桜に幕

爺ちゃん、元気ですか。
俺が居なくて寂しい?寂しいって少しでも思っていてくれたら嬉しいんだけど。

俺は頗る元気だよ。
ただ手足が縮んで大層不恰好な姿になってるけどね。臭い蜘蛛に刺されてさ。めちゃくちゃ痛かった。
そんな災難に見舞われた俺は蟲柱の屋敷で絶賛療養中。苦くて不味い薬を三ヶ月間飲み続けなければならない過酷な任務を遂行してる。
三ヶ月って何。三ヶ月間も俺の華々しい青春時代を費やすに相応しい価値が、あの禍々しい液体にあると思えないんですけど。
しかも日に五回も体内に入れないと駄目だなんてさ、嘘でしよ、嘘過ぎじゃない。
逆に身体中のあらゆる機能が停止してしまうんじゃないのって位に苦すぎて、くすねた饅頭が喉を通らないんだよ。どうしたらいいかな。

この手紙を読んで爺ちゃん怒った?怒ってるよね、絶対に、確実に、怒ってるよ間違い無くさ。
俺だって精一杯頑張ったんだ。その上での名誉の負傷だったんだから許してよ。
きっと「馬鹿者!鍛練が足りん証拠じゃ!」って杖を振り回しながら叫んでるのかな。
やだ、怖い、怖い、怖い。お願いだから想像させないで。身体中戦慄が走りまくってまた饅頭が喉を通っていかない。

でも爺ちゃんの雷みたいに落ちてくる怒号は、嫌ではあったけど嫌いじゃないんだ。
怒ってる時の爺ちゃんはそりゃ末恐ろしい般若の形相で、俺はそんな爺ちゃんの姿を見ながら悲鳴を上げて咽び泣いてた。
生まれたての子鹿みたいに足をガタガタと震わせる俺を見る度に、爺ちゃんの怒りは過熱していったよね。「男の癖に簡単に涙を見せるな!怯えるな!」が常套句だったなあ。懐かしい。
だって仕方無いじゃん。本気で怖かったんだもん。一度鏡で確認すれば俺の気持ちが分かると思う。魂取られる位に酷い顔だったからね。
ああ、思い出したらまた寒気がしてきた。全身の皮膚が粟立つ。やっぱり饅頭は喉を通っていきません。俺の楽しみ奪わないでよ。
だけど散々叱り付けた後は同じ位沢山褒めてくれたから、だから怒られる事は嫌だったけど、嫌いじゃ無かった。
こんな俺でも人を喜ばせて役に立つ事もあるんだって、生きる価値はあるんだって、そう思わせてくれた爺ちゃんに凄く感謝してる。

爺ちゃんは覚えているかな。
俺が雷の呼吸の一の型しか会得出来なくて打ちひしがれていた時に、爺ちゃんが俺の頭を叩きながら伝えてくれた言葉。
俺は今でもあの時の事は鮮明に思い出せるよ。頭を撫でて貰えて照れ臭かったけど嬉しかったなあ。

相変わらず怯えるし、逃げるし、泣きますし。
どうしようもない情けない男だよね、俺は俺が一番好きじゃない。
でもいつまでもそんなんじゃ駄目だって、変わらなきゃいけないって、前々から思ってはいたけど最近はもっと強く思い始めたんだ。
俺は少しだけ、そして今も少しずつ自分を好きになってきてるよ。それは弱い俺も、頼りない俺も、情けない俺も、丸ごと全部受け止めてくれる人に出会えたからって確信してる。

爺ちゃん、俺に大切な子が出来たよ。

相手が誰かは言わずとも分かってるよね。ここ最近二人がやり取りしてる姿を隣で見てきた。俺はさ、本当は物凄く嫉妬深いんだよ。でも手紙の相手が爺ちゃんだって知ってたから何も聞かずに、文句一つ言わずに見守ってた。差出人が他の奴だったら泣き喚いて暴れて彼女に縋り付いて確実に無様な醜態を晒してる。まあ、本当はちょっとだけ爺ちゃんに妬いてたけどね。
それに彼女の嬉しそうな表情と音でどんな内容なのかは何となく察してたから、全然我慢出来た。俺って愛されてるよねえ。

改めて俺からもお礼を綴らせて欲しい。

大切な羽織を俺の袖に通させてくれて有り難う。俺に彼女を託してくれて有り難う。
羽織を手渡された時の爺ちゃんの言葉は今でも忘れてない、忘れられる訳が無い。
あの時爺ちゃんに少しでも期待されて信頼されてるんだって、実感出来て俺は凄く嬉しかった。
心が温かくなって気力が漲って、捨て子の俺にはこれまで親の愛情とか知らずに生きてきたけど、何だか家族みたいだなって思ったよ。
あの時本当の孫みたいだなんて思った俺は厚かましいかな。ごめん、いつも師匠と呼べって言われてるのに。

爺ちゃん、俺約束するよ。俺が一生を懸けてあの子を護るって約束する。両親が亡くなって親代わりとして育ててきた爺ちゃんみたいに、今度は俺が彼女と彼女の笑顔を守り抜く。
大切な子を護る事は今までずっと密かに願ってきた俺の夢だった。彼女と出会って恋仲になった今、その夢を現実のものにしたい。

もう彼女無しでは生きていけない。俺はあの子と添い遂げる権利がどうしても欲しい。
爺ちゃん。俺は弱くて情けなくて泣いてばかりのどうしようもない奴だけど、もっと強くなって、頼れる男になって、極力泣かない様に頑張るからさ。
だから、爺ちゃんの大切な孫をいつか家族として迎え入れてもいいですか。
ごめん、本当にごめんね。爺ちゃんが一番大切にしてる彼女の恋仲の相手が俺なんかでごめん。
でもさ、爺ちゃんの孫だって気付く前に俺は既に彼女に恋に落ちていたんだよ。俺はいつ出逢うか分からない孫と偶然同じ場所に居合わせて、何日か経って彼女が爺ちゃんの孫だって知った時、運命だと思った。
俺の運命の人が爺ちゃんの可愛い孫娘だった、それだけだ。

これからも俺はやっぱり怯えるだろうし、逃げる時だって、泣く時もあると思う。変わろうとする意志はあるけど、すぐには変われない。
でも俺は絶対に諦めない。爺ちゃんが俺にくれた言葉を胸に、彼女との事が今は認められなくても何度でも許しを乞うよ。

俺は爺ちゃんに貰った宝を、まだ何も知らない彼女と共有して後世まで繋いでいきたいから。


今日の夜は一層の静寂が室内に蔓延った。
何者も邪魔されない密閉された空間は私と善逸の緊張感の底上げを極限にまで高め、敷かれた布団の上で対顔する二人の間の張り詰めた空気が痛い位に伝わってくる。
ただし、双方が漲らせる胸中は確実に違っているけれど。

「善逸。私、疲れているのかな」

長い時間真下の布団と睨み合いを続けていた瞳を正面に移すと、口をぽかんと開いた間の抜けた善逸の表情が視界に入った。
同時に先程まで向けていた視線に映し出されていた膝元で、居心地悪そうにもじもじと動く彼の指先がぴたりと止まる。
継続された長い沈黙を破る私の開口一番に頭が追い付かないのか、首を傾げて不思議そうに此方を眺める善逸。
少し間を置いて私の問い掛けの意味を漸く把握した彼は、"ああ"と短い言葉を放ち満面の笑顔を向けた。

