Innocent love

Innocent love 日番谷冬獅郎篇


この世界に来てどれ程の歳月が流れただろう。
過ぎ行く時間を気にする事もままならず、日夜多忙な日々を過ごす。

死神になったと同時に様々な感覚を麻痺していくのが分かった。
切り殺す事の罪悪感、生死に関しての意識の欠乏。

苦悶に満ち苦痛に塗れても、俺は歩み続ける。
こんな俺でも何かを救える事があるだろうから、其れを糧に。



「日番谷隊長!任務終了致しました」

「ああ、ご苦労」

だけど何時からだろう、死に対して恐怖心を抱くようになったのは。
一体、何を切っ掛けに臆病になってしまったのだろう。

何一つ怖いものなんてないと思っていた。
今の地位にそんなものは必要無い、其れこそ自身を滅ぼしかねないというのに。



「はい、隊長」

悶々と考え込んでいると、見つめていた先に置かれた俺専用の湯のみ。
薄緑色の液体の中に眉間を寄せた自分の顔が映り、俺はどれだけ悩んでいるのだと小さく溜息をつく。


「有難うな」


俺は目の前に立つなまえを見ずに、そのまま茶を啜る。
適度に冷まされた茶の温度に、彼女の優しさが垣間見れた。

「隊長、いつも眉間寄せて疲れませんか?折角の可愛い顔が台無しですよ?」

「……五月蝿え、ほっとけ」

……そういえば、俺は何時から常に気難しい表情を見せるようになったのだろう。
自分でも解らない、何を俺をそうさせたのか。

何口か茶を含んで湯飲みを置く。
ふと周囲に気を向けれは互いに口を開かず沈黙に包まれた部屋、余りにも静か過ぎる空間に何となく気まずくなり俺は更に眉間の皺を寄せた。

「…何か話せよ」

こんな至近距離になまえは居るのに、一言も話さず俺を凝視されていては落ち着かない。
俺は自分から話し掛けられるような男じゃないから、陽気なお前の言葉を待つしかない。

どんな事でもいい、お前と少しでも話がしたい。



「……隊長が好きかも?」

「…………は?」

……何で疑問形なんだ。
自分でも解ってねえのか、どんだけ鈍いんだよお前。

「……変な奴」

だけど、嬉しいと思った。
何時だって俺はお前の表情一つで心が揺らぐ。



「あ、隊長笑いましたね、やっぱりその顔が一番似合いますよ」

「……五月蝿え」

表情豊かになるのは、確実に生まれた愛情の証。



「……お前の前だけだ」



なまえが居れば、俺は心を失わずに済みそうだ。

END

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