エースは私が好きだと言った。
そんなの反則だ。
何で今言うのだろう。

だって私、ちゃんと今の彼氏のこと好きなんだ。


私を大事そうに抱きしめてくれる腕。広い背中に触れるとじんわりあたたかかった。
手放すのは名残惜しい。けれど、私は今の恋人をそんな簡単に嫌いになれない。つまりエースとは……


「……ごめん、エース、私……」
「分かってる。だから、ずっと待ってるつもりだ」
「…え?」
「ナマエが今の彼氏と別れて、おれのこと恋愛対象に見れるまで待ってる。いや…、意識してもらえるように努力する」
「そんな………!」

背中に回されたエースの腕が更に力を込めて、私を決して離そうとしない。こんなの浮気じゃん。
脳裏に浮かぶのは彼氏だった。
そしてエースに対する憎しみのような、悲しみのような感情。

「今更すぎるよ…どうして今なの」
「ナマエに彼氏が出来てから気づいたんだ。おれは、アイツが他の男と喋ってても何も感じなかった。けどな、ナマエが嬉しそうに彼氏の話したり、実際彼氏と話してる姿見るのは耐えられねェんだよ…!」
「……」

苦しそうにエースは言葉を吐き出す。
そして遂に私から離れた。

「今日はもう、帰る」
「う、うん」
「明日から覚悟しとけよ」
「う、うん……?」



拒まなきゃいけないと分かりつつも、拒まずにいる。
「覚悟しとけよ」なんて発言をしたくせに、今までとさほど変わりのないエース。お互いに空いた時間が合えば一緒にカフェに行った。
そして他愛もない話をする。
けれど僅かに変わったこともある。

電話の回数が増えた。
夜、なんだか眠れない日に限ってエースから電話が掛かってきた。監視カメラでも仕掛けられているのかと疑うくらい、タイミングがいい。

「今なにしてる?」「ベッドでスマホいじってた」「つまんねーな」「じゃあエースは?」「おれは弟と今まで昼寝してた」「それ昼寝じゃないし、明日の朝起きられるの?」「今夜は寝ねェから大丈夫だ」「どうせ授業中寝るんでしょ」「そりゃあそうだ」「なにそれ」

ふふふ、と小さく笑う。
エースとの電話はそんな感じ。じんわりと幸せを噛み締めるような時間だった。



気がつけば私の中で、1番は彼氏ではなくエースになっていた。当たり前なのかもしれないけど。自分が浮気性な気がして、彼氏と別れてからもそれを秘密にしている。
いつエースに言い出せばいいのか分からずにいた。

「おまえ最近ダイエットやめたのかよ」
「うん…そう……」

細い子が好きだと彼が言っていたから、ずっと続けていたダイエット。結果、3キロほど痩せる事に成功した。
けれど彼と別れた今、無理にダイエットする気にならない。それに前世のエースは私のむちっとしたお腹を揉んでは「これが良いんだよ」と幸せそうな顔をしていた。

チーズたっぷりのハンバーガーを口いっぱいに頬張る私をじっと眺めて、エースは「彼氏と喧嘩か?」なんて見当違いな発言をする。

「彼氏かぁ……」

いつ言おうか。別れたことを。
そしてやっぱりエースが好きってことを。
ずっとずっと前から、エースが大好きだと。

「エースは、その…まだ私のことが好きなの?」
「当たり前だろ」
「ほんと?」
「本当。今だって可愛いと思って眺めてる」
「……あ、ありがと」
「鼻の頭にケチャップつけて照れてるナマエがめちゃくちゃ可愛いと思ってる」
「ええっ!?嘘!」

慌てて鼻をペーパーナプキンで拭うと、確かにケチャップがついていた。顔を赤くする私を見てエースはケタケタ笑う。

あぁもう大好きだ。
私はまたエースと出会ってエースに恋してしまった。前世でも今世でもこいつのせいで悲しくつらい夜を過ごしたと言うのに、やっぱり好きな気持ちは変わりはしない。
胸が焼けるように熱くなる。


