28 | ナノ
「…で、数歩歩いてってさ、ちょっと振り返ってバッツに聞いたんだよ。『怒ってねぇの?』って。そしたらさ…」
「何て言ってたんスか?」
「『ジタンに対して怒るより、自分に腹が立ってる』っつってた。距離が近かったのに、何で気付けなかったんだろって」
リハビリもほぼ終えた頃のある日の昼過ぎ。
ジタンはホームのテントを見下ろせる樹の枝の上に寝転がっていた。
直ぐ下の枝にはティーダが寝転がっていて、斜め上にはスコールが、幹に寄り掛かって枝に足を投げ出していた。
ジタンは、事の顛末を知りたがったティーダに成り行きを説明していて。
木々の葉を通して柔らかく斑になった光が、3人と地面の仲間達を包んでいた。
「あ〜、それっス。何でバッツとスコールは気付かなかったんスか〜?」
スコールへの問い掛けに、ジタンは苦笑した。スコールをちらりと見上げると、予想通り、眉間に皺が寄っていた。
「俺が隠してたからだろ〜? スコール達は悪くねーよ」
「ん〜…」
「何だよ〜」
歯切れの悪いティーダに苦笑を深くする。
ティーダは割合あっさり口を開いた。
「のばらが言ってたんスよ。『セシルがバッツに、何で気付けなかったんだい? って言ってた』って」
「ぇえっ?!」
枝の上で跳ね起きたジタンは、身を乗り出して下の枝のティーダを見る。
ティーダはジタンを見上げて、「あ、いや」と手を振った。
「『苦笑してた』って言ってたから、怒ってた訳じゃないと思う。ただ、その話バッツから聞いたスコールが珍しく目に見えて落ち込んでたっス」
な? と、ティーダがスコールを見上げれば、ふいと顔を逸らしてしまう。
「…な〜んか俺、今回本当に皆に凄ぇ迷惑掛けてんのな…」
再び、ジタンは枝の上に寝転がって、溜息と共に呟いた。
鳥の声。
風の音。
………。
…ややあって、スコールが口を開いた。
「…それはお互い様だろう」
あまりに間があったので、一瞬、何の話か解らなくなる。
「…そうか?」
やっと察して応えたのは、やはり結構な間が開いてしまった後だった。
「ああ」
スコールの返答は今度は直ぐに返ってきた。
「つってもよ〜。セシルとオニオンは完全に俺の所為で怪我したじゃん?」
「そうでもない」
言い募るスコールをジタンは見上げた。
「…スコール、慰めはいらねぇよ。かえって痛い」
「そうじゃないんだ、ジタン」
スコールが見下ろしてきたので、ジタンは視線を受けとめた。
「オニオンの怪我についてウォーリアから叱責を受けたのは、ジタンだけじゃない。クラウドもだ」
「はあっ?!」
ジタンの驚愕の声と。
「ああ、そういやクラウド怒られてた」
というティーダの声は、同時に上がった。
「何でだ?!」
混乱したジタンはスコールに叫ぶ。
スコールは冷静に…しかしジタンからは視線を逸らした。
「『高い戦闘力を持っていながら何故、力がその域まで及ばないと解っている仲間から、戦場で目を離した』だそうだ」
「そんな…。だって、それは…」
「『仕方ない』では済まされないだろう。下手をすれば、喪っていた」
ここに居る3人のものではない声が割って入り、同時にざわわ、と、ティーダの直ぐ側の枝が揺れた。
「お。クラウド〜」
ティーダの暢気な声がクラウドを呼ばわり、クラウドは片手を上げて応えた。
「ウォーリアに言われる前から反省していたさ。ジタン、お前達3人が戻ってくる前からな」
喪う可能性を考えるのはな、怖いぞ? と、若干片側の口角を上げて言う。
ジタンはひとつ、頷いた。
「それについては凄ぇ反省してる」
「反省ばかりでは駄目だ。きちんと自分を許してやれ」
「それが一番難しいんだよなぁ…」
そう言って、ジタンは溜息を吐いた。
虫の声。
風の声。
…………。
「…そういえば」
切り出したのはスコールだった。
「セシルも叱責を受けていた」
「ちょっと待てそれは理不尽だろ!」
ジタンは流石に言われた内容に飛び起きた。
スコールも同意を示すように頷いてくる。
「そう思う。…思うが、ウォーリアのことだから、必要なことだったんだろう」
「んな訳ねぇって…」
がっくりと肩を落としたジタンが、セシルは何と叱責を受けたのか、弱々しく聞いた。
答えたのはクラウドだった。
「『君なら仲間を護れると信じていた。この現状は何だ』。聞いていた限り、相当きつい調子での叱責だった」
ジタンはふと、月の渓谷で、オニオンがセシルに言ったことを思い出した。
まるで悪いのは彼の様に、「何があった」と。
そう。その前には、セシルからも言われた。
「未熟でごめん。怪我をさせてごめん」と。
ジタンは枝に突っ伏した。
自分を許せと言われた以上、今より落ち込むことは許されない。
「理不尽だ〜」
だからなるべく気の抜けた口調にした。
その後顔を上げる。




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