出産予定日を過ぎて2日経った。
生まれる気配がなく、エースはもちろん元気がない。サボが励ましてくれるので、かろうじて平常心を保てているようだ。
それでも明らかに表情は暗い。
私を不安にさせないように、平然を装っているエースに不安を抱いてしまう。

医師は「2週間生まれなかったら少し危ないけど、まだ大丈夫だよ」と言っていて、3日目の今日は妊婦健診だ。
私は健診前にジェニーの家に少し遊びに行くと言って、着いて来ようとするエースはサボに任せて1人家を出た。

もし健診で何か悪い報告をされたら、エースが何を言い出すかわからない。「子どもは諦めよう」なんて言うかもしれないし、何も言わずとも心を病んでしまうかもしれない。

サボには心配しすぎだと言われたが、やはり本人の出生の話もあるし、心配せずにはいられないのだ。
今でこそ子どもが欲しいと思えるエースも、元は私と恋人になることさえ拒んでいたくらいだ。付き合いだしてからも絶対に避妊していたし、「子どもが欲しいならおれと別れてくれ」なんて言われて大喧嘩したこともあった。

だから出産時の立ち会いもエースにはさせないつもりだし、健診の内容も悪い知らせは隠すつもりだ。


「久しぶりナマエ」
「ジェニー、これ、お土産」
「ありがとう!ほんと嬉しい…!」

ジェニーへのお土産で持って来たのは採れたてのトウモロコシ。最近、離乳食を作り始めたがなかなか食べてもらえないらしい。
既に子どものいるベテランママさんたちのアドバイスによると、トウモロコシは甘いので食べてもらいやすいそうだ。

ヒゲ付きのトウモロコシを抱きしめ、ジェニーは玄関で小さくステップを踏んだ。

「どうぞ上がって!牛乳飲む?」
「いただこうかな」

レノルズさんの牧場からすぐに持って来た新鮮な牛乳はいつ飲んでも美味しい。エースもサボも毎朝はちみつを入れて飲んでいる。
イチゴを潰して入れるとさらに美味しい。

「健診は何時からだっけ」
「11時半。だからもう少ししたらお暇するね」

リビングに敷いてあるふかふかのカーペットの上で、ジェニーの子どもがうにょうにょと両手両足を動かしている。
何やら理解不能な言葉を発していて不思議だ。

こんなに小さな子どもが身近にいなかったせいか、なんだか不思議な気持ちになってじっと観察してしまう。


ジェニーは「最近はハイハイ出来るの」と言って、我が子を抱き上げる。それが嫌なのか腕の中の赤ちゃんはジタバタ暴れて泣きそうな声を上げた。

「すごく元気で困っちゃう」
「なかなか大変そうだね…」
「ナマエは男女どっちだろうね。男の子だったら親友になって欲しいし、女の子だったら恋人になっちゃったりして」
「あはは、それは面白いかも」

本当に夢に出て来た子のような、エースそっくりな娘が生まれたら果たして恋人なんて作るんだろうか。
男の子に混じって喧嘩でもしそうだ。


2人でおしゃべりをしていると、時間はいつもよりあっという間に感じる。エースがいない分、お互い旦那の小さな愚痴を話して終わってしまった。

「そろそろ病院に向かわないと」
「そうね、気をつけて」
「うん、よいしょ」

大きいお腹を支えるように椅子から立ち上がった瞬間、バツン!と何かが弾けるような音がした。
その瞬間に股の間からダラダラと生暖かい液体が滴り落ちる。

呆然としている私とは裏腹に、ジェニーが「破水じゃない!!」と叫んだ。

「は、すい……」
「生まれるよナマエ!ちょっと旦那呼んでくるからそこで動かないで!座っててね!」

ジェニーは我が子を抱えたまま、勢いよく家から出て行ってしまった。


生まれる。遂に、会えるんだ。
でもどうしよう。家は?エースは?
教えるべきだよね?でもどうやって…。

ドキドキしながら頭を巡らせていると、そのままの勢いでジェニーが帰って来た。

「ナマエ、今旦那に先生呼んでくるように言ったから。ここで産んで」
「こ、ここで!?」
「お客さん用のベッドがあるの。お義父さんとお義母さんも今来てくれるから、大丈夫」
「え、ええ…!?」

まさかこんな事になるなんて。
驚いている私の両手を支えて、ジェニーは客室へ案内してくれた。そうこうしているうちにレノルズさんの奥さんが現れ、お湯やタオルなんかを手際よく準備し始める。
レノルズさんは奥さんから「あれを持って来て」「これを買って来て」と次から次に命令され、慌てふためきながら家を出て行ってしまった。

「え、えっと、……ご、ごめんなさい」

レノルズさんの奥さんはきょとんとして、「当たり前のことをしてるだけだよ」と笑った。

「もちろんうちの男どもはいざ出産って時にはこの部屋に入れないから安心して」
「は、はい……ありがとうございます」

申し訳ない気持ちでいっぱいだが、とりあえず用意されたベッドに横になり、キョロキョロしていると自分の腹部辺りがキツく痛んでいる事に気がついた。
気がついた途端、その痛みに意識を持っていかれる。

革命軍時代は大怪我をたくさんしたのに、初めて経験するこの謎の痛みには耐性がないのだ。

「ぅ、いた………いたい、」
「ナマエ!大丈夫だから!今先生着いたよ」

私はエースのことをすっかり忘れ、ただ今この瞬間を必死に乗り越える他無かった。







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