ナンバーシンボリズム | ナノ 8+1
イベント宿題
10様へ






っ何故勝てないっ!?
スコールは叩き伏せられた大地に爪を立て立ち上がろうとして…。
立ち上がれず、引き攣る身体で必死に足掻いていた。
呼吸は既に上がりきっている。
傷付いた身体は、今までの過度な機動に悲鳴を上げている。
スコールの両頬には、決して浅くない切り傷が付けられていた。
乾き、罅の入った薄茶色の大地は、倒れたスコールが立ち上がろうと足掻く度に、同じ色の乾燥した土埃を巻き上げ…。
水に餓えた喉が、スコールが荒れた呼吸でその土埃を吸い込んだことに激しく抗議をし、喉に張り付いた土埃を外に出そうと過剰に反応した。
スコールは瞬間、酷く咳き込む。
吐き気が込み上げるが、喉を湿らせる為の僅かな唾さえ出てこない。
空は、雨の1滴さえも望めない、酷く乾いた、薄い青で…。
際限なく拡がる乾ききった大地には、雲を呼ぶ風もなくて…。
…えずき…身悶え…。
その後、スコールは屈辱に爛と光る目で、今まで闘ってきた相手を見る為、顔を前方へ向けた。
自分が落ち着くまで、待っていてくれた…待っていられた…ことが、尚更スコールを惨めにした。
「…スコール…」
地に付したまま。
低くなったスコールの視線の先に居たのは、秩序の軍を率い、名実と共に自軍最強を誇る戦士だった。
…ウォーリア・オブ・ライト。
スコールは彼の顔にまで視線を上げ、見上げる。
…ウォーリアは嘆息したようだった。
「…もう、止さないか」
…ふざけるな。
スコールは半ば殺気掛かった、獣の目でその言葉を黙殺した。
溜息を吐かれたことが、尚更屈辱的だった。
「…私は何か、君を怒らせる様なことをしてしまったか?」
…何を馬鹿なことを…。
これはそういう問題ではない。
そういう…問題では…。

……。

…?

しかしその問は、スコールを多少、冷静にさせた。
スコールはふと、その問の答えを探して、自分の内側に目を向ける。

……。

…良く…解らない。
何故こうも彼の一挙一動に振り回されるのだろう。
何故、高が溜息を屈辱とさえ感じてしまうのだろう。
…。
彼の人となりが嫌いな訳ではない。
…苦手ではある。
だが、決して、嫌い、ではない。
…しかし。
だったら。
スコールは震える足で立ち上がった。
…だったら…何なのだろう…?
何故自分はむきになる?
…そんな自問に答えを見出だせぬまま、スコールはよろめくようにして彼に向かい、攻撃を加えるつもりで駆け出した。
…しかし、足元さえ覚束無い相手の剣を避けずにいる程、彼は戦闘に関して甘くはない。
また、武器を持ち向かってくる、戦意の衰えていない仲間に対して戦意無くその身を受け止める程、彼は礼儀知らずでも無い。
ひらり。
彼が重装備とは思えぬ足取りで軽く身を翻すと、いとも簡単にスコールの剣は標的を外して空を切り…。
足を掛けられた訳でもないのに、重装備な訳でもないのに、スコールは自重を支えきれず、足をもつれさせてその場に倒れ込んだ。
身体を支える為の腕が、ガンブレードの重さに引かれて咄嗟に前方へ張れない。
スコールは、顔から罅の入った大地に倒れ、走っていた速度のまま、大地で強かに頬を擦った。
既に切り傷のある頬を擦り、痛みに眉が歪む。
倒れた拍子に上がった土埃を、枯れた喉で吸い込んでしまって、スコールは再び酷くえずいた。
「…スコール」
僅か。
困った様な声がスコールを呼んだ。
倒れた背中に掛けられた声には、スコールが彼に抱く戦意の半分も無くて…。
……。
…否。はっきりと。
スコールへの戦意等、欠片も無い。
当たり前だ。既に勝負はついている。
…既に…勝負、は…。
スコールは歯を食い縛り、指先の破れたグローブを嵌めた手で、大地に爪を立てては握りしめた。
背後から、彼の穏やかな声がする。
「…君は、敗北に慣れていない様だな」
訳も解らず、敗北が確定して尚、ウォーリアへの攻撃を止めないスコールに彼は言う。
「君の、強くなりたい、強くあれという気概は称賛する。だが敗北を知らず、また敗者たるに慣れてもいない者は真に強くはなれない」
…勝手なことを!
スコールは大地に拳を立て身を起こした。
背後にて。彼は続ける。
「私とて彼の猛者やイミテーションの群れには何度も敗北している。敗北から学ぶことは多い」
…頭に。
血が昇った。
「…俺っ…は!」
何も知らない癖に…!
スコールは身体を入れ替え、地に尻を着けた格好でウォーリアに向き直る。
そうして叫んだ。
「っ記憶の無いあんたとは違う! 敗北から学ぶこと等無い!!」
…我ながら酷い…そして滑稽な言葉だったと思う。
…彼を…。
傷付けてやりたい…という気持ちも、あったのだと思う。
それは単に、勝てない相手への八つ当たりでしかないことを、スコールは頭では理解していた。
頭では…理解出来ていた…。
…叫んで直ぐ、スコールは後悔する。
しかしその後悔を直ぐに懺悔出来ない程、スコールのその部分は、まだ少年だった。
…彼は。
予想に反して、激昂も悲嘆もしなかった。
僅か…何かを考えるように視線を伏せ…。
…ややあって。
その蒼く鮮烈な虹彩が、地に座り込んだままの、傷付いたスコールを捉えた。
「では言い方を変えよう」
彼の口調は、スコールの罵声でも揺れていなくて。
両の手に携えていた剣と盾を納め、彼は自責に硬直するスコールへと言う。
「今の君に、勝利は何ももたらさない」
…スコールは目を見開いた。
彼は目を伏せてその鮮烈な、真っ直ぐな蒼の虹彩をスコールから隠し、首を軽く横に振った。
…彼の口から、3度目の溜息が零れ出る。
「君を見ていると、君の世界の機構が垣間見えるようだ…」
そう言って、再び顔を上げた彼の、その鮮烈苛烈な目は。
…彼に慣れた者だけが解る…今ならスコールにも解る…その表情が、苦悩・苦痛に僅か、歪んで。
スコールを哀れと…見詰めていた。
「戦果や功績が全てだったか? 軍は仲間を知り、統率が取れてこそ力を発揮するものだというのに」
スコールは呼吸を飲んだ。
…何故解る?
何故…知っている?
…ふと。
風すら無い罅割れた大地に訪れた、息の詰まる、一瞬の沈黙。
「…序列や順位を競っていたか? 敵の能力如何では、そんなものは全く何の意味も無いのに」
…スコールの全身が震えだした。
…意味が無い?
いや、ある筈だ。
だって…そんなの…。
上位の方が様々な相手に対処が…。
…再び。
雲の無い空に、耳鳴りのする、一瞬の沈黙。
「…常に上位を求められたか? 順位など数字上の意味以外有りはしないのに」
スコールの思考が真っ白になった。
…鳥さえ居ない荒廃した世界に、3度目の、重い、沈黙…。
しかしこの沈黙は短かった。
目を見開き、呆けた表情でスコールを見る彼は、揺れるスコールの青い目から視線を離さなかった。
「そうでなければ人格をさえ否定されたか? 数字に囚われてしまえば人である意味すら無くなるだろうに」
「人の能力は単一では量れぬものなのに、規定の基準以外は無視されたか?」
「数そのものに実体は無い。使う者や対象とする物によって全く意味を変える、媒とするには余りにも平等性を欠く欠陥品だ」
「人の価値は数では量れない。あんなものは目安にすらならない」
「…スコール」
「スコール」
「君は君だ」
「君は君なのだ」
「…解るか?」
「解ってもらえるか?」
「敗北した君を見ない仲間が、この世界の何処に居る」
「…っうあああああああっああああああああ…!!」
スコールは嗄れた喉で叫び、剣を掴んで跳ね起きた。
…何も…何も解らなくなっていた。
ただ剣を持ち、ただ彼に向かって。
攻撃を加えるつもりで、しかしもう既に攻撃の姿勢すら取れていない身で、思考は何も解らなくなった真っ白な状態のままで、今出せる全力で。
スコールは彼へとその身を投げ出した。 