「確かにちょっと顔色が優れないかなあ。何となく目も虚ろだし。なまえちゃんも何だかんだしのぶさんの手伝いに駆り出されて多忙だもんね。毎日お疲れ様!」

「そういえば少し目が霞むかも。やっぱり少し疲れているのかな。……じゃあ私の見間違いだね」

「見間違い?何が?」

「……花札が一枚しか見当たらないのだけど、見間違いだよね?」

善逸が朗らかな笑みを見せながら一声掛けた後に部屋の敷居を跨ぐ風景は、至極自然な日常の一部となった。
そして毎夜彼の器用な手によって並べられる幾数もの花札は、綺麗に整われた布団の上で主張しては私の鼓動を逸らせる原因の一つとなる。
其れでもこうして善逸との仲を深めていく事は、避けられない動揺が自身を覆い尽くす中でも幸せで満たされた。
恐怖心は一向に消える気配は無いけれど、日毎に善逸を受け入れる準備が形成されていたから、私は拙い平常心を保っていられたのだ。
しかし彼との艶かしい逢瀬を共有して早六日の時が流れた今日、強制的に指し示された眼前の現実に酷い眩暈と格闘する羽目となる。
……私の勘は外れていて欲しかった。

「やだなあ、なまえちゃんってば。俺が札を置いたとこ見てたよね?現実から目を背けちゃ駄目だよお。ほら、早く引いて裏返して!んふふ、何点札だろうね?」

「……裏返す必要は無いと思う。確実に20点札の筈だから」

「えー?そんなのまだ分からないじゃん。もしかしたらカス札かもしれないよ?確認もせずに決め付けるなんて酷いなあ。どうしたの?死んだ魚みたいな目になってるよ?」

分かるから言っているのだけど。其れと、私をそんな目にさせたのは貴方のせいですから。
真ん丸と目を見開いて飄々と言ってのける、善逸の白々しさに沸々と苛立ちが込み上げた。
善逸は私が既に想定している事を知った上で敢えて挑発しているのだ、嗚呼、屈託無く笑う表情が何とも腹が立つ。
昨晩の含みのある善逸の言動で今日何を仕出かして来るのか簡単に予想は付いていた。
此処まで自分の想像に寸狂い無く当て嵌められた現状を目の当たりにした私の感情は、最早怒りを通り越して呆れに近い。
何よりもあの後約束を取り付ける為に騒がしく捲し立てる善逸に気圧されて、渋々と小指を結んでしまった自分が恨めしくて仕方無かった。
私が簡単に交わした約束を反故に出来ないと知っている癖に、しかも恋人の善逸ならば尚更に。

「俺さ、爺ちゃんに手紙を書いたんだ」

「爺ちゃん?」

「うん。俺に呼吸法と剣術を教えてくれた育ての人。借金まで肩代わりしてくれてさ、恩人でもあるんだ。チュン太郎無事に届けてくれたかな」

先程とは一変した穏やかさを極めた表情で紡がれる善逸の発言に、頭の中で"しまった"と浮かんだ後に焦燥感で心音が早鐘を奏でた。
どくどくと脈打つ心悸が急速な体温の上昇を促して、息苦しさを握り潰す様に発信源である部分の衣服を掴む。
どうしよう、すっかり忘れていた。
私は自分が元鳴柱であるあの人の孫であると言う事を、善逸にはまだ告げていない。
言わずに此れまで過ごしてきた理由は三つ在る。
一つは、珍しいもので普段ならば私の行動を逐一知りたがる善逸が、手紙を書いている間は何一つ問い掛ける事は無かったからだ。
二つ目は私も聞かれなければ話す必要も無いと、口下手であったが故の自分の悪癖が発揮された為である。
そして最後は何故か善逸から師匠である私の祖父の話をする事が無く、日常で交わされる会話の中で話題になる機会に恵まれなかった。
私は突然に降って沸いて出た思わぬ盲点に、わたわたと両手を振りながら善逸に声を掛けた。

「あ、あの、伝え忘れていたのだけど。実は善逸の師匠はね」

「其の手紙にさ。大切な女の子が出来たって報告したんだ」

低めの声色で発せられた善逸の言葉に、発言が遮られた私からひゅっと微かに吐息が洩れた。
俯き加減で柔らかな笑みを浮かべた彼の表情は、灯りから生まれる陰影によって本来の顔立ちの良さを浮き彫りにしている。
私は胡座を組んだ上で結ばれた両手の指先が、時々くるくると円を描いて動く様に目を奪われた。

「なまえちゃん。前に俺は捨て子だって言ったよね」

「……うん」

「赤ん坊の時に捨てられたから、どんな人が母親で父親だったのか知らない。名前も付けられなかった」

「善逸、辛いでしょ。無理して話さないで」

「なまえちゃんだから聞いて欲しい。親の居ない俺は誰からも期待されないんだ。何かを成し遂げる未来を夢見てはくれないし、誰かを幸せにするささやかな未来ですら、誰も望んではくれなかった。……少しでも両親の姿が記憶にあったなら、また違っていたのかもしれないけど」

痛ましげに語られる彼の台詞が心に突き刺さる。
この人はどれだけ寂しい想いをしてきたのだろうか、きっと私の想像が及ばない程の辛い経験を強いられて来たのだと思う。
私には両親が居て、沢山愛して貰った。
鬼に殺されてもう会う事が叶わない悲しみは耐え難い苦痛に襲われたけれど、祖父が居たから私は私を捨てずに生きてこられた。
其の後また絶望に見舞われて生きる理由を総て討伐に注いできた、鬼と大切な約束を無惨に引き裂いた者への憎しみを糧にして。
でも私は再び救われたの、目の前の温かな金色の髪を有するこの人に。
今度は私が誰かの幸福の原動力で在りたい。
私に出来るだろうか、善逸が私に幸せを与えてくれた様に、彼の笑顔を守り抜く為に私は何をすべきだろう。
自分の成すべき事を頭の中で模索していると、暫く悲しそうに背中を丸めて俯いていた善逸の顔が私に向けられた。
重なり合う瞳は先程まで見せていた弱々しさは既に無く、強い意志を彷彿とさせる眩い光を纏った琥珀と共に同等の声が耳に入る。

「でも俺は諦めない。俺の人生はまだこれからだし、だから自分で切り拓くって決めた。その為にはさ、なまえちゃんの力が必要なんだ」

「うん。善逸が幸せになる為に私に出来る事があるなら何でもする。其れで何をすればいいの?」

「まずは花札を引いて欲しい」

「……は?」

想像していた真剣な顔付きから紡がれるであろう言葉に裏切られた私は、あからさまな怪訝な表情を浮かべて善逸を睨み付けた。
何、何なの。此れまでの重苦しい位の雰囲気は一体何だったの。
混乱を避けられない頭の中で、通常の笑顔を取り戻した善逸の姿に全身の力が抜けて猛烈な虚脱感に襲われた。
本気なのかふざけているのか判断に苦しむ此方の心情を一蹴するかの様に、善逸は二人の間に置かれた札を指差しながら満面の笑みで口を開く。

