リヴァイさんの食事の取り方はとても綺麗だった。
綺麗、というか、慎重というか。
ゆったりとした動作がまるで貴族の食事風景のようだった。
実際に見たことがないから単なる妄想だけど。

途中、それはきっと利き手ではない方で食べているからなんだと気がついた。
彼は左手で器用にスプーンを使っている。
それが違和感がなかったから気がつかなかった。

右手の指が欠損していたことを忘れていた。
きっと彼はその傷が出来てから、左手を使うようになったんだろう。
それはそんなに昔のことではないと思う。

だから慎重に左手を扱っているんだ。

「前は右利きだっだですか?」
「ああ。だが変えた。めんどくせえからな」
「やっぱり利き手じゃない方を使うのって、大変ですか?」
「…まあ、最初だけだ」
「リヴァイさんは器用そうだから、なんでもそつなくこなしちゃいそう」
「そうでもねぇよ」


彼は盛った分のシチューとパンは全て食べてくれた。
男性だからと大目に作って、鍋に余っているシチューは明日の朝ごはんにしよう。


皿は自分で洗うと言って聞かないので、リヴァイさんにお願いする事にした。
彼はプロですか?と聞きたくなるほど皿洗いが上手かった。何をもって上手いと言うかは不明だが、少ない洗剤と水で洗い場を水浸しにすることもなく短時間で皿を全てピカピカにしてくれた。

さて、問題は寝室までの道のりである。
いつもは気にしていなかった普通の階段が遠くに聳え立つ険しい山の様に感じる。

リビングのソファに座って食後の紅茶を啜っているリヴァイさんの横に腰掛けた。

「…リヴァイさん」
「なんだ」
「階段って登れますか?」
「……肩を借りてもいいか」
「もちろんです!いくらでも貸します」

良かった。
どうやら2階に上がるのは不可能ではないらしい。


肩をいくらでも貸すとは言ったものの、実際にリヴァイさんと触れ合うと全身が一気に沸騰したように熱くなった。
私の肩に回された彼の右腕は重い。そして私の左側とリヴァイさんの右側はくっついている。
彼と触れ合っている部分が特に熱くて、そこからバターみたいにじわじわ溶けていくんじゃないかと錯覚した。

リヴァイさんは自身の左手で階段の手すりを掴み、私に支えられながら登る。思ったよりも私が楽だと感じるのは、彼が頑張っているからだろう。
申し訳ない。

「リヴァイさん、あの、普段も階段使うんですか?」
「ああ。階段ならそこら中にあるからな。うちの中にはねぇが…」

たしかにこの街中にも高台の方や少し地盤が低くなっている土地にはちゃんとした階段が出来上がっている。
いつも誰かにこうして支えてもらっているのかもしれない。それは一体誰なんだろう。
女の人じゃありませんように。

「この、すぐそこの部屋です」

上まで登り切って仕舞えば後は楽勝。
リヴァイさんはするりと私から離れて客室の扉を開けた。真っ暗な部屋の中をずかずか進んでいく。

「リヴァイさん待って!たしかこの部屋、段差が……ぎゃっ!」

可愛くない悲鳴をあげて、段差に躓いたのはリヴァイさんではなく私だった。
慌てていたせいでリヴァイさんの胸元へダイブする。
あ、終わった………と思った。

そのまま私たちは後ろにあったベッドに倒れ込んだ。
リヴァイさんが私を抱きとめてくれたおかげで衝撃は軽かったが、そんなことよりも自分の失態に赤面した。

「すすすみませ、ん…!!!」
「おい、ちゃんと足元確認して歩け…」
「そうですよね!」

リヴァイさんが「大丈夫か?」と囁いて、ゆっくりと私の背中を撫でた。
心臓が、心臓が破裂しそうだ。

どうしたらいいのか分からない。
でも、彼への想いが私の中からとろとろと溢れてしまう。

「好きです…リヴァイさん」

彼は目を見張って私を撫でていた手を止めた。

「好きなんです…わたし、どうしたらいいですか?」

そっと、壊れ物を触るかのような手つきでリヴァイさんが私の頬を指先でなぞった。

「どうしたら良いかなんて、自分で考えろ」

そう言ってリヴァイさんは私に優しいキスをした。
一瞬だった。
だから私はその出来事がすぐには信じられなくて、目をぱちくりさせてみた。
フッと笑われた。

「好きです………」
「ああ、さっき聞いた」

今度は私からキスをした。
そして見つめ合ってもう一度リヴァイさんから。

幸せすぎて怖くて、彼のシャツをぐっと握った。







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