「ここって紅茶を淹れてもらうこともできるんですか?」

壁に貼ってあるちょっとしたチラシを見つけた少女が、目をキラキラさせて振り返る。
開店したばかりの時に町中に配った案内のチラシで、ちょっとしたカフェスペースも紹介しているものだ。
私は「大丈夫ですよ」と言ってテラスを指さした。

「あそこで飲めるんです。少しですけど、ケーキもあります」
「ケーキ!ファルコ、リヴァイさん!ちょっと休んでいこうよ」
「俺は良いけど、リヴァイさんは?」
「…ああ。いただこう」


未だに茶葉を見比べている彼は、どうやらリヴァイさんと言うらしい。
珍しい名前だ。
でも彼に似合っていると思った。

少女がガビ。少年はファルコ。

3人とも髪色も間違えば目の色もちがう。
ガビとファルコは同い年くらいだろうが、リヴァイさんは二人よりも多分ずっと年上だ。
兄弟ではないだろう。
この3人の関係が気になる。


3人が店内でうろうろしている内にお茶の用意をする。
紅茶にうるさい人なんだろうし、人気の茶葉を選んだ。
そして趣味で頻繁に作っているケーキ。

砂糖がなかなか手に入らないから、フルーツを代わりにたくさん使うようにしている。
そうすればフルーツの甘味で十分美味しい。

基本、朝ごはんはケーキだし昼も作るのが面倒だとケーキにしてしまう。
今日はちょうど3人分は残っていた。
また作り置きしないと。



「あの、紅茶の準備ができました」

3人に声をかけると、また揃って外へ出てテラスの席へ座る。
リヴァイさんは座る瞬間は少し動作が鈍かった。
膝が悪いんだろうか。


「オレンジのケーキです」
「「うわぁ…!」」
「…」

2人が一心不乱にケーキを食べているところを、リヴァイさんは穏やかな目で見つめていた。
自分はひと口だけ食べただけだ。

「俺のも2人で分けて食え」
「ええ!?そんな、でも…!」
「リヴァイさんの分でしょう?食べてよ!美味しいよ!」
「腹いっぱいだ」


そんなやりとりを少し離れたところからぼぉっと見守った。
あんなに恐ろしいと思っていた人が、あの2人にはとても優しい。
まるで父親のようだ。
いや、まさか本当に父親ではあるまい。
謎は深まるばかりだ。


「おい、ナマエ」
「えっ、はい!」
「こっちに来い」

まさかの呼ばれた。
たしかに他のお客様もテラスで休憩している時、一緒に喋ろうなんて話しかけてくれるけど。
リヴァイさんは絶対にそんなことは言わないだろう。


「なんでしょうか。あ、紅茶おかわり、いります?」
「いや、いい。それよりこの紅茶の茶葉と、あと最初に紹介してくれただろう。その2種を買おう」
「ありがとうございます!今お持ちしますね!」
「ああ。頼む」


彼は少し濃いめのが好きなんだろうか。
おかわりはいらないと言っていたけれど、カップを覗けば全て飲み干されていた。

2人はリヴァイさんの分のケーキを結局半分ずつ分け合っている。
「慌てて食うからすぐ無くなんだよ」と彼が呆れたように呟いているのが聞こえた。


いいなあ。楽しそう。

店内に戻って先程言われた通り、2種類の茶葉を用意する。
紙袋に詰めてテラスへ運ぶと、3人ともぼんやり空を眺めていた。
遠くには山が連なっているのが見える。

小さな川や、そこにかかっている石造りの橋。
まだ舗装されていない小さな道。
たくさんの種類の木が自生している。
改めて意識すると、鳥の囀りがよく聞こえる。


「…良いところだな」

リヴァイさんがぼそりと呟いた。

「…ありがとうございます」
「また来る」

そう言って彼は立ち上がる。
ファルコがテキパキと車椅子の用意をして、彼はそこに座った。
紙袋はガビが受け取る。

「いくらだ」

リヴァイさんがそう言うと、ファルコがカバンから財布を取り出して支払いを済ませてくれた。
そうして3人はまたおしゃべりしながら(主にファルコとガビ)帰って行った。


久しぶりに羨ましくなるほど、素敵な人たちだった。輝いて見えた。

もちろん町のみんなも明るくて優しくて大好きだ。
けれど今日の3人には不思議な魅力があったのだ。
深い信頼、だろうか。愛、だろうか。
分からない。
けれど、私にとって彼らはとても眩しかった。

また、来てくれるといいな。
彼は「また来る」と言ってくれた。
それが今から楽しみで仕方ない。











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