや、別に行きたくないわけではないのだけれどもあんな感じに出てきたのにこんな中途半端で戻っていいものかと考えてしまう。

「…バトルサブウェイだけなら大丈夫じゃない?」

「なぜにバレたし」

黙りこくっていたレッドには私の単純な思考回路なんてお見通しのようで。レッドくんはゴーストタイプか。ジュペッタなのか…そんなことを考えていればレッドくんにぴっとみられ、モンスターボールの中のジュペッタには細やかな抗議をされた気がするので口には出さないでおく。

まあでも、たしかにレッドくんの言うとおりバトルサブウェイだけならなんら問題も無さそうだ。…知り合いに合わなければの問題だが。


「ああ!そうじゃそうじゃ!!レッドよ、一昨日ぐらいにヒビキがシロガネ山登ったのにいなかったと嘆いておったぞ!戦ってやったらどうじゃ?」

「…………」

レッドくんの無言の分かっているおじいちゃんは早速電話せねば!とポケギアを取り出した。ぴぽぽと慣れない手付きで電話帳を漁り電話をかける。相手も数コールで出たらしく、数十秒後にはおじいちゃんのポケギアからほ、本当ですか!?え、ちょ、シルバー連れてこれから向かいます!!なんて声が漏れてきていた。

シルバーって確かブルーちゃんの弟さんとおんなじ名前だなぁ。というかヒビキって名前何処かで聞いたことあった気がするんだけど……駄目だ、思い出せない。変な感じだ。

それにしてもまさかまたこんなに早くイッシュに行くとは……きっと今頃カスミちゃんは船の上なんだろうなぁ……いってばったりあっちゃったりしたら驚くだろうなぁ。

「……よし!チケットが取れたぞ!!夜にはクチバのポケモンセンターに届くようにしておいたぞ!」

「…あ!おじいちゃんありがとう」


なんだか流された感があるけども、一時帰宅が決定した。一抹の不安があるが、とりあえずクチバに戻る前におじいちゃんから貰った羊羹を頬張った。
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