プライド

男にとって好きな女に弱い部分を見せる事は案外嫌なものである、しかしそんな男の心情を知ってかしらずか、お気楽な女達は図々しくもそれをしつこく催促し知れば嬉しそうに微笑むのだ。
何が悲しくて格好悪さを曝け出さねばならぬのか、全く女ってモンは未知の生物だ。
弱点を知られる事は男の沽券に関わる大事なのだ、強さは男の誇りなのだ。

好きだからこそ自分という存在を強くみせていた、しかもそれが大事で愛情深き女の前なら尚の事、見栄張ってでも俺はお前より強いのだと主張する事は当然だろう。
そうする事で俺を必要として欲しいから、俺無しでは生きていけぬよう、愛しい女をいつまでも縛り付けていたい。



―プライド―



しかしその反面意固地な自分に嫌気が差す。

「貴方の良い所も悪い所も、私にとっては愛しいものなんですよ」

俺の弱点を詮索され俺は頑なに口を閉ざす、何時までも白状しない俺に痺れを切らした部下でもあり恋人である松本は、柔らかな表情を見せ口を開いた。
その言葉を聴いて俺はなんて心が狭いのだろうと思った、松本は何時でもどんな時でも柔軟な態度で、俺を優しく包んでくれるというのに。

何故もっと優しく接してやれないのか、如何して其処で微笑み返してやれないのか。

嬉しさを、愛しさを他の輩に悟られるのが嫌だった、そして激しい感情を表に出してアイツに煙たがられることを畏れていた。
本質は嫉妬深くて強欲でそれでいて臆病で、醜さを曝け出して嫌われる事を畏怖しつい素っ気無くしてしまう。
実際は醜い感情が身体中に駆け巡り仲間でさえも殺意を漲らせていたりする、だけどそんな汚らわしい劣情を知られたくなくて、無理して平静を装ってみせていた。

嫌なんだよ、俺以外の男に触れられる事が、目と目が合うだけでも赦せねえんだよ。
会話をする事もあの豊満な身体を嘗め回すような気味悪い視線の数々も、全部。

総てをぶっ壊してでもアイツを俺だけにしか見られぬ様に閉じ込めてしまいたくなる、仕事などほったらかしで四六時中抱き続けたくなってしまう。
きっと一度その味を知ってしまったら俺は俺じゃ居られなくなると本能で予測している、甘美で妖艶なあの身体が俺を惑わせ依存させるからだと。
何よりも俺だけがアイツ無しで居られなくなることが、嫌だった。

愛は互いに必要としていなければ意味がない。
俺は松本を愛し、松本は俺を愛し、共依存していなければどちらかが虚しくなるだけだからだ。

「お前には弱点があるのかよ?」

自分が質疑されているというのに俺は話を切り替える、それを聞いた松本は年甲斐もなく頬を膨らませて不服そうにしていた。

「言ったら教えてくれるんですか?隊長の弱点」

「……それはお前の回答次第だが」

ニヤリと含み笑いをすると松本は釈然としないと口を尖らせて不平を漏らす、そんな彼女が可愛くて、愛しくて俺は珍しく歯を見せながら笑った。

「私の弱点は隊長です。……貴方が居なくなったらきっとうまく笑えなくなる」

そう言うと松本は先程の陽気さを失い寂しそうに俯いた。

「……殺傷能力抜群だな」

流石俺の心を鷲掴みにした女だ、俺の待っていた言葉をすんなりと言いやがって嬉しすぎて顔が緩んでしまう。

だけど、ずるい女だ。
今この状況でそんな事言われたら俺もそれに応えなきゃいけねえじゃねえか。

「私は言いましたよ。ほら、隊長も言ってください」

本当、ずるい奴だな。

お前、解ってるんだ、俺がお前の待ち望んでいる言葉が聞けると俺の性格を踏んであんな事言ったんだ。

「……休憩終了。早く持ち場に戻れ」

話を逸らす為に俺は職権を利用する、何食わぬ顔でソファから離れる俺に松本は不平不満の声をぶちまけていた。

「こんな時にまで職権乱用して、もう」

「待てよ」

ブツブツと文句を言う松本の腕を掴み彼女の顔を俺の背丈に合わせる、強引に引き寄せそして首筋に唇を当てた。


「……ッ」

「此れが俺の答えだ」

紅い紅い俺の痕。
お前は俺のものだという証、物的証拠を残さずには居られない位愛していて、そうする事で自分を安心させているというささやかなアピール。

男は意地を張る事でプライドを護っているんだぜ、愛した女にいつまでも傍に居てもらう為にな。



END

[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -