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突然首根っこを掴まれ、後ろに投げ出される感覚を覚えた。
周りを見れば、ラエが自分の服を引っ張ってくれたようだ。
その二人の上空を超えていく人影。装甲を展開し、イーギス達の盾になるリュウ。
「ぼぅっとしてんじゃねぇぞアホ」
「すんません。先輩」
ラエから叱責を受けるイーギスは素直に自分の非を詫びる。
「無事か?」
「あぁ」
「ならこいつはお前に任すわ」
リュウはそう言って別方向に目線を送る。そこにはハガンコンゴウの姿が見える。
既にこちら側に向かってくるコンゴウにそのまま走り出し正面から突っ込んでいく。
「ほら、いつまで呆けてんだ。さっさと倒してこい」
そう言ってラエはイーギスを乱雑にマルドゥークの方へ投げ出すと、シユウ堕天の頭めがけて鎌形の神機を振りかざした。
「‥あざっす!」
ほんとに頼もしい限りだ。自分もここらで応えないと申し訳が立たない。
「イーギス! 受け取れ」
後ろから声とともにアラガミ弾が受け渡される。小型が自分に近寄らなかったと思ったら、どうやらノジアが全て一人で討伐していたらしい。
受け渡されたアラガミ弾により、体が熱くなり力が湧いてくる。今なら空も飛べそうな勢いだ。
その力を目の前のマルドゥークにぶつける。
「うぉぉぉ!!」
叫び声とともに神機を突き刺す。全身の力を込めた突きはそのままマルドゥークの身体を貫通した。
「ふぅ‥」
全てのアラガミを討伐し終え、一息つく。
「付き合ってもらって悪かった」
近づいてきたノジアが、いつもの調子で話しかける。
「いやいや、こちらこそありがとうございました。先輩達のおかげでやりやすかったっす!」
そう言ってイーギスもまたいつもの調子で受け答えをする。
そのやり取りの最中にふと視線を感じた。周りを見ればタバコを吹かすリュウと目が合った。
「‥んじゃ、こいつは借りてくわ」
まっすぐ自分の方に来たリュウは、残る二人にそう告げ背中を軽く押して促してくる。
「あ、ちょ、リュウさん? まぁいいや。んじゃお二人ともお気をつけて〜」
イーギスは後ろを振り返り、ノジアとラエに手を振る。二人はそれを適当に見送り踵を返していった。
鉄塔の森をなんとなく歩く。当のイーギスを連れ出したリュウは終始無言である。
「いやー今日は何だかんだ忙しかったんすよ」
「そうか」
「アイリーンさん達とゲームしたり、響鬼さんにナンパに付き合わされたり〜。まぁ楽しかったんすけどね! あ、それはそうとリュウさんてアイリーンさんとどうなんすか?! 付き合ってるんすか?」
「いや、付き合ってはいねえな」
「そうなんすかー。告白とかは? あ、てか自分もお兄ぃって呼んでいいすか? なんちゃって」
そう捲し立てるイーギスをジッと見据えるリュウ。
何か地雷を踏んでしまったか思い、詫びの言葉を考えていると不意にリュウから話しかけられた。
「タバコは吸った事あるか?」
「へっ? いや、自分は無いですね。あ、でも吸えって言うなら吸えますよ多分!」
「そうか。タバコみたいに簡単にゃいかねぇよな」
いまいち要領を得ず、続きを視線で促す。
「吸い込んで溜め込んでばっかじゃいつか破裂しちまうぞ。タバコは煙を吸って、吐き出すからうめぇんだ」
ドキリとした。いや、これだけで反応してしまうのを見越しているかの様な問いかけをするリュウが少し怖かった。
フッと口端をあげるリュウ。まるで見逃してやると言わんばかりである。
そして何かを言いあぐねているイーギスに背を向ける。
それから少し歩いてまた止まった。
「気をつけろよ。お前の中もいつか解かれちまうかも知れねぇぞ」
今度はこちらを見ずに言い放つ。そしてそのまま先に歩き出してしまった。
「‥‥そりゃ怖い」
そう呟くイーギス。今自分はどんな顔をしているだろうか。
けれども不思議と嫌な気分では無い。いつかそんな『冒険』も許せる日が来るだろうか。
そんな事を考えて、歩き出した。
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