「だからあ。先ずは引いて貰わないと話が進まないんだよお。ね、お願い!」

ぽかんと口を開けて唖然とする私を其のままにして、甘え口調で顔の前に両手を合わせる善逸にすっかり毒気を抜かれてしまった。
この男は本当に狡い、いとも簡単に人を翻弄させて、自分の思惑通りに事を運んでいく。
悔しいけれど嫌いになれない、寧ろ多種多様な恋人の姿を垣間見れて嬉しいと思っている。
まだまだ沢山発掘する事が出来るだろうか、そして其の度に私はまた善逸を愛しく思うのだろうと、確信にも似た想像に口許が緩んだ。

「じゃあ引くね」

「あ、待って。なまえちゃんにあと一つお願いがあるんだけど!」

「……今度は何?」

意気揚々と話す善逸の言葉に刺々しく返答すると、"さっきと同じその顔嫌だ!"と夜を迎えて初めて見せた涙を惜しみ無く垂れ流す。
一度泣くと長引く事を此れまでの経験上存分に理解していた私は、一つ大きな溜め息を落として謝罪の言葉を発した後に彼の次に放たれる台詞を待った。

「まずは目を閉じてくれる?許可するまで開けちゃ駄目だからね。約束して?」

「どうして?」

「いいから!俺が良いよって言ったら一緒に花札も裏返してね。分かった?良いって言うまで目を開けちゃ駄目だからね!約束だからね!なまえちゃん返事は?」

「……良く分からないけれど。分かったよ」

絶対に何か魂胆があると分かってはいたけれど、余りにも必死に何度も言い聞かせてくる為に従う他に選択肢は無かった。
言われるままに渋々と一枚だけ置かれた花札に手を添えて静かに瞼を閉じると、すぐに善逸のバタバタと奏でる足音と何かと何かがぶつかる物音が聞こえ始める。
忙しなく立てる様々な音に正直好奇心が膨らんだけれど、約束を破る事は絶対にしたくなかった為にひたすらに時が経過するのを待ち続けた。

「なまえちゃん、待たせてごめんね。目を開けていいよ」

善逸の優しい声が聞こえたと同時に、手にしていた花札を裏返しながら静かに暗闇から仄かに明るい世界へ戻ると、一番に目に入ったものに私の発言権は剥奪された。
何故ならば瞼を開いて突然に視界に入った、至近距離で差し出されたものと、そして少し先に頬を染めて照れ臭そうに微笑む善逸の姿に思考は寸断されてしまったから。

「善逸?」

過去五日間の中で違う光景を見せていた、一枚だけ布団の上に置かれた花札は今私の手元にある。
無言で目線をそちらに向けると、紅梅色と紅色で塗られた二種類の桜の下に慢幕が描かれた色鮮やかな札、"桜に幕"が目に飛び込んだ。
しかし私は20点札であるこの札に対して生ずる筈であった"案の定"という単語よりも、善逸が変わらずな微笑みを維持したまま手に持つ物に釘付けになる。

「……其れって桜?」

「そうだよ。御衣黄桜って言う遅咲きの桜なんだ。今年は少し咲き始めが遅かったみたいで、まだ咲いてて良かったあ」

"はい"と手渡された花は、春を彷彿とさせる頃合いに咲く薄紅色の桜とは到底掛け離れた色彩を帯びていた。
緑色と黄色が混ざり花弁の中心に紅色の筋が入っている御衣黄桜は、善逸が話した遅咲きの桜に見合う初夏の今に相応しい爽やかな色合いを見せている。

「俺さ、なまえちゃんには絶対に"桜に幕"を引いて貰いたかったんだ」

「どうして?」

「実はね、最初になまえちゃんが"菊に盃"を引いた時からずっと考えてた。だってこの二枚は俺となまえちゃんの誕生月の札だから」

羽織の裾から取り出した"菊に盃"の札を掲げて言い放つ。
目尻を下げて蕩ける様に笑う善逸の灯りによって翳りを帯びた金糸が、眼前に佇む御衣黄桜の花弁と同化して見えて私は思わず息を呑んだ。
善逸はいつでもどんな時でも私を中心にして物事を考えてくれる、何て幸せなのだろう。
色々と考えていてくれた気持ちが嬉しくて涙が零れそうになる、私はこの人と恋仲になってからとても涙脆くなった。
だけど其の変化は、何よりも私に拙くも存在していた喜びの感情を震え上がらせた。
私は善逸によって今まで知る事の出来なかった新たな自分を徐々に開拓されて、また私も抗う意志も無く自然と迎い入れている。
私には予感がした、善逸に染められていく自分に愛しさを募らせていくのだと。
私は萌黄色の花と共に静かに善逸の胸へ寄り掛かり、止めどなく溢れる愛慕を心の中でひたすらに漲らせた。

「有り難う、善逸。凄く綺麗。嬉しい」

「ね、なまえちゃん。御衣黄桜の花言葉はね、"永遠の愛"なんだよ」

「そうなんだ。素敵な言葉だね」

愛しい恋人の胸の中で聞こえた声が、触れていた頭から微かな振動を持って全身へと伝っていく。
幸せの余韻に浸る私の肩を優しく抱く善逸の手の力が一瞬だけ強く籠めた後に、そっと離して互いが見つめ合う様に僅かな距離を取った。

「なまえちゃん。俺は家族が欲しい。俺の手で築く俺だけの家族が」

「善逸」

「勿論今すぐじゃ無いよ。でも俺もなまえちゃんも死と隣り合わせで生きてるから、出来るだけ早い方がいい。生き急いでるみたいで本当は嫌だけど、でも俺達はそういう世界に居るから。……だから、俺は将来の確約が欲しい」

「うん。私も同じ気持ちだよ」

「有り難う。だからなまえちゃん、今此処で誓って。此れはまだ契りを交わしていない俺達だからこそ、必要な儀式だって思ってる。俺は御衣黄桜の持つ花言葉を二人の約束事にしたいんだ」

常々と心揺さぶる低い声色と共に善逸の両手が私の頬に触れる。
私の手とは全く違う、拳を造るとゴツゴツと骨張る其の手はとても優しく時に力強く、慈しみの表情と一緒に頬を包む大きな掌が身体の芯から熱を生み出しては愛しさを募らせた。

「なまえちゃんが約束事に対して悲観的なのは分かってる。でも俺は絶対に破らない、必ず守り抜く、死ぬまでずっと。だから俺を信じて欲しい」

「……善逸……」

私は約束事からいつも逃げていた。
其れは嘗て通過してきた悲しい過去によって得た心的外傷から己の身を守る手段の為だった。
他者と約束を交わす事で否応無しに古傷を抉られる、同じ末路を辿る確証など在りもしないのに。
私はただ畏怖に絡め取られていただけなのだ。
私はもうあの時の様に傷付きたく無かった。
そして何よりも自分自身が見たくなかった、不確かな妄執に囚われた己の弱さを認めたくなかっただけ。

