彫像にでもなっててくれよ、もう…1 | ナノ



少しでもにやついたら管理人の勝ち
(↑サブタイトル)



フリオニールがスコールとの手合わせを終え、ホームと称する森の一角に戻って来た時…ホームは血の海だった。
否、前言撤回。血の海は言い過ぎた。
ただ、あくせくとテントへ駆けて行くセシルの他に動く者は無く、下草は血に塗れ、地面に敷いた敷布の上に血塗れのティーダが寝そべって、申し訳なさそうな、情けない表情でこちらを見ていた。
風は柔らかく気温は温かかったが、吹いてくる風は一面に散った血の臭気を否応なく運んできて、フリオニールとスコールは、思わず表情を歪ませてティーダに駆け寄る。
「ああ、お帰り…」
丁度テントから水袋と椀を提げて出てきたセシルが、ティーダに駆け寄った2人に気付いた。
そのまま自分もティーダに駆け寄り、水を椀にあける。
スコールが慌ててティーダを抱き起こした。
「あ…ごめん、ありがとっス…」
セシルが椀をティーダの口に近付けて飲ませた後、スコールは再びティーダを横にする。
「何があった?!」
フリオニールがそれを見届けてからセシルに鋭く問い掛けた。
だが、こちらに視線を向けて来たセシルの表情を見て、フリオニールはいきなり気概を殺がれる。
酷く疲れてやつれ、ふらついていたからだ。
「あ…え? ごめん、何だって?」
「あ、フリオニール、俺が説明する」
下からティーダが言った。
思ったよりしっかりしたティーダの声に、フリオニールは面喰ってスコールと顔を合わせる。
話す対象が自分ではなくなったとみたか、セシルは今度は布を取り出して水で濡らし、ティーダにこびり付いた血を拭き始めた。
フリオニールもそれを手伝いながら、ティーダの言葉を待つ。
ティーダは言った。
「あんま、深刻な状況じゃあ無いんスよ。俺とウォーリアで魔導研究所行って、そこでまぁ、イミテーションと戦ったんスけど」
……。
「……で?」
「で。数が多かったもんだから、ちょっと引いた方がいいかもって話になって。で、そん時俺が頭切られて」
フリオニールはその言葉に目を剥いた。
「頭?!」
「あ、切られたっていうか、掠った」
ティーダは慌てて訂正した。
「骨まで切られた訳じゃなくて、本当に掠って切れただけなんス。ほら」
ティーダはそう言って、フリオニールとスコールから顔を背け、耳の上辺りの髪を掻き上げた。
傷はもう癒えているのか、そこには傷跡すらなかったが、髪の毛が広範囲に渡って、他の部分よりも極端に短かった。
「頭って、他のとこ切った時よりも多く血が出るんだろ?」
「あ…ああ、まぁ…」
「物凄ぇ血ぃ吹いてさ。俺もウォーリアもびっくりして。ウォーリアが俺抱えて慌てて帰ってきてくれたんだけど、俺庇いながらなもんだからさ、ウォーリアも結構怪我して。ま、セシルは俺もウォーリアも怪我自体は大丈夫だって言ってたけど」
スコールの眉間に皺が寄った。
「…で?」
「…で」
ティーダは苦笑する。
「俺、頭押さえながら帰って来たんだけど、ここに着いた時、地面の窪みでコケてさ」
で、押さえてた手が外れて、これ、と、ティーダが一面の血を示して見せた。
フリオニールは安心したか、力が抜けてその場にへたりこんでしまった。
安心して良いのか呆れて良いのか怒って良いのか解らない。
スコールが宥めるようにぽんぽんと肩を叩いてくる、その感触でどうにか冷静さを保った。
「ティーダ…お前なぁ…」
フリオニールが溜息と共に言った。
その横で、スコールが言う。
「で、怪我自体が軽いのなら、どうしてお前は横になっているんだ」
「あ、貧血」
「…成程」
スコールも納得したのか頭痛がしたのか、額に手を当ててそう言う。
ティーダ自身は、2人の心配や呆れを余所に、あっけらかんとしていた。
そのティーダが言う。
「たださ、俺とウォーリアの怪我治して、俺の貧血もどうにか話が出来るまで治してっていうの、セシルは魔法でやっててさ。俺、魔法のこと良く解んないんスけど、多分、今セシルが凄ぇふらついてんの、その所為だと思う」
「魔法の使い過ぎ…か」
魔力とは無尽蔵なものではない。
稀にティナの様な、無尽蔵かつ強大な魔力を有する者も居るが、大方の場合、無尽蔵ではない。
加えて、セシルが使える魔法は中級迄、それも白魔法に限られ、さらに聖騎士である場合に限られる。
これは、魔法を扱う者としては相当な下位に当たる。
それが、体力のある2人の戦士の傷を癒すとなると…。
「おい、セシル」
「あ…、え…え?」
…駄目だこれは。
フリオニールはスコールを振りかえって肩を竦めた。
完全に魔力が枯渇している。
魔法を扱えない者でも、通常、極めて少量ではあるが、魔力自体は有している。
それが無くなれば…。
「…セシル、ウォーリアはどこへ?」
「…、…あ…、ちょっと待ってくれ…今、思いだす…」
…こうなる。
それでも、これは2人の治療に必死になった結果だろうし、自分達が返ってきたことで、安心して気が抜けた所為もあるのだろう。
ここは拠点なのだし、これから敵を掻い潜って向かわねばならない場所も無い。
だからこそ無茶をしたのだろう。彼に非は無い。
第一、魔導士や魔法戦士でもない限り、魔力の枯渇は深刻な状態ではない。
フリオニールはセシルに問いかけながら、辺りに気を張らせた。
…彼の気配が、フリオニールの感知範囲に引っ掛かる。
場所はそう遠くない。寧ろ近い。
…水場?
「あ、そうだ、フリオニール…。ウォーリア、血を洗い流しに水場に行ったから…治し切れてないところもあるし…ちょっと見てきてくれるかい…?」
……。
多少、会話が噛み合っていない気もするが、所在は知れた。
「スコール、2人を見ていてくれ」
「…おい待て、俺はこんな状態の奴等の診方なんて――」
「ああ、心配するな。ティーダは血を拭いて…あとは2人共、もう眠らせておけば治るから」
「…解った」

