何だかんだで一歩前進




「ということで私と友達になって!!!!」

「え、ちょ、いや良いけど何故にいきなり!?」

ハナダジムでバトルをした翌日、何故だか私はカスミちゃんに呼び出されていた。今日もう暗いし移動明日にしようとハナダのポケモンセンターで休んでたとき、レッドくんのポケギアにその連絡が入ったらしいのだ。そして指定された喫茶店で待ち合わせ、時間が時間だったたまかがらがらであった中で椅子に座りとりあえずケーキセットを二人分注文し何のようなのだろうと考えた瞬間のこれだ。現状を当事者の私が理解できていない。解せぬ。

ただ、私のその言葉をきくと、カスミちゃんは満面と笑みになり、私の手をとってありがとうと言いながらそれをぶんぶんと通常より幾分か、いや滅茶苦茶速いスピードで上下に降った。これが花が咲くような笑顔というのかと考えるよりも揺らされ続ける私の手が痺れてきて辛かった。

少し表情に漏れていたのだろうか、それに気付いたカスミちゃんあああごめんね!!!!と急いで手を離した。それにより行き場を失った手が机に勢いよくぶつかったが、必死なカスミちゃんが可愛いので何も言わないでおこう。

「でも何でいきなり?」

「それはね…うんと、何て言えば良いんだろう…。んー、強いていうなら直感?」

ほら、びびびーって!なんて人指し指のみ立たせた状態の両手を耳のように頭の左右に乗せ、ジェスチャーしてみせるカスミちゃんにくすりと笑う。なんだかバトルの時とは大違いだ。合間を見てくれたのだろうか、店員さんがタイミングよく持ってきてくれた自分の分の紅茶とミルフィーユを受け取り直感って?と話を続けた。

「なんか、こう感性に訴えかけるようなものがあったみたいな?」

「なんか運命的なあれ?」

「そうそう!!!!」

やっぱり、パスカとは気が合うと思ってたのと嬉しそうに話すカスミちゃん。何このいい子。精神年齢だけ異様に高い私と友達になってくれるだけでもう万々歳で夢のような事であるよカスミちゃんいい子スク水あげるから嫁にこい。

「あ、どうせなら色々聞いてもいい?」

「いいよー!」

何てったって友達だもの、ね!その言葉を聞いたカスミちゃんはもげるんじゃないかと思うほど首を降っていた。なんだかここまで喜ばれると凄く嬉しい。

「えーと、んじゃあ身長と、体重なんて野暮なことはいかないからあとは…あっ好きな人とかいないの!?」

「いないいない」

「えー」

「何さその不服そうな顔は」

「いやーべっつにー?てかほらレッドとはどうなのよ?一緒に旅していい感じな関係とか…」

「ないない。てかレッドくんとは幼馴染みみたいなものだし」

そう答えればえーつまんないーなんてぶーぶー言いながらショートケーキを突っついたカスミちゃん。そんな彼女をみて何を期待してたのと言いながらミルフィーユを口に運んだ。そんなほのぼのとした会話の中、カスミちゃんは思わぬ一言をぶつけた。



「てかレッドと幼馴染みならグリーンともなんでしょ?そっちはどうなのよ!」


一瞬、身体中の血液が急激に冷えた気がした。そして過去のフラッシュバック。あいつだけが悪かった訳ではない。それでも襲い来る止まらない震え。私の異変に気が付いたのかカスミちゃんがえっちょっパスカ!?どうしたの大丈夫!?なんて心配してくれているが耳には入らない。持っていたフォークも皿と当たりカタカタと音をたてている。震えが止まらない。

段々と落ちた時の感覚を思い出してくる。支えのない身体、遠ざかる地面、そしてどくどくと流れる血とともに痛む太もも。次々と蘇る感覚に更に一層震え始めた手にそれを止める何かがあった。飛びそうになっていた意識を保ちそれを見ればそこにあったのはカスミちゃんの手だった。戻ったきた聴力で彼女の声を聞き取ればどうやら大丈夫、大丈夫と言っているようだった。独りじゃないと、何も心配要らないと言われているように思えたそれのお陰か自分でも手の震えが収まっていくのが分かった。


「…収まったみたいね。大丈夫?」

優しく、掴んでいてくれた手を放さずにそう問いかけてくれたカスミちゃんに申し訳なく思いながら大丈夫、ありがとうと伝える。カスミちゃんはそう、というとゆっくりと手を放した。

「……やっぱり聞いちゃいけなかったわよね」

「…カスミちゃんは、知ってるの?」

「ううん。ただ、何かあることは知ってるわ」

試したみたいでごめんなさい。でも、友達になりたいっていうのは本当だったから!!必死にそう訴えかけてくるカスミちゃんは弁解しなければと思っているようだがそんなことをしなくてもいいのに。むしろ友達になりたいなんて初めて言われたから凄い嬉しかったし、ありがとう言いたいぐらいだ。そのことを伝えれば…本当に?と少し目を潤ませながら聞いてくるカスミちゃんに勿論、といい笑った。

「…ねえ、それって誰かに話した事はあるの?」

「ううん。おじいちゃん…オーキド博士も優しかったから何も聞かなかったの。」

「……あのさ、よかったら、私がその話…聞いてもいい?」

「え、」

発言の意図が理解できず小首を傾げれば面白半分で聞いてる訳じゃなくてね、ただ、誰かに話したら少しは軽くなるし整理もつきやすくなるかなってと恥ずかしかったのだろうかだんだん小さくなる声でぼそぼそと呟いたカスミちゃん。その発想の転換はなかった。やっぱりカスミちゃんは優しくていい子だ。こんな子の頼みを断れる訳がない。

「…いいよ。」

「…え、本当に?」

「うん。だって私たち友達でしょ!」

いままでの私では決断できなかったであろうことをカスミちゃんのお陰で選択することが出来た。もしかしたら、なにか変われるのかもしれないと心のどこかで感じていた。

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「…そんなことがあったの」

「…うん。聞いてくれてありがとうね」

「ううん。話してくれて、ありがとう!!!!」

これでパスカの初めてもらっちゃった!なんて冗談めかしていうカスミちゃんをみて、この選択は間違ってなかったんだなと感じた。なんだか今まで覆っていた白い靄がとれたような、そんな軽くなった思い出に驚きながらもカスミちゃんは凄いねと言った。カスミちゃんはそんなことないと、そのことを誰にも話さずに一人で抱えてきたパスカのほうが凄いと言った。

抱えてきた訳ではなく、きっと逃げていただけだったのだと思う。言葉にすることで逃げていたという現実を理解したくだけだったのだと思う。それを伝えればカスミちゃんはそれを自分で気付いたのだから、凄いのだと言ってくれて、気持ちが楽になった。

「…なんだかカスミちゃん、魔法使いみたい」

「ふふふっそれじゃあ魔法使いの親友の座の魔女っ子でも目指してみる?」

「それもいいかもね!」

まだ何がとは明確には言えないが、きっと今日は一歩どころか百歩ぐらい駆け足で進んだ気がした。でもグリーンに今度あったらフエンせんべい五十枚とふっかつそう五十個ぐらいおごって貰わなきゃね!なんて笑うカスミちゃんにつられ、私も笑った。まだあいつに合う勇気はないけれど彼女と一緒なら、いつかきっとできる気がした。
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