「有り難う」

でももう大丈夫、私は乗り越えられる、いいえ、きっともう既に乗り越えていた。
私はもう知ってしまったから。
大切なのは約束が果たされるか否かでは無く、確実に成就へと導こうとする真摯な気持ちと其れを信じる想い。
何度か善逸と約束を結ぶ度に確固たる意志を貫こうとする彼の曇り無き眼に立ち会い、未来の希望への想像を掻き立て心を突き刺した。
どんな事でも総て"約束"にしようとする彼の真意を私は大分前から理解していた。
双六と今回の花札で示された決め事も"約束"の一つだ。
気軽に遊べる戯れで遂行する決め事を互いが守る事で、私が約束に対して持つ恐怖と嫌悪を少しずつ消し去ろうとした。
誰もが破る前提で約束を交わす訳では無い、果たされなかった約束は結果論に過ぎず、決して悲観する必要も無い。
両親と幼馴染みとの約束は叶わなかったけれど、あの時私に誓った言葉は確かに本物だった。

「私は善逸を信じてる。もう何も怖くない。だからそんな顔しないで」

善逸はもう音で理解しているのかもしれないけれど、貴方が私を救おうとすると同じ様に、私も貴方を救いたいと思っている。
人生でたった一人でいいから、人に愛されたい、必要とされたい、護り抜きたい、そして家族を作り自分の血が流れた子孫を残して未来を繋いでいきたい。
恋仲になってから譫言の様に空気中に漂っていた善逸の心の声。
もしも飢えて渇いて内側から張り裂けんばかりに叫び続ける、貴方が渇望する唯一の伴侶と成れたならば、貴方の心核に秘められた暗闇を僅かにでも灯す事が出来ますか。
頼りないけれど、此れまで不安と孤独に怯えて来た過去と一緒に、私がこれから善逸に沢山愛情を注ぎ続ける。
だからそんな今にも泣きそうな表情で私に触れないで。
私が貴方の家族となって貴方を永遠に愛し続けるから、総て受け止めるから、だから安心して言葉を紡いで欲しい。
そうする事で、貴方の今は触れれば簡単に崩れ落ちてしまいそうな脆い自信を、僅かながらも強固なものへと形作る手助けと成ればいい。
膨れ上がる想いに善逸から与えられる体温の上に自分の手を重ねると、指先から伝う私の想いを悟った彼の表情が一瞬固まった後にふっと目を細める。
互いに柔らかな笑みを浮かべながら、私は彼から放たれるであろう二人の永遠を繋ぐ言葉を静かに待った。

此れから結ばれる約束は、互いに守り通せるって信じてる。

「我妻なまえになって、俺に永遠の愛を約束して下さい。君の命が終わりを迎える時も変わらず、俺の妻で居てくれ」

「其の約束事、喜んでお受けします」

霞む視界の中で善逸の表情が一気に華やいだ。
"嬉しい""私も"と自分と善逸の声だけが存在する空間で、どちらかともなく唇を重ね合わせる。
其れはまるでこの時代にはまだ慣れ親しんでいない外国の結婚式の様で、とても神聖な儀式に思えて幸せで心が満たされた。
私は胸元で美しく咲き乱れる御衣黄桜の花言葉を思い浮かべながら、善逸から幾度と無く与えられる唇の柔らかさに身を預けていった。

「なまえちゃん。盃を交わそう」

暫く離れては触れるを繰り返していた口付けから解放されると、投じていた暗闇から善逸の声が耳に入る。
後頭部に添えていた手が髪を伝った後に肩で止まる流れる所作に擽ったさを感じながら、私はゆっくりと視界を開いて善逸に声を掛けた。

「盃?」

「俺達まだ夫婦になるわけじゃないけどさ。疑似祝言を挙げて誓いを立てよう。この札と同じ盃を用意したんだ」

そう言いながら人差し指を向けた布団の先の畳には、片手に掲げていた"菊に盃"と同じ色をした盃が在った。
其れと一緒にお盆の上に置かれた純白色の徳利と花瓶が目に映る。
善逸はまだ何も生けていない花瓶を私の手元にある桜に近付け、無言のまま口角を上げて私を見つめた。
容易に判断可能な彼の行動は此方の次の動作を単純明快なものとし、私は疑う余地も無く素直に桜を花瓶に差す。
"有り難う"と善逸は告げた後、持っていた花瓶をお盆に戻し、間を置かずに今度は盃を手にして徳利に入っている液体を静かに其処に注いだ。

「じゃあ始めてもいい?」

「……待って。盃を交わす前に善逸に話さなければならない事があるの」

善逸の行動に対して水を差した様で罪悪感があったけれど、逃していた機会を掴む為には今しか無いと思った。
喩え擬似的な取り交わしだとしても、愛する人には何一つ秘密の存在しない真っ新な自分で向き合いたい。
きっと驚くだろう、大きな琥珀の瞳がきらきらと輝きを放つ瞬間を想像して胸が弾む。
盃を手にしたまま私を見つめる善逸に言葉を掛けようと小さく口を開いた瞬間、其れを制止するかの様に彼の声が先に閑散とした室内に響いた。

「実は俺も。俺もさ、なまえちゃんに伝えなきゃいけない事があるんだ」

「……善逸も?」

意欲十分で話すつもりが善逸に遮られ、出鼻を挫かれてしまった複雑な心境に駈られながらも私は黙って彼の言葉に耳を傾けた。
感情に敏い彼の身体能力は既に私の気持ちを感知した上で、謝罪の台詞を告げながらお盆の下へと手を伸ばす。

「この中になまえちゃんに話してなかった内容が書いてあるんだ。貰って欲しい」

「……書いた?」

「うん」

手渡された物に目線を向けると、其れは一冊の本だった。
老緑色の表紙の左部分が不均等に糸で括られたとても簡素な造りで、本と呼ぶには少し不釣り合いではあるけれど。
若干擦り切れて上向きに反り返った四隅と、中央に貼られた真っ白な和紙の中に大きく記された文字を見て、私は呟く様に小さく声を出した。

「"我妻伝"?」

「うぃっひひ!やっぱりそう読むと思った!」

「え?違うの?」

思い描いていた予想が的中した事が嬉しいのか、善逸は相変わらずな気味悪い笑い声を上げながら満面の笑みを浮かべる。
屈託無く笑う少年らしさを醸し出す姿に首を傾げていると、私が手にしていた本の白色の部分を彼が指差した。

「ほらもっと顔を近付けて良ーく目を凝らして見て。我妻伝の他にも書いてあるから」

「"ガ"と"へ"と"エル"と"日記"って凄く小さな字で書いてある……。小さ過ぎて見落としてた」

「わざと小さく書いたからね!此れは"我が妻へ伝える日々の記録"って読むんだよ。でもまあ、長ったらしいから"我妻伝"で構わないけど!ね、早速開いて読んでくれる?」

「え?……うん」

悪戯が成功した様な無邪気に笑う善逸の言葉に促されるままに表紙を捲ると、微かに黄ばんだ紙の上に黒々とした筆跡が目に飛び込む。
始まりの文字は日付であり、其の情報だけでこれは日常を綴った日記なのだと容易に理解出来た。
口を閉ざして日記を読み進め、内容を把握するに時間は然程必要は掛からなかった。
名が体を表すとは良く言ったもので、"我妻伝"と名付けたに相応しい恥ずかしい文字の羅列が書き連ねられていた。
悼まれない羞恥心に見舞われながらも次の頁に指を滑らし、見開かれて見えた文章の一部分に釘付けになる。

「……嘘」

「だから言ったでしょ?俺達は結ばれる運命なんだ、って」

善逸が日記を綴り始めて三日目の頁に、真実を目の当たりにした私の瞳から涙が零れた。
そして私の捻り出す様な切ない声に返答した、善逸の言葉に鼓膜が震える。
善逸から紡がれた台詞は此れまでの私に対する言動や行動が走馬灯の様に過り、壊れそうな位に胸を締め付けて更なる涙を生み出させた。
私はずっと護られていた。私の知らない所で、私が分からない様に。
身を案じていてくれて有り難う、離れていても私を大切に想っていてくれて有り難う。
私を好きになってくれて嬉しい、私を好きになってくれた上で、祖父との約束を果たそうと決意してくれて嬉しい。
あの時の言葉は、本物だった。

「善逸。此れから私が言う約束も守ってくれる?」

止めどなく零れた続ける涙を流したまま善逸に視線を戻すと、心配そうに見つめていた彼の指が伝う雫を優しく拭い取る。
持っていた盃をお盆に戻して両手で頬に触れながら、まるで自分事の様に彼もまた涙を滲ませて互いの額を触れ合わせた。

「必ず守るよ。約束ってなあに?」

「私の事は呼び捨てにして欲しい。だって私は善逸の妻になるのだから」

「……俺、女の子を呼び捨てにするのは何気に初めてだ。凄く嬉しい。でもさ、"約束"って言うよりも"お願い"の方がしっくりくるんだけど」

「約束にしたいの。私はね、本当は凄く嫉妬深いの。だから善逸が他の女の子にする同じ呼び方はして欲しくない。私だけが善逸に呼び捨てにされたい」

「……本当に煽り上手だよね」

至近距離で頬を染めて微笑む善逸の表情が映し出されたのも束の間、更に近付いた彼の姿は唇を塞がれた事で短い時間を終えた。
離れる瞬間に一度だけ立てた甲高い音はいつまでも私の聴覚に余韻を残して、再び盃を手にする善逸の姿を黙って見届ける事しか出来ない。

「なまえ」

「……はい」

「此れからもずっと一緒に居よう。俺の傍に居てくれる?」

「はい。不束者ですが宜しくお願い致します」

三つ指を揃えて深々とお辞儀をすると、体勢を元に戻した時に見た彼の顔付きに釘付けになった。
驚きと困惑と嬉しさが入り交じった複雑な表情は、直ぐに蕩ける様な笑顔に変化する。
照れ臭そうに笑って盃に注がれた液体を一口含んだ善逸は、また同じ表情を見せながら私に向かって器を差し出した。
手渡された朱色に塗られた盃におずおずと口元を運ぶと、無色透明の液体の中に私の姿がゆらりと揺れる。
ゆっくりと喉奥へ流し込んだお神酒という名のただの水は少し温くて、既にこの後の情事を思い浮かべて加熱した私の体温を下げるには物足りない。
空になった盃をお盆の上に乗せて再び善逸と対面した瞬間、彼の両手が私の間近へと伸ばされる。

「おいで」

瞳の先には、少し前まで表出していた年相応な善逸は既に消えていた。
甘さを極めた表情と声と、久方振りに見た着流しから覗く逞しい胸板が、帯びていた私の熱を全身に放出させる。
まるで善逸から放たれる色香に当てられた様に、私の身体は彼の元へと吸い寄せられていった。

「……ん」

両腕で包まれた上半身の温もりを僅かな時間堪能した後、善逸の太腿の上に座らされた私の額に唇が落とされる。
愛しさを体現した優しい触れ方は瞼と頬にも与えられ、代わる代わる移動していく唇に私は思わず小さな声を洩らしてしまう。
暫くして降り注ぐ口付けが止み閉じていた瞳をゆっくりと開くと、膨大な熱量を有した琥珀の瞳と視線が重なった。
雄々しさを露見させた善逸の表情に心拍数が加速したとほぼ同時に、今度は先程とは想像が付かない程に荒々しく唇を塞がれた。

「んんっ」

息継ぎもままならない熱く濃厚な接吻は収まる処か酷さを増す一方で、無理矢理に空気を取り込もうと隙を狙って口許を緩めた私の行動を善逸が見逃す筈が無い。
少しだけ吸い込んだ空気と一緒に侵入を許した善逸の熱い舌が、暴力的な動作を繰り返しながら私の咥内と舌を犯し続ける。
体内でぬらぬらと生き物みたいに蠢く彼の舌と、其れに同調しようと必死に縋り付く自分の舌が密着しながら絡まった。
善逸の唇によって強引に吸い出された舌が抗いも無く外へと排出され、生暖かな息を互いに生み出しながら無我夢中で貪り合う。

「……ん、んんっ、んぅ……」

「今日は最後まで抱かせてくれる?……俺、なまえを抱きたいよ」

長い長い口付けから解放された私の唇が、善逸から与えられた深い接吻によって震えと甘い声を絶え間無く誘った。
そんな中で彼の囁きを聞き入れた私の痺れた頭は言葉を発する余裕を欠いた状態で、其れでも必死に首を縦に振る事で承諾の意思を見せる。
どうやら私の無言の返答は充分に伝わった様で、善逸は嬉しそうに笑顔を浮かべて"有り難う"と伝えた後に再び私に唇を寄せた。

「ん、……んあっ」

変わらずの濃密な口付けを繰り返していた善逸に身体を引き寄せられ、時を待たずに熱い舌が肌を伝いながら首筋へ降りていく。
目的地に辿り着いた舌は漸く此処で本来の場所へと戻り、次は柔らかく互いの唾液で潤った唇が其処に押し当てられた。
肌が粟立つ様な感覚が私に襲い掛かる。
其れは善逸の手が着物に滑り込んで徐々に曝し始めて露出した、自分の肌が直接空気に触れた為でもあった。
休み無く享受する恋人の愛の施しに、私はただひたすらに彼の着流しを固く握り締める事しか出来ずにいる。
眼前に在る金色の髪が小刻みにさらさらと揺れて、熱に浮かされた朧気な意識下であるにも関わらず、私は善逸の金糸がとても美しいと思った。
薄暗い室内で一際放つ眩さに導かれるままに、いつの間にか首筋から胸元へと唇を落としていた彼の頭に優しく触れる。

「……なまえの手、凄く熱くなってる。ね、もっと俺の髪を撫でて。沢山触って欲しい。ぐしゃぐしゃにして掻き乱しても構わないから」

「善逸?……ああっ、や、あ、あっ」

「もうこんなに固くなってる。此処気持ち善い?」

「やだ言わないで。……ああっ」

善逸の放った言動を切っ掛けに優しさに溢れた愛撫が激しさを増し、突如として襲来した感覚に彼の髪をぎゅっと掴んだ。
胸元に這っていた舌と指先が二対に主張する先端をそれぞれに刺激を与え、咥内に含まれた曲線の頂きは様々な角度で舌先で転がされる。
同じ様に両手で掬い上げられた柔らかな肉と共に、指先で左右に弾いては人差し指と中指の間で挟んで、善逸は仕切りに喘ぎ続ける私の顔を時々伺いながら執拗に身体を弄んだ。
軽く甘噛みされて善逸の口の中で吸い込まれていく先端に痺れと熱が籠っていき、時々撫でられる腰と臀部に伝わる感覚が歯痒さを駆り立てて私は身を捩って迫る快感に逃げ惑う。