……。
…彼は。
何も解らなくなったスコールから戦意が消えたと解釈したのだろう。
遮二無二突っ込んでくるスコールを正面から抱き止めた。
彼の二の腕に頬が当たる形でスコールは受け止められた。
今まで酷使してきた足が、先の過度な加速に悲鳴を上げ震えていた。
スコールが彼へ向かう際に跳ね上げた土埃が、風の無いその場所に舞い上がり漂っていた。
スコールの得物であるガンブレードが、スコールの手を外れ、音を立てて罅割れた大地に落ちて、小さく、土埃を上げた。
……。
…深…と。
乾いたその場を、静寂が支配した。
宙に漂っていた薄茶色の土埃が、やがてゆっくりと…。
ゆっくりと、罅割れた大地へ、音も無く戻っていった。
取り落としたガンブレードの上にも、土埃は薄く降り積っていた。
…ややあって。
その静寂を害さぬよう、気を使ったか。
酷く抑えた声量で、彼は静かに、スコールに言った。
「…ずっと…それを溜め込んで居たのだな…」
声すら漏らさぬまま。
スコールの見開いた目からは涙が溢れ出していた。
…溜め込んでいたのだろうか。
自分でそうと気付かなかっただけだろうか。
「…だから1人で居たかったのか。別れが辛いと、その理由だけでなく」
「比べられることが」
「比較をしてしまう己が」
「そうでなければ居場所を見付けられなかった己が」
「それを自覚し、嫌だと思い、それでもどうにもできなかったことが」
「酷く辛かったのだな…」
せめてしゃくりあげまい、と。
そんな努力も空しく、1度呼吸を吸い込んだ拍子に乾いた喉から溢れ始めた嗚咽を、スコールは止められなかった。
…そうなのだろうか。
違うのだろうか。
…違う。
…と、思いたい。
ならば何故、こんなにも…。
……こんなにも……。
「…気付いてやれず、済まない…」
…スコールは。
言うべき言葉も、言いたい言葉も思い浮かばず、ただ受け止められたその身を震わせ、受け止めた彼の身に爪を立てることで縋り付いた。
そんなスコールを、彼は女性にするように、抱き上げてホームへ連れ帰ることはしなかった。
ただスコールの良いように、好きに爪を立てさせて。
子供にするように、背を撫でることもしなかった。
ただスコールの良いように、スコールが落ち着くまで、彼はその場に、そうして立っていた。
雨雲を誘う生温い風がやっと吹き始める等という偶然は起こらなかった。
大地と空は、唯々、乾いたままで。
罅割れた大地に落ちた涙が、直ぐに土に吸われ、消えていった…。








25/2/3のオンリーイベントにて賜った宿題の内の1つ。
今書いてる長編の次に書こうと思ってた長編のネタぶった切って転と結のネタ全部詰め込んだった!!
やれば短くできるじゃないか!!(←)

…しかしやっぱり格好良いスコールは書きにくい部類のキャラだったのだった。
可愛いスコールなら書き易いんだけどなぁ…。
8ファンの皆様はるてを殴っていいと思います。


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