エースと共にリンゴの木の余分な葉っぱを摘み取る作業を終え、市場で魚を買ったのち家に戻って驚愕した。
先ほどベッキーさんからだと言ってリジーから貰ったワインの中身が無くなっていたのだ。

「……エース、飲んだの?」
「えっ、あーーー、美味そうで、つい」

せっかくワインに合う魚のお料理でも作ろうと思っていたのに。空になったワインボトルを持って覗いて見る。一滴も残っていない。

「今日のエースなんだか変だよ?なんなの?」
「お、怒るなよ…」
「怒るよ!だっておかしいもん。何を隠してるの?」

いつもより強い口調でそう告げると、エースはムッとして押し黙った。何も答えてはくれなかった。

「悪かった…」
「だから理由を教えてくれたら良いのに、なんで何も言わないの?」
「今は言えない」
「なにそれ…どういうこと?」
「もう少ししたら、話すから。今は許してくれナマエ」

エースがとても切なそうな顔をして私を抱きしめた。そんなことされてしまえば、嫌でも許してしまう。こんなにもエースに惚れてしまっている自分が情けないと思うほどに。



なんとなく二人に気まずい空気が漂う中、2日が経った。あいにくの雨で出かけることも面倒になり、部屋に篭りきりだ。雨のせいか眠たく、うたた寝ばかりして1日が過ぎていく。
エースはあれからお酒を飲んでいない。
だから私も飲んでいない。

よく晩酌をしていたのだが、それもしなくなってしまった。

窓の外は土砂降り。
真っ黒な雲が広がり、まだ17時にもなっていないのに夜みたいに暗い。こんな日は気分も落ちてしまう。


「エース、そろそろ夕ご飯作るけど、リクエストある?」
「んーー…ハンバーグ」
「分かった」

時々現れる子どもみたいなエースの仕草や発言に、自然と笑みが溢れてしまう。リビングのソファで新聞を顔の上に被せて寝ぼけているエースは、ちゃんと意識があって今の発言をしたのかちょっと怪しい。

もちろんエースはハンバーグとパンだけでは満足しない。こういう時はパスタが便利だ。
エースの希望で畑で作ったハバネロを微塵切りしてニンニクと一緒にオリーブオイルに漬けてある。それで作るペペロンチーノが美味しい。

いつものようにハンバーグを焼いている時だった。
良い香りが漂ってきたと思った瞬間、ほぼ同時にとてつもない吐き気に襲われた。口元を押さえて慌ててトイレに駆け込む。
たまらず嘔吐して、目から勝手に涙が溢れた。

訳もわからず吐き気に耐えていると、背後でバタバタと足音が聞こえてエースが現れた。

「ナマエっ!大丈夫か!?」
「っ、え、…す」

船酔いや風邪を引いた時とはまた違うような、不思議な吐き気の感覚だった。自分に何が起きているのか分からず一気に不安になる。
涙を流しながらエースをちらりと見ると、「持ち上げるぞ」の言葉と同時に軽々と横抱きにされた。

いつもエースのぬくもりは私を安心させてくれる。
少しだけ気持ちが落ち着き、「気持ち悪い…」と呟けば「分かってる」と素っ気ない返事がかえってきた。

寝室に連れて来られ、そっとベッドに寝かされた。
気がつけば雨は上がっていたのか、エースが窓を開けると涼しい風が部屋に流れ込み、呼吸がらくになる。

「エース…?」
「明日、すぐ病院行くぞ」
「えっ、でも、」
「いいから」

久しぶりの体調不良に自分でも驚いていたが、病院に向かうほどの症状ではない。いくらエースが心配性だからって…。
革命軍本部に匿われていた時、サボとエースはどちらが多く酒を飲めるか、なんてくだらない勝負をして、2人して吐くまで飲んでいたことを思い出した。

「ただ気持ち悪くて、吐いただけだよ…」
「おう」

またしても素っ気ない返事。
なんだかやっぱりいつもと違う。
こんな時まで私の気持ちをもやもやさせる。

「エース…っ」

けれど何と言って抗議したら良いのか分からず、泣きながら名前を呼んだ。
彼の着ていた真っ白いシャツの袖を掴む。
行かないで、もっと優しくして。
前みたいに……。
私のことで一喜一憂して、エース。

「大丈夫だ、ナマエ」
「…」
「明日病院に行けば分かるから」

エースが優しい眼差しで私を見下ろし、頭を撫でてくれた。
そうだ、彼は彼なりに心配はしてくれている。
病院に行こうと言ってくれたんだ。

けれどなぜこんなにも冷静で、静かなんだろう。


ぐるぐると考えていると、ふかふかのベッドのせいか眠くなってきてしまった。

「夕ご飯…」
「適当に肉でも食うから大丈夫だ。ナマエは…とりあえず寝てろ」
「…う、ん」

猫の額を撫でるみたいな手つきだった。
エース特有の熱い体温。手の甲が私のおでこを撫で、ゆっくり離れた。

「おやすみ」

その言葉を聞いた後、すぐに意識は遠のいてしまった。







back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -