▼ 翻弄
相手を想う気持ちが強い程案外早く倦怠期はやって来るものなのかもしれない、其れは愛し合う回数が多ければ多い程、物足りなさや怠慢な性行為に寂しさを募らせていくから。
そんなマンネリ状態を打破する為に長年付き合っている男と私は様々な方法で愛し合っている。
刺激に飢えた私達にはどんな事でもどんな場所でも恥じらいを捨てて激しく乱れた、例えば真夜中の地下鉄の公衆トイレでの行為は、いつ誰か入って来てもおかしくない緊迫感の中で二人息を荒くしてそのスリルを楽しむ。
そしてデパートの屋外駐車場で真昼間から大きなワゴン車の影に隠れて彼の肉棒を貪っていたあの頃、人に視られているのではないかとヒヤヒヤさせながらも、私達の激しい身体の触れ合いで欲情して欲しい気持ちが昂った。
他に公園、映画館、図書館、遊園地の観覧車の中、満員電車の中、カラオケボックス、人目につく所では大方愛し合った。
だけど段々愛し合う場所が限られてくると再び行為がマンネリ化し始めた、どうにかして情熱的な情事を取り戻そうとつい最近二人で話し合っていたら、喜助が思いついたように提案してきたのだ。
「アタシ達がシている所を撮影するのは?」
今まで外でする事ばかりに気を取られてて考えもつかなかった事だった、私はそれは名案だと彼の提案に目を輝かせながら一つ返事で快諾する。
人間程良い刺激がないと生活にメリハリが無くなって退屈になってしまうものでしょう、だから私は彼と危なくてイケナイ事をして生活に潤いを与えている。
喜助と居ると毎日が楽しい、彼は他人が思いつかないような事を考えるのが上手くて私はそんな彼を凄いと思っている。
非道徳的な行為に明け暮れる私達に嫌悪を感じる潔癖な人って結構居るのかもしれない、私はこんなに解放感を得られる選択肢を自ら捨て去るなんて心底勿体無いと思った。
甘い甘い二人だけの密事を何時までも繋ぎ止めていたい、そう思うのはきっと大好きな喜助とだから生まれるのだろう。
付き合い初めと変わらず愛してくれる喜助の気持ちも私と同じだと思っていいのかな、一生涯身体を重ね合わせるのは私だけだと自惚れたって構わないでしょう。
密事を提案する愛しい恋人に賛同出来るのは、私だけなのだから。
「ああ、そういえば今日はホワイトデーじゃないッスか。アタシすっかり忘れてましたよ」
「……へえ、一度覚えたら忘れない喜助にもそんな事があるんだね」
忘れていたなんて白々しい、私は背中を押されながら誘導された場所を見て不審な眼差しで喜助を見た。
一月前の2月14日は訳も解らず何年も前に卒業した高校へと連れていかれた、何故学校なのかと聞けば”初めてこの下駄箱にチョコが入れられていたから”そう嬉しそうに放った言葉はあまり記憶力が良くない私でも覚えている。
「卒業してから此処に来るの二回目だね」
「そうッスね、あの日は数年前の青春の一ページを堪能させてもらいましたー。その時なまえから頂いたチョコは食べずに大事に家に保管してるッス。高校生だった時の君に貰ったものも含めて」
「……お願いだから捨てて。多分腐ってる」
「其れは出来ません。初めて女性から頂いた青春の思い出なんだから」
喜助にチョコを送った奇特な女は他でもない私、それを切っ掛けに私と喜助は次第に話す回数が増え休日に会う事が多くなり、自然と恋人に発展していった。
彼は割と記念日とか特別な行事を大切にする、何かある毎にお祝いをしてくれるのは嬉しいし大切にされている実感を与えてくれた。
ただ時々有能過ぎる喜助の記憶力は私を窮地に追いやってくれる、覚えていてくれて凄く嬉しいけどある種の羞恥プレイな気がして複雑な気分にさせた。
「まさか数年後に同じ事をする日が来るだなんて。恥ずかし過ぎて死にたくなったんだけど」
「だってどうしても再現したかったんス」
昇降口に立ち尽くしギロリと喜助を睨み付けると、彼は軽快に扇子を広げ意気揚々と笑い声を上げる。
"もっと恥ずかしくなる事してるのに"と手に持つ扇子をパタパタと揺らす光景に腹ただしくなった私は、軽く彼の腹部に拳を叩き付けた。
丁度一ヶ月前とっぷりと暗くなり人気の無くなった頃合を見計らって校内に進入した私達、私は当時自分が喜助にした行動を事細かく再現させられた。
その時は"面倒だなあ"と思いつつも、いつまでも大事に取ってくれているチョコの存在を知っていたから面倒ながらもそれに応えてあげた。
其れだけ喜助の中でとても大事にしてくれている記憶の一つなんだと、私も嬉しくなったから。
だけどすぐに後悔に苛まれた、一度じゃ満足しない喜助に気が済むまで同じ事を延々と繰り返す羽目になった。
流石にあの時の情景を完璧なまでに演じる事に対して嫌がらせに思えてきた私は、自分の恥ずかしさを喜助にも与えてやりたいという加虐心が膨れ上がり彼を押し倒してやった。
「さーて。本日のメインイベント会場へと参りましょうかあ」
「……」
長い付き合いを継続してきた私には彼の心の声が手に取る様に分かる、喜助はまた同様の事を実行しようと思って此処に私を連れてきた。
今度は1ヶ月前とは形勢逆転、喜助が私にした事を間違いなく彼は再現しようとしている。
誘導された場所は学校の保健室だった、しかも前回行った再現時には無かった制服と当初髪が長かった私の為にウィッグが追加され、本当にこの男は抜かりが無い。
それを顔歪ませて眺めていたら喜助は"早く早く"と足踏みをして待ち焦がれている、私は軽く溜息を付いて制服を手に取り、ベットを囲ったカーテンを乱暴に閉めて着替え始めた。
「……何で私がこんな事しなきゃならないの」
ブツブツと文句を言いながらも一枚一枚服を脱ぎ始める、しかし暫く経って下着姿になった時に妙な機械音が耳に入り私は着替えながら首を傾げる。
何だろうと音のする方向に身体を向けるとキラリと光る丸い球体と目が合った、"まさか"と思い勢い良くカーテンを全開にすると、既に学ランを着た喜助がビデオカメラを片手に不適な笑みを浮かべていた。
「ちょっと何してんの!」
大声で怒鳴り散らすと自分の怒声が部屋中に響き渡る、その声に驚いた喜助は人差し指を唇に当てて”シーッ”と興奮する私を落ち着かせた。
「だって此れが本来の目的じゃないの、アタシ達が繋がってるシーンを納めるって言ったじゃないッスか」
「……あ、そういえば」
口を尖らせて如何して怒られなければいけないのと不満を漏らす喜助、喜助の阿呆らしい思惑に見事に嵌ってしまった私はそういえばそうだったと苦笑いをした。
「解ったら早く着替えてくれません?アタシにも我慢の限界ってモンがあるんだから」
自分の主張したモノを抑えながらヘラヘラと笑う喜助の阿呆、つくづく自分は彼に甘いんだなと肩を落としながら思った。
「……着替えた」
「……」
「何……?」
頭にウィッグをしっかりと被せて喜助の傍に向かっていく、しかし彼は一言も口を開かず私は首を傾げて不審に思った。
珍しく真剣な眼差しで私を見つめる彼にたじろいてしまう、暫くして喜助は持っていたカメラを静かに机に置いて私に抱き付いた。
「……わっ」
強引にベットに押し倒されてギシギシとスプリングの押し戻る感触に動揺する、暫く押し黙ったままの喜助の背中を優しく撫でて私は彼が口を開くまで黙って待っていた。
「最高ッス」
そう小さく言葉を発して喜助は私の頬をそっと撫でる、彼の掌の温かさが幸せで私は目を閉じて彼のされるがままになった。
何度も繰り返し頬に触れ次第に唇へ移動した、クチュリと指を一本中に捻じ込んで嬉しそうに喜助は微笑んでいる。
「ん…っ…っふ…んう…」
「さあ始めようか。そうだなあ、あの時した事をそのまま再現してみるかい、……それとも」
そう言ったのと同時に制服を乱暴に引きちぎる。
驚いた私は両腕を突っぱねて身体を放そうとしたけど、簡単に組み敷かれて履いていた片一方のソックスを脱がして柵に縛り付けた。
「ちょっと、突然如何したの……ッ、痛いから解いて」
痛みで涙ぐむ私を楽しそうに見つめて一旦離れる、そして机に置いていたカメラを再び手に持って無様な私の姿を撮り始めた。
「昔が懐かしいッスね、あの時アタシはキミをこうして弄んでみたかった、だけど行き成りそんな事したら可哀想だから必死で我慢してたんです」
ギラついた瞳は初めて見る彼の本性を目の当たりにしているようだった、まるで獲物を狙う獣のようにその表情は恐ろしい。
「全身くまなく撮ってあげる、なまえの大事なトコも綺麗に残してあげるよ」
強引に脚を開かせて割れ目をそっとなぞる、怖い形相に反した優しい触れ方で私の其処はじっとりと湿り気を帯びてくるのが分かった。
割れ目部分を覆っている布を横にずらしてカメラを近づける、少しずつ濡れていく秘部をクスクスと笑いながら撮っていた。
「やだ、恥ずかしいからやめて…」
泣きながらやめてとお願いしても全く聞き入れてもらえず身を捩って抵抗する、しかし脚を押さえつけられてしまい秘部を撮り続けたまま指を挿入し始めた。
「…あっ…やあ…ぁ…っ」
わざと音を立てて私の羞恥心を煽っていく、入り口部分を引っ掻くように小刻みに動かし、絶え間なく喘ぐ私の反応を見て一気に膣奥まで挿れ始める。
「なまえは此処が気持ちイイんだよね?こんなに一杯涎を垂らして……。厭も厭よも好きの内っていうでしょう、今の君がどんなに嫌だと言っても説得力皆無ですよ」
「ひゃあああ…あ…んあっ」
膣で指をコの字型にして素早く掻き回す、厭らしい音と私の喘ぎ声で静寂な筈の学校は騒がしい。
愛撫を継続している最中でも喜助はカメラを回し続ける、時々私の顔をアップで撮ったり、ピンと勃っている乳首を撮ったり心底楽しそうだ。
「ちょっと物足り無いかなー。何か道具を使いたいッスね」
思い付いた様にベットから離れて台に乗せられたものをカチャリと手に取る、"今度は一体何?"と恐る恐る彼を見てすぐに背筋が凍りついた。
「コレ、なんだと思う?」
和気藹々と其れを持って私の顔に近づける、私は其れを見つめて泪を流しながら首を振った。
「そんなに怖がるモノじゃないから。ちょっと摘むだけ、こんな風にね」
淫核をそれで思い切り摘み上げる、先端の尖ったものは徐々に力を込めて摘む喜助のせいでどんどん食い込んでいく。
「……駄目ッ、おかしくなっちゃう、取れちゃう!」
「ピンセットも考えようによってはこんな使い方もあるんスね、流石にあの時は考えも付かなかったな」
グイグイと淫核を刺激する喜助、根こそぎ取られてしまいそうな位引っ張られて私は潮を吹きながら喘ぎ狂う。
秘部の突起物を摘んでいたピンセットを今度は乳首に変える、全身に痺れるような刺激が襲い私は身を捩って反応を見せた。
「や……ッ、もう勘弁して、ああん!ああ!」
「楽しいねもっと沢山乱れて。コレ見ながら明日から暫くするんスよね」
ギチギチと擦れていく手首を拘束するソックス
ヒリヒリ痛くて辛い、カメラを向けながら私に話しかける喜助の声は絶え間なく押し寄せる絶頂の波ですぐに頭の外に出ていってしまう。
思う存分楽しんでご機嫌な喜助はカメラをベットの片隅に置いて覆い被さった、溢れる秘部に指を挿入しながら私に声を掛け不敵な笑みを浮かべる。
「ねえなまえ、今日は何の日か知ってますか」
指を一本から二本、二本から三本に増やしながら私に口付けをする、私は息絶え絶えに彼を見つめながら口を開いた。
「あ…っ…ふ…ぁ…!今日…はっ…ああ…っホワイトデー、ああ……ッ」
「正解ッス。今日はアタシがキミに何かをあげる日だね。……でもねえ、アタシ何も用意してこなかったんス、物はあげられないんスけど、なまえは欲しいものある?」
「……!」
この男一体何処まで策士なの。