「あっ、ああっ、ん、んんっ」

「そろそろ頃合いかな。なまえ、俺の上に跨がって」

「……え?跨がるって、……あっ」

状況を把握仕切れ無い私を気取った善逸は、此方が行動を起こす前に腰元と背中に腕を回して身体を浮かせた。
宙に浮いた感覚に戸惑いを隠せず焦燥の色を見せる私を余所に、お構いなしに両足を開かせて跨がらせる。
上半身だけに留まらず互いの下半身が密着した現状に私は言葉を失った。
肌蹴た着物から曝された自分の太腿と善逸の逞しい太腿が直接肌に触れて、何よりも目視の叶わない互いの部分の間に溶ける様な熱い熱が籠る。

「ぜ、善逸。恥ずかしいから降りたい」

「だあめ。其れにさ、これからもっと恥ずかしい事するんだから今の内に慣れちゃおうね?」

「そんな直ぐに慣れる訳、んんんっ、……ああっ」

無邪気な笑顔を浮かべて唇を塞いだ善逸の舌が再び咥内を犯し始めたと同時に、腰に添えていた右手が秘所に滑り込んで私は天井に向けて嬌声を洩らした。
私の反応を伺う様に数回優しくなぞっていた指先が、次第に既に蜜で満たされていた其処を強く擦り付け始める。
意に反して駆け巡る刺激への快感から逃れようと試みたけれど、私の先の行動を予測済みな善逸にもう片方の腕で腰回りを固定された為に微動だにしない。

「あっ、あ、だめ……っ」

「すっごい濡れてる。此れならもう平気かな」

「あっ、ちょっと待って……!んっ、ああっ」

まるで一種の娯楽を楽しむかの様な子供みたいな表情を見せながら、ゆっくりと静かに善逸の指が膣口に触れて一気に埋まっていった。
激しい刺激によって身体が反り返る私を引き戻して眼前に捉えた突起物に舌を絡め、納められた一本であった指を二本に追加して容赦無く膣内に抜き差しを繰り返す。
何度も何度も加速しながら真っ直ぐ最奥へと進んでいく複数の指が、突然に中で軽く折り曲げて回転しながら腹部側の肉壁を軽く叩いた。

「んあああーっ、や、やだあ、あっ、んっ」

「あ、此処だ。音が跳ねた。なまえの弱いとこもう見付けちゃった。いっぱい気持ち善くしてあげる」

「あーっ、ぜ、んいつ、あっ、ああっ」

私の嬌声が更に大きく高く変化した状況を、体内に埋めていた手淫の手応えと昂った心音でいち早く感知した善逸。
悲鳴にも近い自分の喘ぎの羞恥心も相俟って、呑み込んでいた彼の指をきつく締め上げた。
動かす度に聞こえる淫らな音と確実に増大して排出されていく体液が止まらない、其の事実さえも私の快楽を上昇させる材料となる。
頭がおかしくなりそう、もうおかしくなってるのかも。
そんな思念が頭で犇めく私の身体が悦喜の反応を見せて、自ら善逸の唇に吸い付いて金糸を掻き乱す度に、少しずつ善逸を受け入れる準備を整えている事を実感していた。

「……あ、また音が変わった。もしかして気を遣る寸前かな?」

「ああっ、あ、やだ、怖い……っ」

「大丈夫だよ、なまえ。怖がらないで。力を抜いて俺に全部身体を委ねて」

執拗に弱い部分に指先を擦り付けて蜜液を掻き出す行為を、一心不乱に続けていた善逸がポツリと呟いた。
全身が粟立つ感覚に沸々と込み上げる恐怖心を私は必死に堪えていた最中に聞こえた、耳元で優しく囁く彼の声色に安堵が芽生えてふっと身体の力が抜ける。
"うん、良い子だね"とまるで子を宥める様な善逸の物言いと頭を撫でる動作とは裏腹に、膣内に埋められた二本の指は容赦無く私を快楽の終着点へと誘っていった。

「あっ、ああっ、善逸……っ、……あーっ」

最後に叫んだ掠れ気味な嬌声と共に、膣内から溢れんばかりの蜜が飛沫となって善逸の右手全体を濡らした。
ぽたぽたと布団に落ちる自分から生成された体液を舐め取る彼を朦朧とした視界に映しながら、同時に私を強制的に寝かしていく時に垣間見た雄々しい表情を息を切らせて黙って見届ける。
今までに比較出来ない程の野性的な鋭い瞳で、私の本能はこの人に食べ尽くされるのだと思った。
だけど不思議と嫌では無かった、善逸になら食べられてもいい、私の総てを捧げてもいい。
既に通常の自分らしさから掛け離れた思考回路の中で、漠然と思った。

「なまえ」

果てて放心状態の私に善逸の声が耳に木霊する。
虚ろな瞳に映る熱情を漲らせた恋人の顔が近付いたと同時に、焼ける様に熱くなった唇が自分の唇と重ね合わさった。
ぴちゃぴちゃと舌と舌が交わる音が室内に響き渡る中で、彼の掌にすっぽりと包まれて固くなった先端を指先で悪戯に弾いては洩れる嬌声が、更なる淫靡な空間へと底上げしていく。

「あっ、ん、んあっ」

「可愛い、ほんと可愛い。堪んねえよ」

荒ぶる劣情を表現する善逸の行動は過激さを増していき、肌蹴る着流しの上半身部分を乱暴に脱いで曝した裸体を私の肌と吸い寄せた。
先程絶頂を迎えたはがりの秘所に再び指の腹を擦り付け、仕切りに喘ぐ私の肌を舌が這いずり回る。
強く唇を押し付けた先に一瞬の痛覚が伝わり、至る所に同様の動作を繰り返して次第に腹部へと滑らかに舌を移動した。

「……っ、善逸、いや……っ」

腹部への愛撫から程無くして、ぬるぬると肌に蠢いていた舌が更に下方へ向かい秘所に止まった。
至近距離で荒く立てる善逸の息が直に触れた其処は、敏感さに拍車を掛けて神経に伝わってくる。
其の刺激で一瞬だけ跳ねて臀部が浮く様を洩らさず見ていた彼の両手が、私の腰を捕らえがっちりと固定して逃げる術を奪取した。

「あっ、善逸!手を離して」

「やだ。もっと沢山なまえを気持ち善くしてあげないと俺が俺を許さないから、無理」

「……や、……ああっ、んあっ、あ」

善逸が拒否の意思を紡いだ台詞と間髪入れずに、粘液を纏った舌が一度だけ秘所を大きく這った後に小刻みに舌を震わせた。
固く尖らせた舌で淫核を容赦無く押し潰す動作は、私から悲鳴に近い嬌声をもたらすに充分過ぎる。
其れに飽き足らず今度は秘部全体を咥内に収め、強く吸い付いては蠢め続ける舌が膣口を激しく犯した。
激しい刺激の波から逃れたい一心で、最後の悪足掻きで押さえ付けられた腰元の手に自身の手を伸ばすも、簡単に両手首を掴まれて指を絡め取られる。
力強く結ばれて重なる掌が焼ける様に熱くて其の手をきつく握り返すと、唇を噛んで快感に堪え忍ぶ姿を見た善逸の行為は加速していった。

