傷心=哀願



人って何で感情てもんがあるんやろ、嬉しい、楽しい、悲しい。
僕には、”喜怒哀楽”の中の二つのものが欠落しているものやと思っとった。
此れまで特に心打ちひしがれる位傷ついた事も無かったし、例えそうでも直ぐに立ち直れたと言うのに。

たった一言が何時までも僕の総てをを束縛して、どうにもならん位心が沈んどる。



「大嫌い、なんて別に言われ慣れとるやんか、なあ」

そんな言葉、腐る程言われてきた。
不誠実に接してきた此れまでの数知れない女達、中には憎悪さえ感じた事もあった。

其れでも僕は何も辛くなかった、単に愛してなかった、其れだけや。

「僕って、誰からも愛されないんかな」

たった一人で良かった、僕を心から愛し今もこの先も僕だけを見続けてくれる、そんな女を捜し求めていた。
大抵の女は僕を見れば、尻尾振りまいて近寄ってくる。
相手の気持ちなんか簡単に解った、僕ではなく、僕の権力財力に惚れ込んでいたのだと其れこそ安直に。

誰もかもが瞳は濁りきっていた気がする、其れは僕も例外では無い。
煩悩の渦に取り憑かれ、自分の欲求を満たさんと貪欲になっとる。其れは自分も例外ではない。
そんなもんばかり見てきたから僕も其れに溶け込むように侵食されていった、悪意には悪意を、淫欲には淫欲を。

其のやり方は今でも間違って無いと、僕は胸を張って言える。



だけど一つだけ、一つだけ物凄く後悔に苛まれている。
そう、愛している筈の彼女に、歪んだ感情をぶつけてしまった事。

怖かったんや。
君は何時まで経っても僕に素直に向き合ってくれないから、毎日襲い掛かる不安に押し潰されそうやった。
僕だって心がある、頼りないけど善の心を持っている。

この世の中に居る人間達を敵に回しても構わへん。
僕は毅然な心で其れに立ち向かっていける、其れも僕やから。

だけど、君だけには嫌われたくない。
君の事を考えるだけで、僕は弱いちっぽけな男に成り下がってしまう。
君は闇に潜む僕の心に光を灯す、唯一の存在だった。
君の表情一つ一つが僕に生きる糧を与えてくれる。

嘘臭いと思われるかもしれんが、此れが僕の本心なんや…。



「君が傍に居てくれるなら、僕はもう意地悪なんかで君の気を引こうとはせん」

だから、だからどうか、僕を嫌いにならないで欲しい。
僕は君の為ならば、どんな事も出来る。
君が真面目に働けと言うのなら、嫌いな書類整理だって喜んでやってみせるから。



だからもう一度、君の顔を近くで見せて欲しい。

もう一度、あの頃の様な真っ直ぐな曇り無きその瞳で僕を見つめて欲しい。



決して消えない、初めて得た僕の大切な感情なのだから。



END

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