「明日からまた出かける。4日には必ず帰るから」
「うん。わかった」

朝食を食べているとニールは真剣な顔で私に向かってそう言った。
4日には私とニール、一緒にする仕事があるのだ。共に行動するのは久しぶり。ペアを解消してからは初めての事。

「またパーティーに潜入だね」
「ドレスは前のと同じのを着るのか?」
「そのつもりだけど、どうして?」
「あれ似合ってたから、また見たい」
「え、本当?ありがとう」

そう言えば初めてパーティーに潜入した時もエントランスで彼は私を褒めてくれた。
それは鮮明に覚えている。



そしてニールが出かける朝。
私は珍しく一睡もせずに彼を待ち構えていた。
こっそり作っておいた朝食と、行きで小腹が空いた時に食べるようにとサンドイッチ。
それを用意してキッチンでうとうとしていると何も知らずに現れるニール。
私を見て驚いている。

「今朝の4時前だけど」
「起きてたの。それより、はい」

半分寝ている頭を必死に動かして立ち上がり、彼にお弁当を渡す。
そして朝ごはんも指を指して食べろと促す。

「いってらっしゃい。それだけ言いたくて」
「…ありがとな」

ニールは嬉しそうに私の頭を撫でて、いつもの席に座り美味しそうに朝食を食べている。
それをしっかり自分の目で確認する。
そろそろ寝ないとダメみたいだ。

「おやすみ、ニール君。気をつけてね」
「ん。おやすみ。いってくる」
「うん…いってらっしゃい」

いってらっしゃいといってきます、この挨拶って大切なんだなと知った。言えただけで、聞いただけでなんとなく安心するから。
彼の帰りを待っていて良いってことでしょ?



ニールに会えなくても、携帯端末での通信は普通に出来ることを知った。
なんとなく、寂しい夜に電話をしたら通じたのだ。
その時、彼は私に何かあったのかと思ったらしい。電話口の彼はとても慌てていて。
うしろから「どうしたんだい?」と若い優しそうな男の声が聞こえた。

ただ電話してみただけで、通じるとは思わなかったと言うとニールは安心して大きなため息を付き、でも電話が嬉しいと言ってくれた。
だから毎晩とはいかないけど、寝る前にニールと電話することが多くなった。

「こんばんはニール君」
「もうそんな時間か」
「何してたの?」
「今はベッドで読書してた」
「邪魔した?」
「いや。大丈夫」
「それより、明後日何時に帰ってくるの?明日は休みなんだけど、一緒に過ごせないね…残念。
明後日のパーティーは夜7時からだけど、間に合う?大丈夫?」
「じゃあパーティーの日、昼前には帰れるように言っておくよ」

そう、とうとう明後日が4日。
つまり一緒にパーティーへ潜入する日なのだ。今から帰ってくるのが楽しみでもあり、任務を失敗しないか心配でもある。

「迎えに行こうか?」
「いや。いいよ」

ニールって本当、どこで何をしてるんだろう?知ってしまったらきっと私はあのティエリアに殺されるんだろう。

「じゃあ、待ってるね」
「おう。昼飯よろしく」
「ふ、わかった」

もう明後日のお昼は何を作ろう?と頭の中はその事でいっぱいだった。



明日はニールが帰ってくる。
今日は特に予定もない日だし、明日の昼食の買出しとパーティーの準備をして過ごそう。
そう決めて起きたのは既に11時近くになっていた。
お腹を空かせたニコに餌を与え、適当にメイクをして買い物へ。
いつもの市場で物色していると以前、世話になった老夫婦がちょうどレジに並んでいた。

「あら、今日は彼と一緒じゃないのね」
「はい。仕事で。明日帰ってくるんです」
「まあ。だから張り切ってるのね」

おばあさんは私の買い物カゴを指さす。 
確かにいつもより多めに買っている食料。持つのがやっとだ。もちろんじゃがいも多め。

「そうだ。じゃがいも料理でおすすめってあります?」
「んー、そうねえ。カボチャとじゃがいもとピーマンとトマト。それとチーズを一口サイズにして一緒にオーブンで焼くのが私は好きよ。簡単だけど、トロトロのチーズと野菜が合うの。とても美味しいわ」
「やってみますね。彼、じゃがいも好きで」

思いのほか話が弾んだ。
今までずっとこの市場に来ていたけど、こんなふうに仲良くなるなんて初めて。
それはニールがきっかけだ。やっぱり彼は人に好かれる魅力を持っているんだと思う。


いつもより重い買い物袋を今日は1人で家まで運ぶ。いつもならニールがひょいっと持ってキッチンまで運んでくれるんだけど、今日はそうはいかない。
両手に荷物で、足元をうろつくニコを蹴ったり踏んだりしないようにしながらキッチンまで行くのは地味に大変だ。

「はあー、つかれた」

どさりとキッチンの床に袋を置いて、近くにあった椅子に腰掛ける。
買ってきたペットボトル飲料を取り出し一息つく。
その瞬間、うしろから大きな男の手で口を塞がれた。

「動くな 」
「!?」

誰?!
私命を狙われるような事してる?と考えたらキリがないほど身に覚えがあった。混乱の中振り返る。
殴りかかろうとして、でも相手の顔を見て呆気にとられた。

「ニール君!」
「ははは、バレないもんだな」

そこに居たのはニールだった。
思わず椅子から降りて彼に抱きつく。
「おおっ」と驚いた感じのニールはそれでもすぐに抱きしめ返してくれた。
懐かしい。ニールの匂い。


「馬鹿。危うく殺す所だった」
「ははは!流石だな。悪い悪い。驚かせたくて」
「普通に現れても驚くよ」

だって、帰ってくるのは明日のはず。

「早く帰らせてもらったんだ」
「そうなの、」
「早く会いたかった」

そう言って抱き締める腕にぎゅっと力を込めるニール。
思わず泣きそうになる。
誤魔化すかのように私も力を入れる。
そのまましばらく抱き合って、お互いさみしさを埋めた。


「おかえりニール君」
「ただいま、ナマエ」








back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -