永久に唄うのは君が為に










一瞬のうちに空へと舞い上がったあの子の身体。


それはあっという間に雲に吸い込まれて見えなくなっていった。


自然に溢れてくる涙を拭い、大きく、あの子に届くように手をふった。



その手に、感謝と希望を込めて、






…あの子が家に来てからもう何年たっていたんだろう。…軽く見積もっても10年以上はいた計算になる。


そんな我が子当然のあの子を送り出すのに、笑っていられる筈がなく、非常に辛い思いでいっぱいだった。

全世界の我が子をトレーナーとして送り出す母親たちもこんな感じなのかしら?なんて考えを頭のすみに抱え、ひとりぼっちになったこの場所で、あの子が去った後の空を見上げた。



思えば、早い月日だった。


あの子が来てから、本当に沢山の幸せをお裾分けしてもらっていた。あの子から貰った一つ一つの思いではいまだに熱をもち、心の中にしっかりととっておいてある。




親バカなんて言われるかも知れないが、実際にそうかも知れない。


あの子はとても、素敵な子だった。






でも泣いてなんていられないのだ。

あの子がカントーに行くように仕向けたのは、わたしなのだから。


あの子にグリーンがPWTに行くときにナナミも連れてきて欲しいと頼んだのも、オーキド博士宛の文書をわざわざナナミに渡すように言ったのも、トウヤにあの子をカントーに送るように連絡したのも、全部わたしの仕業なのだから。




…わたしはあの子に何かあったとき、全てを受け止めてあげられるくらい、大きな人にならなければ。カントー行きを間違ってなかったって断言出来る、そんな大人に。


それがわたしに出来る、彼女への償いなのだから。


きっとトウヤは、あの子にカントーでジム戦を勧めるのだろう。そして、それをあの子は実行する。だってあの子は、その最期に待ち受ける試練を知らないから。あの子がそれを乗り越えられるか、期待と不安がよぎる。


…あの子なら、大丈夫。きっと乗り越えられる。わたしが信じなきゃいけないわよね。

そしてそれが終わった時、あの子がこの研究所の扉を開けて、ただいまっていってくれることも。…ちゃんと羊羮準備してまってなくっちゃ


そんなことを考えただけでまた次に、あの子が成長して戻ってくる日が待ち遠しくなった。






――――――願わくは、あの子…パスカに幸が降り注ぎますように…
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