この状況で欲しいものって言ったらアレだけしかないじゃない、悔しい、完全に私を翻弄して楽しんでる。
でも悔しいけどあんたの作戦に乗ってあげる、というか乗らざるを得ない、此処までされたら引っ込みが付かない。
「喜助が欲しい、喜助の大きいものが欲しいの……ッ」
それを聞いて喜助はニヤリと笑った、素早く自分の衣服を脱いで私の両足を持ち上げる。
「了解ッス。ただ意識を保っていられるかな、激しく攻めるけど」
「……臨む所、あーッ」
一気に奥まで挿入してすぐに喜助は激しくピストン運動を始める、私の下半身を目一杯上げて上から容赦なく突きまくってきた。
「あっああっ凄い…っ何時もより激しい…!」
「なまえの乱れた姿見て欲情しない訳無いでしょう、君こそいつも以上に締め付けてそんなにアタシを先にイかせたいスか」
「っや…!あん!ああん…ッイっちゃうよお…!」
乱暴に私の身体を反転させて横から思い切り肉棒が出し入れさせる、角度や体位を変える度に違う部分が刺激されて気持ちいい。
腰を打ち付けながら両乳房を乱暴に揉みしだく、円を描くように揉みながら人差し指で乳首を苛めた。
背中から首筋にかけて舌を這わせていく、時々強く吸い付いては喜助はキスマークを至る所に散らしていった。
「……最後は何で締めくくって欲しいスか、なまえ」
「んあ……ッ、正常位が、喜助の顔を見ながらイきたい」
「目を閉じちゃ駄目ッスよ。ちゃんとアタシの顔を見て」
「うん……ッ」
体制を整えて腰を掴みながら絶頂へと向かう、打ち付ける度に喜助の腰骨が私の恥骨に当たって痛いけど気持ちいい。
「んあああッ、もう駄目……ッ、口に出してッ」
「ご希望のままに」
私が達したのを確認して喜助は肉棒を素早く抜く、そして彼は猛った自身を上下に擦りながら私の口元へ精液を放った。
何度かに分けて放出し入り損ねた白い液を私は舌を使って綺麗に舐め取る、正直此れをを飲むことは好きじゃないんだけど、激しすぎた行為で無意識に言葉に出していた。
「此れがアタシからのお返しッス、気に入ってくれました?」
嬉しそうに私の髪を、というかウィッグを撫でて満足そうに横になる、彼に言いたい事が山ほどあったのに幸せそうな其の表情に毒気が抜けてしまった。
「ありがとう」
私も笑って彼にそっとキスをする、そんな行動に喜助はきつく私を抱きしめてくれた。
「ずっとこうして居たいッスね」
「……それは無理。早く此れ解いて欲しいんだけど」
こんな事は一回だけでいい、自分が何も出来ないって歯がゆくて何とも言えない気分になるから。
「またまたー、そんな可愛い事言ってるとまた抱いちゃいますよ」
「痛いんだってば!」
いいから早く解けっていうの、手首痛くてヒリヒリしてるんだよ、誰かさんが力一杯縛り付けてくれたお陰で。
「最後に情事後のなまえの下半身を撮らせて終わりにしましょうか。……あれ」
手探りでカメラを取ろうとする喜助、しかし近くにあったはずのカメラが忽然と姿を消していた。
彼は焦りながら急いで後ろを見てまさかと床を見つめる、そのまさかは的中、カメラは床に落ちて見るも無残な姿に成り果てていた。
「……壊れてしまいました、折角綺麗に撮ったのに」
破壊されたカメラを涙ぐみながら見つめる喜助、未だ繋がれたままの私のこと等忘れているようだ。
「いいから早く解いてよ!」
それを聞いた喜助は拗ねながら拘束を解いていく、私はやっぱり子供みたいとクスクスと笑いながら彼を抱きしめた。
「そんなにガッカリしないでよ。来年だってあるでしょ」
「其れもそうッスね」
「ちょっと立場は変わるけどね」
「……はい?」
今日のように主導権を握らせはしないよ、今度は私が組み立てた計画で貴方を沢山愛してあげるからね。
END
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