「此処も此処も、全部一緒に触ってあげるね」

わざと私の耳に届く様に濡れそぼった秘部に唇を吸い当て音を奏で、静かに解いた両手が善逸の顔へと向かっていく。
解放されて獲得した自由にほっと胸を撫で下ろす余裕も無いまま、比べ物にならない衝動が身体の芯から襲い掛かった。

「ああーっ、んあっ、ああっ」

手始めに右手の親指で淫核を擂り潰した善逸の次なる行動は、左の二本の指を手早く膣内へ侵入させた。
既に知り尽くした私の弱所をにゅくにゅくと刺激しながら、唇と舌はそれ以外の敏感な部分の愛撫を余す事無く施していく。
狂った様に喘ぎ叫んで身をくねらせる私を時々"可愛い"と呟く善逸の手淫と口淫は、手加減を加える事を知らない。
どれ程時間が経過したのか判断出来ない朦朧とした意識の中、私は少し前に体感した絶頂の渦が再び全身に駆け巡った。

「善逸……っ、ねえ止めて、私また……っ」

「あ、また来たのかな?いっぱい気持ち善くなってくれて嬉しいなあ。俺、まだまだ頑張るからもっと感じた声を聴かせてよ」

「ち、違っ、あああっ、だ、め、……んんんーっ」

総ての行為を可能な限り速さと強さを極めた善逸の愛撫に応える様に、私は身体を痙攣させながら二度目の絶頂を迎えた。
ぷしゅっと一瞬だけ音を立てて吹き出した蜜液は、きっと肌を伝ってまた布団を濡らしてしまっているのだろう。
そんな事を荒々しく息を吐いて冷静に考えていたら、私の蜜で潤った口元を拭う善逸が自分の腰元で結んでいた帯を手際良く解いた。

「……あ……」

「俺もう我慢出来ない。なまえの中に入ってもいい?なまえと早く繋がりたい」

苦しそうに切なそうに眉根を寄せて、善逸は手に掛けた褌を乱雑に剥ぎ取りながら畳に投げ捨てた。
未だに息を上げる私の瞳に飛び込んだ、人生で初めて目にする完全に上向きに反り上がった男性の象徴に釘付けになる。
慣れた手付きで見るからに硬さを極めたモノを上下に擦る情景は、余りにも扇情的で私はごくりと固唾を呑んだ。

「ねえ、いい?」

「んんっ」

縋る様に潤んだ瞳が間近に迫り、私ははっと我に返る。
気が付くと善逸に唇は塞がれ咥内に舌が絡め取られ、秘所には彼の最大にまで膨張した先端部が触れている感覚が見えずとも判断出来た。
触れては離れ、離れては触れてを繰り返す動作は、まるで私達が今も行われている口付けを彷彿させて、私は逼迫した表情を見せる善逸の頬にそっと手を添えた。

「今までごめんね。今まで私を待っていてくれて本当に有り難う。もう、我慢はしなくていいから。私も善逸に沢山気持ち善くなって欲しい」

誰もが聞こえない程の弱々しい声で"来て"と囁いた私の言葉は、聴覚の優れた善逸にはどれ位の大きさに聴こえるのだろうか。
私は自分の腕を彼の首へ回して一度だけ首筋へと唇を寄せ、熱い眼差しで見つめる彼の唇と口付けを交わした。

「なまえ、愛してる」

「わ、私も……、ふあっ」

照準を捕らえて宛て交われた先端部がくちゅりと鳴った瞬間、少しずつ体内に埋められていく感覚が襲う。
強引に肉壁が拡張されて徐々に最奥へ向かえば向かう程、増幅される悲痛な声が洩れて善逸の肌に爪を食い込ませた。
善逸も私と同様に辛そうに何度も息を吐いて、肉壁が抗い続けて途中で止まってしまったモノをゆるゆると腰を動かして小さく抜き差しを繰り返す。

「……あっ、い、た、……んっ」

「ごめんっ、痛いよね。でもあと少しだから……っ」

「だ、大丈夫。このまま来て……」

歯を食い縛って必死で堪え忍ぶ私の痛みを少しでも和らげようと、善逸は胸の先端を口に含んで強く吸い付いた。
僅かに少しずつ時間を掛けて肉壁を押し広げていきながら、度重なる愛撫で膨れ上がった秘部の蕾にも指を滑らせて痛覚を麻痺させる。
暫くの間複数の刺激は続けられ、下腹部が表し様の無い異物感で満たされた瞬間善逸の動きが止まり、汗が滲んだ私の額に唇を寄せた。

「全部挿いったよ」

瞳を閉じて消えない痛みと闘いながら彼の柔らかな感触に浸っていると、温かいものが不規則に私の頬と首筋へ落ちてきた。
そっと瞼を開くと眉を下げて笑みを浮かべながら大粒の涙を流す、恋人の姿が映し出される。

「……俺、嬉しくて涙が止まんない。有り難う。俺を受け入れてくれて有り難うね」

「私も嬉しい。善逸、そういえばさっき言わなかったから今言うね」

「さっき?え、何?」

「私も善逸を愛してる」

私の言葉に一瞬で涙が止まった善逸とは逆に、彼の泣き顔に感化された私の瞳に涙が溜まる。
溢れる想いを最大限にまで高めてどうにか伝えたくて、自然と滲み出た感情の露出を初めて愛しく思えた。
感化されただなんて何処までも素直じゃない、きっと善逸がこの場面で涙を見せていなくても、私はきっと同じ状況を彼の瞳に焼き付けていたと思う。
貴方は此れまで知り得なかった感情を湧水の様に噴き出させる、私を変えてくれた唯一の人。
もっと自信を持てばいい、貴方はとても魅力的で、人を変える素晴らしい力を持ち合わせているのだから。
……でも善逸の良さを理解している者は未来永劫私一人で居て欲しい、そんな台詞は恥ずかしくて口が裂けても言えないけれど。
自分は意外と嫉妬深くて独占欲が強いから、そうであって欲しいと心の中で切に願った。
私は善逸の口付けの嵐を受け止め続ける中でそんな事を考えながら、猛々しい彼のモノを呑み込んだ痛みが次第に薄れていく感覚に寂しさを募らせていた。

「なまえ、まだ痛いよね。もう暫くこうしてようか」

「ううん、もう平気。其れに私言ったよね。我慢しなくていいって。善逸も知ってるでしょ?私だって人の感情が読める。善逸程では無いけれど」

心配そうに上から私を見下ろす善逸の頬に手を添えて言葉を返すと、唖然としていた彼の目が大きく開いて顔を朱に染めて慌て出す。
"いや、本当に心配してるんだって"と辿々しく言い訳を始めた必死さが可笑しくて、意地悪心が働いた私は"はいはい"と彼を軽く遇った。
大丈夫、善逸が私の事を最優先にしている事をきちんと理解しているから安心して欲しい。
だけどこうでもしないと貴方は私の身を案じていつまでも先へ進もうとしないから、少しだけ挑発してみただけ。
……きっと私の思惑など、既に見透かしているのでしょうけど。

