空に溶け出す記憶


「よし、ついたよレッドくん!!!!!」

「はいはい…っと」

恒例のハイタッチを交わし、空を仰げば綺麗なオレンジ色の世界が広がっていた。ハナダを南下してついたのが次のジムがあるこのクチバシティだ。クチバはオレンジ夕焼けの色と称す通り、非常に美しい光景が広がる街だ。


実際のところ、本来ならばクチバにはお昼過ぎには着くはずだったのだが私が寝坊してしまいもうどうせ時間通りにはつかないしどうせなら一番綺麗な時間帯に行こうという優しい御言葉のお陰でいまこの時間帯に到着した。

しかし予想はしていたものの、それを数倍も上回るほどの筆舌に尽くしがたい光景であった。静かな波の音のなかで空は橙色にそまり、海はそれを写し出す。いるだけで穏やかになれるような、夕方のクチバほそんな街であった。

「…凄く、綺麗だね」

「……でしょ?」

僕も旅してたときにグリーンと一緒にみてさ、パスカにも見せたかったんだ。レッドくんはそうぽつりと呟き、空を仰いだ。見つめた空に何を思ったかは私には分からないが、きっと大切な思い出があるのだろう。逃げてしまった私には知ることさえ許されない、大切な思い出が。私は何も言えず、ただ同じ赤く染まった空を見つめた。


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[よし、じゃあ第1ステップよ!!]

「え、なんでカスミちゃんそんなノリノリなの!?」

2日後のジム戦の予約と部屋の確保をし、部屋で休んでいたところ、ポケギアに着信がきた。相手はカスミちゃん。カスミちゃんは明日にはイッシュに戻るらしくいそがしいはずなのに電話をしてくれたのでなにか緊急の用事なのかと思い心配になったのも束の間、カスミちゃんは第1ステップを始めるといいだした。いったいなんだってんだ。

そんなことはいいからはい!!第1ステップ!!!!!そう斬り込んできたカスミちゃんは本当に凄い子だと思う。あくまでいい意味で。

「…で、第1ステップって?」

[そりゃもう青汁…グリーンとの関係修復の第1ステップに決まってるじゃない!!!!!]

「あ…はいすみません」

勢いに圧されて謝れば、謝んなくていいのと止められた。それにしても、第1ステップとはいったい何なのだろう。話を聞けばどうやら私とあいつの仲直りの段階だそうだ。で、一回目だから第1ステップ。何から何までカスミちゃんにお世話になりっぱなりだなと凄く感じる。

「あ、具体的になにをやるの?」

[んと一回目だし、今回はグリーンの馬鹿写真でもみて少しでも恐怖心を拭おうかなあと!]

グリーン。あいつの名前が出るたびに体の震えが止まらなかったというのにいまではもう何も恐怖を感じない。それは本来ならば絶対に起こり得ないことだったのに、カスミちゃんのお陰で変われたのだ。いつもなら起こる震えのなさに、幸せな違和感を感じた。


どうやらカスミちゃんは事前に手を回していたらしい。この電話切ったら写真送ってもらうから!とだけ告げられて電話を切られたあと、どういうことなのだとおろおろしていればレッドくんからポケギアにメールが届いた。そのメールの中身は頼まれた写真、という本文に三枚のあいつの写真だった。

「…なにこれっ」

届いた写真に目を通せば、思わず笑みがもれた。三枚とも全部落とし穴に気付かないで片足を突っ込んでいたり、モンスターボールを抱えすぎて落としたボールを慌てて追おうとしていたりと、どれも滑稽なものばかりだったのだ。

三枚とも保存するのはさすがに良心が痛むので落とし穴のだけもらい受けた。一枚で自重した私に拍手をおくりたい。


あとでレッドくんにお礼を言わなきゃと思いポケギアを閉じようとしたとき、再びレッドくんからメールがきた。内容は至極簡単。クチバ港の近くで待ってる、というレッドくんらしい短い一文のみだった。何か用事だろうか。そう思い返信を入れようとがとりあえずいってみようと思い止めた。


クチバ港までは少しだけ距離があるので早めに出ようと荷物を纏める。空を覗けば涙の出そうな橙が包んでいた。
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