"ワイズ・ゲルテナ展が始まったらしい"
そう知ったのは、さっき入ってきた子連れの家族が話していたからである。
どうやら昨日から始まってたらしく、明日までらしい。
結構前から行きたいとは思っていたが、行けないことが確定してしまった。
なぜなら、親にこの花屋を任せられてしまったからである。
それも今日と明日。
昨日気づいていれば…、と後悔したがもう遅い。
諦めて来年にかけようと思い、ほぅとため息をついた。
「すみませーん、お見舞い用の花ひとつー!」
「はーい!」
どうやら、お見舞いにいくお客さんが来たらしい。
お見舞い用の花を1セットつかみ客の前にいく。
そこにいたのは最近の常連さん。
中年男性で、奥さんが入院しているだかなんちゃらら。
「おっ、今日はクラリスちゃんだけか、ごくろんさん」
「そうなんですよー、ガーベラのやつでいいですか?」
そういって橙と白を基調としたフラワーアレンジをさしだす。
そうすると、お客さんは笑顔でありがとうと呟きお金を払った。
「そういえば、親御さん達はどうしたんだい?」
「あぁ、あの人達ですか…
かわいー娘に店を任せて旅行にいってしまいましたよ」
「ははは、かわいいクラリスちゃん、1人でごくろうさん。明日もかい?」
「はい。そーなんですよー」
フラワーアレンジを受け取ったお客さんと会話をする。
「じゃあ可哀想に。ゲルテナ展楽しみにしてたのになー」
「本当に楽しみだったんですよー!
あーいきたかったー!」
「まあ来年もあるし、我慢しろよ
それじゃあな!」
そういって歩いて出ていくお客さん。
「まいどありー!」
大きな声で叫びふぅと一息をつく。
後ろに振り返ると、赤い薔薇が目に入った。
「精神の具現化を思い出すな…」
はっ、駄目だ。ゲルテナ展に行きたくなってきた。
いけないいけない。店番をしなきゃいけないんだから!
自分に気合を入れなおし、仕事に集中することにした。
その後もゲルテナ展帰りのお客さんとか、美大生がデッサン用の花を選びにきたりだとか、結構たくさんのお客さんがきた。
ゲルテナ展行きたかったな、やっぱり心残りするな・・・
そんなことを考えていたら営業時間は終了した。
早く来年にならないかな、なんて思っていたことは
自分だけの秘密だったり…