「あー、もう!後悔しても遅いから!一度動いたら止められないからな!酷い事しちゃっても文句言わないでよ!しないけど!」

「言わない。約束する」

"ね"と善逸の顔の前に小指を立てて微笑みを見せると頬が朱に染まり、私と同じ表情を浮かべて自分の指を絡ませた。
結んだ小指を其のままにしてどちらかともなく唇を重ね合わせ、次第に深く激しくなっていく口付けと同調するかの様に善逸が抽挿を始める。

「……あっ、く、んん、ああっ、う」

「きっつ……」

善逸の猛ったモノが動く度に時々悲痛な声が混じりながらも、繰り返されていく内に未だ完全に消え去らない痛みとは別の感覚が生まれていた。
其れは最奥まで強引に捩じ込む事を理性で制止していた彼の優しさの賜物で、私を大切に想ってくれている実感に浸らせてくれる。
眉根を寄せて厳しい顔付きでゆっくりと浅く規則正しい律動を守る姿に愛しさを漲らせながら、私は善逸の背中に腕を回してきつく抱き締めた。

「なまえ……っ、ごめん。もう少し激しくしてもいい?なまえの中気持ち善すぎて……っ、もっと動きたい……!」

「……あっ、んあっ、……私に気を遣わなくていいから。善逸が好きな様に動いて」

問い掛けられた返答を聞いた善逸の唇が私の唇に吸い付いた後、密着していた身体が直ぐに離れた。
私の腰を掴んで間髪入れずに先程の労る様な動きとは想像付かない位に、身体に向かって彼の下半身が叩き付けられる。
肉壁が擦られる度に其処がくちゅっと卑猥な音を生み出して、耳の良い善逸は其の音を聞いて息を荒げた。
激情に任せた激しい抽挿は悪戦苦闘していた初めの挿入の時が嘘みたいに、簡単に肉壁を通過して最奥への侵入を許して私の身体を捩らせて快感から逃れようと必死になる。

「ああ……っ、あっ、んあ、あっ」

「気持ち善い?」

いつしか苦痛の声が消えて甘い嬌声だけになった反応に気付いた善逸は、先端を膣口まで引いて一気に私を貫いた。
甲高く喘いで仰け反る私の身体を横向きにして、片足を自分の肩に乗せた状態で深く素早く腰を打ち付ける。
ゆさゆさと律動と合わせて揺れる胸を揉みしだき、先端に善逸の舌が這ったと同時に咥内に含まれた。
其れだけでも意識を手放してしまいそうだというのに、重ねて秘部に紅く主張した突起物を指先で転がされる。
激しい快感の連続で力が抜けてしまった私に抗う気力は既に無く、ひたすらに布団にしがみ付いて甘い声を溢し続けた。

「なまえ……!」

善逸から与えられる猛烈な刺激の連続はまだ終わりを見せない。
横向きで貫かれた私を再び仰向けに寝かし付け、両の太腿を掴んで少し上から抜き差しを繰り返す。
私と善逸との結合部分から生まれた淫らな水音と、肌と肌が打ち付けあって甲高く奏でる音が混ざり合って、欲に煽られた私達は舌を絡ませながら互いを求め続けた。

「んあっ、……あ、ふあっ、ああ……っ」

「……っ、なまえ、俺、もう……っ」

再び初めて挿入を許した体位で流れる動作で抽挿を繰り返していた善逸が、蕩けた瞳で私に訴え掛ける。
行為が加速するに連れて肥大していった彼のモノは、絶頂を間近にして内壁を更に拡張していった。
私は眉根を寄せて険しくも切な気な表情を顕す善逸の背中に腕を回して強く抱き締めた後、さらさらと揺れる金糸に触れながら耳元で優しく"いいよ"と囁いた。

「んああっ」

「……あっ、……っ」

挿入を始めて一番の速さの抽挿を数回重ねた後に私に覆い被さり、そして機械が止まった様に善逸が微動だにしなくなった。
少し間を置いて小刻みに身体が震えた事を確認した瞬間、私の膣内に熱い液体が複数に分けて注がれていく感覚と、同時に善逸のモノが上下に蠢いて肉壁を刺激する感触が襲い掛かる。
暫くして額に汗を伝わせて息を切らす善逸が静かに起き上がり、幸福感に満ち溢れた満面の笑顔で私に口付けをした。

「ね、なまえ。さっき我慢しなくていいって言ったよね?」

「言ったけれど……。ぜ、善逸……?あ、あの、えっと、そろそろ収めているモノを」

「だあめ。ていうかさあ、分かるよね?俺のさ、全然萎えてないの。萎える気配も無いみたい。だからさ、鎮まるまで付き合って。ね、此れも妻の務めだよ?其れに、約束したもんね」

上気を帯びた頬と潤んだ瞳と荒い息遣いがふんだんに色香を漂わせて、肉壁に纏わり付く膨張したままの善逸の自身が膣内でぴくぴくと蠢き出した。
ゆるゆると腰を動かし始めて、意思を漲らせた強い眼差しの琥珀の瞳が近付いてくる様を呆然と眺めながら、私はとても遅くそして激しい後悔に苛まれる事になるのだった。


「……ん」

重い瞼を開くと眩しい朝日が室内を明るく照らしていた。
ああ、やっぱり、こうなる事は完全に予想出来ていた。
ゆっくりと起き上がると下腹部と腰に鈍痛が襲い掛かり顔を歪める。
大きく溜め息を付いて隣に目を向けると其処に善逸の姿は見当たらず、私は何処に行ったのかときょろきょろと周囲を見渡した。

「あ、居た。え、何……?」

縁側で座る善逸の隣に腰掛け話し掛けようとした瞬間、ぼろぼろと涙を溢す姿が目に飛び込んで掛ける言葉を失ってしまう。
身体を震わせながら小さく声を洩らして泣き続ける背中に優しく手を添えて、私は宥める様に彼に声を掛けた。

「善逸、何かあったの?」

「じ、爺ちゃんからさっき手紙が届いたんだ」

「祖父から?」

視線を善逸の手元に向けると、握り締められてぐしゃぐしゃになった紙が目に飛び込んだ。
そういえば祖父に手紙を書いたと昨晩話していた事を思い出した私は、此処まで号泣してしまう程にさせる内容に興味津々になる。

「なまえ。俺、絶対に幸せにするから」

「……え?」

"はい"と手紙を差し出した善逸の表情が、ぐちゃぐちゃに涙に濡れた泣き顔と一緒に喜悦と幸福感で満ちた笑顔を見せた。
手渡された手紙を丁寧に開いて連なる文字達に目を向けると、私も善逸と同様に大粒の涙が零れ落ちる。

「……善逸。近い内に必ず会いに行こうね」

「うん、一緒に爺ちゃんの所へ帰ろう。俺達の家族が首を長くして待ってる」

霞む視界の中、朝日で更に光り輝く金色を有する恋人との抱擁を交わしながら、涙で濡れた互いの頬を擦り寄せて来たる再会の日を夢見て笑い合った。


桜に幕
3月の20点札。
"菊に盃"が揃うと、"花見で一杯"の役が出来る。


END
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