「…エース、あのね」
「ん?」

目の前のエースは、一回ぱちっと瞬きして私を見た。
ちゃんと私の話を聞こうとしてくれている。
頬杖をついて、口角をほんのり上げている。
海賊だった頃のエースと重なって見えた。

「私と付き合うんだったら、一生、死ぬまで一緒にいてくれなきゃ駄目」
「……へ?」
「浮気は絶対許さないし、早死になんてもってのほか。結婚式は盛大にしたい。ペット飼いたいし子どもも欲しい。賑やかに暮らしたい。でも、おばあちゃんとおじいちゃんになったら、静かに2人で、仲良く生きていきたい……」

前世では叶わなかった夢。
ここでは叶うのだろうか。叶わなきゃおかしい。
だってきっと、私たちはそのためにまた再会出来たんだと思う。


「…全部、約束守ってくれるなら、付き合ってあげても良い」

恥ずかしさと脳内パニックで、なんとも可愛くない台詞を言ってしまった。まともに目の前のエースを見れない。居心地の悪さに俯いて黙った。
店内のBGMと周りの話し声がうるさい。

「…彼氏は?」
「とっくに別れたよ」
「…つまり、おれと付き合ってくれるってことか?」
「……うん」

いつもと変わらないエースの声色。
ドキドキしながら返事を待った。握った両手は手汗でベタベタ。自然と涙が出そう。


「…よっしゃあぁぁぁぁ!!!」
「え!?」

ガタン!と立ち上がったかと思えば、エースはガッツポーズしてその場で叫んだ。店内でだ。
もちろん周りは一瞬静まり返り、エースは注目の的。
何が起きたか私も理解できず、ただポカンとするしかない。

「ナマエ!」
「は、はいっ?!」

名前を呼ばれて我に返る。
これはやばいやつだ、と前世を知る私は察した。

エースが屈んで私の両頬を大きな手で包み込む。
嬉しそうな顔が一気に近づいて来て、なんの予告もなく勢いの良いキスをされた。
鼻と鼻がぶつかって、エースの勢いに椅子から落ちそうになった。

周りからヒューヒューと囃し立てる音が聞こえる。
「いいね!」「若いね!」とも。
だんだん事態を把握して、サァっと血の気が引いていった。

無理矢理エースを引き剥がし、食べ終えたゴミとトレーを片付けてそのまま外に出た。もちろんエースを引っ張り出した。

「ちょっと!公共の場であんな盛大にキスすることないでしょ!ありえない!」
「いやぁ、悪りぃ。つい」
「馬鹿!もうあそこの店恥ずかしくて行けないよ…!」
「んじゃあ新しい店開拓しようぜ。最近同じ店ばっかりだったし」
「あ、それいいね…じゃなくて!!」
「ははは!」

エースが笑う。
私も釣られて笑ってしまった。

良いんだか悪いんだか、エースのこういうところは昔から変わらない。
私を好きになってくれたところも。


「…さっきの約束」
「え?」

エースが立ち止まった。
私は振り返る。

「絶対に守る。だから、ずっと一緒にいようぜ」

ニカッと笑ったその顔が、なぜか泣きたくなるくらい愛おしく思えた。
だからエースの元まで戻って、自分から抱き締める。もう離れないように。

「ずっと一緒にいる。エースと」
「おう」
「約束破ったら殺す」
「怖っ」

手を繋いで、いつも通り駅へと歩く。
これで今日はお別れかな。少し寂しいけど。
なんて考えていたらエースの進行方向がいつもとは違う道にそれた。

「エース?」
「せっかく付き合えたんだ。まだ2人で居ようぜ」
「!うん」

酒でも飲もうぜ、とエースは私を引っ張っていく。
エースの腕にぎゅっとくっついて寄り添った。
嬉しくて堪らなかった。


「おれが奢ってやるよ」
「ええっ!?万年金欠のエースが!?」
「一杯だけな」
「うわ、すごいケチ」

今世の私たちは、今始まったばかりだ。
また大きな喧嘩もするだろうけど、今度は絶対に最後まで一緒に居よう。きっとそのために私たちは出会ったのだから。





end








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