水場は、野営地からそう遠くない。
少し大きな声を出せば直ぐに声が届く位置にある。
木々に遮られて野営地からは見えないが、常に泉に落ちる低く小さな滝の音が聞こえている位置だ。
故に、低い位置に突き出した枝を潜り、視界を遮る巨木を避ければ直ぐに、目の前には小さな、しかし澄んだ泉が広がった。
「君か」
瞬間、泉の中程、部分的に水の浅い場所に立つウォーリアから声を掛けられる。
多少驚いたが、彼のことだ。自分が気を張る以前から、自分達の帰還は知れていただろう。
「突然済みません」
フリオニールは苦笑して答えた。
…次いで僅か、眉根を寄せる。
澄んだ水の香りに混じって、微かではあるが、血の臭いがした。
フリオニールは言う。
「…セシルが、癒し切れていない傷があると…」
「ん…? …ああ」
ウォーリアは、今更気付いたように生返事を返した。
「…明日には乾いているような傷だが…」
「でも傷です」
「心配性だな、君は」
ウォーリアが言った途端、フリオニールはむす、と不機嫌に眉根を寄せた。
「痛みは本人も意図しないところで、気力を殺ぎます」
「ああ…」
ウォーリアは、彼に慣れた者だけがそうと知れる苦笑を浮かべた。
「水から上がったら治癒を頼む」
「…今でなく?」
「乾いた血糊が不快でな…」
「解りました」
治療の了解を得、フリオニールはやっと眉間から力を抜いた。
その場に居ることを拒絶もされなかったので、たった今避けてきた巨木の根元に腰を下ろし、幹に背を預ける。
直ぐ傍に、ゆったりと余裕の有る作りの替えの衣が畳んで置いてあり、その少し離れた場所には、血に濡れた青鎧と、同じく血を吸って固まった鎧下の黒衣が投げてあった。
フリオニールは巨木の根元から立ち上がり、鎧に付いた血糊を落とそうと、胸甲を持ち上げようとした。
「…っ?!」
重いっ…!
自分だって戦士である。
その上数種の武器を持ち歩いているのだ。力には自信がある。
その自分が重いと感じる…だとっ?!
「いや、良い、フリオニール」
ウォーリアが直ぐに声を掛けて来た。
「重いだろう」
「…」
…自分にも意地がある。
「…いえ!」
「…」
あまりの返答の強さにウォーリアは暫く言葉を切っていたが、意地になった今のフリオニールには何を言っても無駄と解ったのか、結局、フリオニールの好きにさせてくれた。
「済まない」
「あ、いえ。俺が勝手にやりたいだけですから」
やっと水辺に全ての鎧を持ってこられたフリオニールにウォーリアがそう声を掛け…。
フリオニールの返答があった後、2人は互いに微かな苦笑を浮かべた。
鎧の血糊を落としながら、フリオニールはふと、ウォーリアを見る。
仲間の1人がそこに居ることに何ら問題を感じていない様子で、彼は惜しげもなくその裸体を晒していた。
着痩せをするタイプの人なのだろう。
彼は、鎧や衣を纏っている姿からは想像が付かない程に完成された体躯を持っていた。
常に鎧や鎧下衣で覆われた肌は、戦士としては白い。
だがしかし、彼の持つ肉体や纏う覇気は、肌の色程度では軟弱という誹りを許さなかった。
耳の下辺りから喉の下まで線を描く筋が、首にくっきりとした陰影を刻む。
その筋の終わりから両の肩へと、今度は綺麗に浮きあがった鎖骨の線がなだらかな曲線を描きながら伸び、肩に差し掛かる部位で自然に消えていた。
通常、肩当てに隠された肩は、剣や盾が見た目以上に重いのか筋肉で膨れ稜線を描いている。
そしてその線は、やはり無駄なく鍛え上げられた二の腕へと、健康的な筋肉の稜線を描きながら流れていた。
肘の部分で一度、細く締められた腕は、肘の直ぐ下で再び盛り上がって急な稜線を描き、緩やかに手首まで下って指が長く大きな手へと繋がっている。
手の甲に指に繋がる骨の線と、その線の上に浮いた太い血管が見え、それがかえって、力の強い手であることを知らしめていた。




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