冷徹(問題児)の行くリテイナー日誌.6 | ナノ  


 わたくしのマスターは冒険者でございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは強く申しております。
 マスターにとっての御自身はそうなのでございましょう。しかし各国のグランドカンパニーやお仲間の冒険者の皆様と共にエオルゼアの危機、帝国の進攻を食い止め、帝国のアルテマウェポンを撃破してみせてくださいましたマスターは英雄であろうとわたくしは思っております故、お仕えするのを誇らしく思っているのでございます。
 ええ、アルテマウェポンを撃破なさいました。
 そうして、お戻りになられました。
 お戻りになられたのですよマスターが!!
 帝国のエオルゼア進攻基地本陣に潜入をし抗戦をし、更にはエオルゼア進攻部隊最強であろうアルテマウエポンをすら撃破し、生還なされたのです!!
 控えめに申し上げたところで激戦区! 戦争の中心部でございましたのですよ!? 敵将が集中し、最先端の魔導兵器の跋扈する、敵陣の懐中に少数の冒険者隊だけで切り込んで、生還なされたのです!
 マスターがどれほど否定なさってもこれはもう光の戦士以外ないではありませんか!!
 いやそんなことはどうでも宜しいのです! わたくしはもう……! もう……マスターが御生還されて、もうどれほど安心したか……!!
 ああもうどれほど心配して……!!
 あんなにも胸が潰れる思いをしたのは今にも昔にもございませんでした……!!
 いえ、いえ! 何も申し上げますまい。良いのです。マスターはお戻りくださいました。わたくし共にとってはそれだけで充分でございます!
 もう本当にそれだけで充分でございます。嗚呼マスター……!!
 ……。
 失礼致しました。
 取り乱しました。

 マスターが、此処リムサ・ロミンサにお戻りになられる前にエオルゼア全土を揺さぶる鳴動がございました。ですがその時のわたくし共は、マスターが生還なされたという報に、同じく生還された冒険者の皆様のリテイナー達と同じく安心して放心してしまっておりましたから、それが大きな問題だという認識はございませんでした。
 その暫く後、リムサ・ロミンサでわたくし共を呼ぶマスターの呼び鈴が鳴る音が、これほど美しいと思う日が来ようとは、等と、半ば夢のように思っていたのでございます。
 「参上致しました」
 「ほんとうに……わたしでいいの……?」
 お戻りになられて直ぐ、宿屋ミズンマストにてわたくし共を呼び出され、お荷物の整理をなさったマスターの甲冑には見知らぬ大きな傷や焼け跡がいくつも目立ちましたが、マスター御自身には大きな傷は無く、わたくし共は諸手を挙げて喜び大声で泣き出したい感情や表情を抑えることに、大変……たいっへん苦労を致しました。
 整理をされながらマスターは仰います。
 力尽きた軍兵や冒険者を出してしまったことは残念だけれども、それでも民間に犠牲が出なくて良かった。と……。
 ……。
 そのお言葉を聞いて、わたくしは喜びから一転。心臓の冷える心地が致しました。
 やはり各国は、いえ、冒険者の皆様御自身でさえも、冒険者を民の一人としては見ていらっしゃらないのだ……と。
 あの時、力尽きた冒険者の方々にお仕えしていたリテイナー達が発した号哭がわたくしの脳裏を過ります。
 冒険者の皆様が決して御自身を蔑ろになさっていると思う訳ではございませんが、民や国に対してのその献身のお心は何処から湧いてこられるのでしょうか。
 身を粉にして日夜戦われる冒険者の皆様を想う方が、我々リテイナー以外にも居ると信じたい。そしてその方々の為にも、あとほんの僅かばかり、御自身をお労いになられてはくださらないかと、傷だらけの甲冑を見て、わたくしは我儘にも、そう思わずには居れないのでございます。
 ……そう思ってしまうからこそ、わたくし共はマスターの庇護対象である「庶民」の域を出られないのでございましょうけれども……。
 そんなわたくし共の感傷を他所に、世界は目まぐるしく変化をして参ります。
 蛮神イフリートの再召喚につづき、グリダニアの精霊モーグリによる蛮神と思しき善王モグル・モグの召喚。マスターは何れも率先して討伐に向かわれました。
 何故そこまでマスターは身を犠牲にして世界を救わんと奔走なさるのでしょうか……。
 その答えは、マスターの所属なさる暁の血盟が、拠点をモードゥナにお移しになられる時に判明致しました。
 いえ、直接お伺いした訳ではございませんから、これはわたくしの思い込みに過ぎないのかもしれません。
 しかし、マーケットにてわたくし共をお呼びになり、マーケット出品商品の価格をご変更されておりました際、ふとお手が止まりお心をどこかへ飛ばされておしまいになられたマスターを見て、わたくしはそれを悟ったのでございます。
 ……マスターは、マスターがお護り出来なかったと嘆いた、暁の血盟の非戦闘員のお仲間や、あのシルフのような犠牲者を、もう二度と出したくないのだと。
 あのような思いを、もう二度としたくないのだ、と……。
 お仲間やシルフの亡くなられた現場であるウルダハの拠点をお移りになる。それだけでこれほどにもお心を飛ばされておしまいになる……。
 冒険者とは、武器を手に取り敵を傷付けることを厭わぬ野蛮な人種。そう思われていらっしゃる方々は少なくありません。
 ですがわたくしは思うのです。
 きっとそれは逆で、本当は、本当に心根のお優しい方々しか……務まらぬものなのだと……。

 冒険者さん、リテイナーが困ってるよ。

 マーケットの売人が苦笑してマスターにお声かけをなさり、マスターははたと我に返って、やや赤面さなり慌てたご様子で吃音気味にわたくしに謝罪なされ(とんでもない! いつまでだってお待ち申し上げますしそれが苦でもございませんのに!)、価格管理をなさり、また旅だってゆかれました。
 わたくし共リテイナーにその背を見送ることすら許されてはいないことを、恨めしく思うようになったのはいつからだろうと、控えの間に戻る道すがら、わたくしたぼんやりと考えていたのでございました……。




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