下心はありません | ナノ  
どうしてこんなことになったのか解らない。
解らないが、オニオンは膝立ちをしたティナのまろやかな視線に己が視線を絡め取られて、完全に硬直していた。
ティナは淡く頬に朱を昇らせ、期待に胸踊らせた様子でうっとりと瞬きをしている。
潤んだ瞳が薄い玉のような瞼に隠され、そして再び花開くように瞼が、睫毛が開く。
長い金糸の睫毛で縁取られた澄んだ光彩は、まるで精霊の住む泉の様。
縁取る睫毛は、まるで幻想の世界にのみ存在する、金で出来た草花の様で、おっとりと瞳の泉を守っている。
ふっくりと柔らかくみずみずしい唇は、健康的な色香を放って、笑うように、僅か、開いていて。
今にも熟れた果実の香りがしそうで、オニオンは頬に真っ赤に朱を昇らせた…否、首から上を更に赤くした。
…何でこうなったのかは解らない。…というか、覚えていない。
何がどうにかしてどうにかなった結果、ティナに接吻をねだられる羽目になったオニオンは、先ず、ティナの頬に口付けをしていた。
そしてティナから唇を、顔を離し、赤くなった顔で、もういいよね、と言おうとした矢先、ティナから頬にお返しの口付けをもらったりしてしまっちゃったりしたのだ。
次は? とねだるティナに、オニオンは相当躊躇った後、軽く…本当に掠める程度に、額に口付けを施して、直ぐに放した。
もっもう良いでしょ!?
…と、言いたかった。
が、口を開く前にまたもやティナに額への口付けを頂戴する。
次…は?
と…。
うっとりと幸せそうなティナの前から逃げることも出来ないオニオンは、額の時より更に軽く素早く、ティナの鼻筋に唇を落とした。
…そしてやはりそれを返されて。
…最後、は?
と、ふっくりと潤んだティナの唇が囁いて…。
そして冒頭に至る。
…真っ白に…否、猛烈な速さで言葉の羅列が脳裏を埋めて、真っ黒になった頭でオニオンは硬直していた。

ささささ最後って最後ってどういうことそういうことそういうことだよねつまれあれええとくくく唇ってことでいや駄目だよそういうのはティナに1番好きな人ができるまで取って置かなkあれでもそれって要するに今は僕が1番ってことでいや何言ってるの駄目だよ僕はティナを守るって決めたのに僕からも守らないでどうするのでもさほらこれはティナからお願いされたことであって姫の願いを叶えるのも騎士の役目って何言い訳しようとしてるんだよ僕はああでもこれ逃したら絶対もうこんなチャンスないってチャンスって何言ってるの僕は駄目でしょそういう不純なこと考えてたらああでもでもねティナの願い事は出来るだけ叶えてあげたいっていうのは普段から僕の純粋な思いでそうさそうだよティナの願い事を叶えてあげるって考えれば良いんだよ不純な思いじゃなくてさ何僕今不純なことをティナに対して考えてる訳いや違うよ違うからここは冷静にれれれれれ冷静に…!!

…意を決したオニオンがティナを見つめ返すと、ティナはうっとりと、ゆっくりと、接吻を待つ乙女の仕草で、目を閉じた。
…心臓が、これはもう動悸が激しいどころの話ではない。
脈を打つごとに爆発していると言った方が正しい。
ティナの柔らかく滑らかな腕に手を添えて、ゆっくり…ゆっくり…――。

「おおっとおぉここで主審の笛が鳴るーーっ!! 実況はこの俺ティーダが担当するっス! 今正にオニオン選手のゴールが決まろうというその時! 主審の笛が鳴り響いたぁ! これは反則の疑いかしかぁし! 主審の笛が聞こえなかったかクラウド選手とジタン選手がその場に乱入! あわや大乱闘かと思われたがその時! クラウド選手がオニオン選手の頭をがっちりキャッチ! これは動けない! 動けなーい!! 一方クラウド選手の守備でがら空きとなったティナをジタン選手がキャッチ! 一目散にその場を離れたぞこれは勝負あった! 勝負あったあああああああっ!!」

「…で?」
虚ろな目のオニオンが、ティナが見えなくなった時点で自分の頭を掴んでいた手を放したクラウドを見上げ、抑揚の無い声を出した。
クラウドは視線だけでオニオンを見下ろす。
「ティナには精神的な意味でまだ早いし、お前には早過ぎる」
何か文句は?
と言いたげなきっつい視線のクラウドに。
オニオンは視線を落とし、心底…心底安堵した長い長い息を吐いて、再びクラウドを見上げた。
「ううん。正直自分じゃ止まれなかったし、助かりました。有難うございます」
でもさ。と、オニオンは近付いてきたティーダと、クラウドを交互に見上げる。
「ティナを拐うの、ジタンじゃ不味くないですか?」
クラウドは首を傾けた。
「…何故? …って、あ」
…そうして、直ぐに気が付いた。
「…」
「…」
「…」

ジタンは、生粋の女たらし、で、ある。

瞬間。
凄まじい形相で弾丸の如く飛び出した3人が向かった先は、先程のティナとオニオンと同じ状態になっていたティナとジタンで。
間一髪、間に合った彼等の内、クラウドが突き入れた大剣のお蔭で、ジタンが口付けしたのはティナの唇ではなく、クラウドの大剣の側面だった。
「…俺に騎士流儀での忠誠を誓うとは、殊勝な心掛けだな、ジタン…?」
…顔面の上半分を闇色にして、眼だけを爛と光らせた3人に、ジタンが何を言えただろう。
顔を引き攣らせて、ジタンその場に尻餅を付いたのだった。

…ティナはと言えば。
間一髪。ジタンから引き離され、オニオンに抱えられ。
しかし全く状況が解っていない様子で、困ったように4人を見比べて首を傾けていた。


…ティナのお父さん、お母さん。
ティナは僕が守ります。
僕からも守ります。
え? 下心?
いや、えーと、あの……。


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